第一回 日本の人事の転換点1 1998年 (前後2年)

私は、1998年より、毎日のように日本企業の人事部門の部長やマネジャーに会ってきた。毎年300人以上。昨年2008年は、450社に訪問して話を聞いた。その時々の面談でのメモが書かれたノートはかなりの量になっている。

「アリバイとセレモニー」になっていった教育研修

1998年という年は、ウィンドウズ98が発売された年でもある。その年、国内の年間PC出荷台数はとうとう1000万台と突破し、現在まで続いてる。またその翌99年にはNTTドコモがiモードサービスを開始している。インターネットがどこの会社の中でも個人でも使われ始めた時期である。

つまり、この時期、コミュニケーション手段の大きな変化が起こったということだ。PCのみならず、携帯電話でもe-mailができるようになった。そうして、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの時間帯は減少していくことなる。

この時期、多くの企業のトップが、年頭の挨拶で、「情報化先進企業になる」といった言葉を口にしていると聞く。企業内では、PCが仕事の前提となり、従業員が無言でPCの画面に向かう時間が増加した。

その頃の企業内研修として、「情報リテラシー研修」が多く実施されるようになった。この頃の研修部門は、IT関連ではない普通の会社でもとにかく、PCの操作や使いこなし方といったことを教えるための企画を立て、その運営作業に拘束されることになる。

一方で、厳しいコスト管理のなか、通常の階層別研修などにはあまりお金をかけることができなくなった。

80年代までは、職能資格制度を支える「能力評価」の重要な要件として「階層研修」を受講することが含まれていた。つまり、研修は人事制度を支える必須要件だった。日本は、戦後、大量生産・大量消費の時代を長く続けて経済大国となった。その頃の研修も同じ研修を皆で受講するという大量受講方式、順番待ち研修であった。その時代はそれでよかったのであろう。

しかし、成果主義が導入されて、「結果だけを見るよ」となったときに、必ずしもすべての研修を全員に実施する必然性が薄れてきた。

そんなことから、この時期、選抜型研修が公然と取り入れられるようになる。

実際は、選抜的な研修は以前からあったのだけれど、人目につかないところで粛々と行われていたようなところがあった。しかし、「成果主義」の下、人に明確に序列をつける風潮が一般化してきたし、自社の採用ホームページに選抜研修があることを学生に公開し、これが既存社員に隠しきれなくなったということもあって、選抜研修に呼ばれるか呼ばれないかが、誰の目にも明白になったのがこの時期である。

去年、ある大手の電機メーカーの常務とお会いしたら、この10年間、教育・研修から目を離していたら、ひどい研修内容がたくさんあったことに愕然とした、とおっしゃっていた。人材開発部門に対して、経営陣は、やや野放し状態であったということのようだ。

ある企業では、選抜研修だからといって、選抜をかなり厳しくして、いわゆる2・6・2の、上位の「2」の部分に集中的にお金をかけた。結果、「6」にはほとんど教育らしい教育が施されておらず、その中間層が育っていなかったという話も聞く。

一方、「選抜研修」といっていたのだけど、毎年それを続け、過去の受講歴をみたら、結局管理職全員が受講していたケースもある。何のための、「選抜」だったのか、わからない状態だ。私は、それを選抜研修ではなく、順番待ち研修だと指摘した。つまりパケット通信教育。

また、「これからは経営のフレームワークの勉強が重要だ」「マネジメントじゃなくて、リーダーシップだ」と言って、コーポレートユニバーシティでそれに基づいた教育体系を作ったけれど、そこから新しいイノベーションは生まれず、企業の成長に貢献していなかったという話も珍しくない。

1998年という断層からスタートした教育・研修は、結局「アリバイとセレモニーの連続だった」と捉えると、その本質を理解しやすい。「人事は研修をきちっと企画実行しています」というアリバイづくりに終始し、「次世代を担う人を選抜して教育しています」というセレモニーに明け暮れた10年間だったのではないか。その結果、企業は何を得た、もしくは失ったのか、改めて考える必要があるだろう。

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第二回 日本の人事の転換点 2  2008年(前後2年)

第一回 日本の人事の転換点1 1998年 (前後2年)

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