- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
第一回目で、1998年(前後2年)に起きた、人事の「断層」について、考えてみた。 今回は、そこから10年を経た2008年(前後2年)に、「経営」「人事」「現場」それぞれで見られた変化、そしてこれから人事が直面していくであろうことを考えてみたい。
「株主至上主義の攻め型経営へ」
まず、2006年頃から、企業の経営スタイルが守り型から攻め型に変わってきた、という印象がある。
1997年、山一證券の自主廃業と、北海道拓殖銀行の経営破綻という、日本の企業にとって大きな事件が起きたわけだが、そこから10年、企業は事業の「選択と集中」を行ったり、経営統合などを進めながら、その力を取り戻してきた。
ただし、バブルの頃と決定的に違ったのが、多くのトップが株主至上主義に大きく舵を切り、そのことが経営に影響を及ぼすようになってきたことだった。
2007年、ある企業の社長が私にこう言ったことがある。
「楠田さん、社長の『しゃ』は、謝罪の「謝」だよ。早く会長になりたい。」と。
会社が株主対応に追われ、社長は事ある毎に株主に謝る、ということが常態化してきたことを物語るエピソードだ。
もともと、日本のサラリーマン社長は、1期2年で数期務めるというケースが多かった。80年代くらいまでは、できるだけ長く「社長」の椅子に座っていたいという人が多かったのかもしれないが、実際には「謝長」だとしたら長くやっているのは辛い。そんなことから、社長職に固執しない人も増えた。
それに加えて、「やはりこれからは若い人にバトンタッチするべき」といった外野からのプレッシャーも相まって、実はこの10年、日本の総理大臣もコロコロと代わったけれど、多くの日本の大企業の社長もコロコロと代わったのである。
「『ダブルスタンダード』経営が顕著に」
2006年頃というのは、経営者が社外に発信していることと、社内の実態が違うという「ダブルスタンダード」経営になっている企業が多い、と感じた時期でもある。
立派な経営理念があったとしても、実際の活動が、社会の常識やルールと乖離してしまっている企業が少なくなかった。
「コンプライアンス重視」と言っていたのに、経理上の不正が発覚する、ISOを取って品質管理をしています、と言っていながら不良品を出す、「人を大切にする」といっていながら、従業員をリストラして派遣社員に置き換えてしまう、など。
「経営理念」が策定されたとしても、トップがどんどん代わるという状況では、その理念に基づいた新しい企業文化の形成は容易ではないだろう。そこに「株主至上主義」という普遍的と信じられるようになった価値観が持ち込まれると、それが実質的な「錦の御旗」になっていく可能性は高い。財務や経理は当然株主至上主義に染まる。そして早晩、広報部門や、人事部門までが株主至上主義にひきずられていく。
相関関係をきちっと調査したわけではないが、トップの株主至上主義への傾倒と経営のダブルスタンダードは決して無関係ではなかったのではないだろうか、と思っている。
・「雇用延長」
団塊の世代のリタイア、労働人口の減少傾向を考えると、企業としては是非進めたい施策が「雇用延長」だった。しかし、賃金体系をどうするのかが課題となった。多くの企業の場合、60歳になったらこれまでの賃金体系を一度リセットして、雇用は継続するけれど、賃金は上がらないという仕組みを取り入れることになった。
・「非正規雇用者の増加」
非正規雇用者を増やすことで人件費の削減を目指し、それに成功した企業は多い。しかしその代償として、現場のマネジメントが上手くいかないという問題が表面化してきた。非正規雇用は2008年10月以降大幅に減少することになったが、現場でのマネジメントの問題はそのまま残されている。
・「多様性への対応」
「多様性/ダイバシティ」という言葉が浸透して、正規も非正規も、女性も、外国人も、多様な人たちを受け入れていく、というポリシーを明確にする企業が増加した。最近では更に、正規社員の中での多様性にも注目すべきである、という課題も持ち上がってきている。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ