第二回 日本の人事の転換点 2  2008年(前後2年)

第一回目で、1998年(前後2年)に起きた、人事の「断層」について、考えてみた。 今回は、そこから10年を経た2008年(前後2年)に、「経営」「人事」「現場」それぞれで見られた変化、そしてこれから人事が直面していくであろうことを考えてみたい。

現場で何が起きてきたのか?

では、現場では何か起きていたのか?

「スキルや志向のミスマッチ」

2007年だったと思う。ある企業の人事部長が、配属先を、内定式のときに通知してしまうことにした、と言った。理由を聞いてみると、最近、新入社員が1年目で辞めてしまうケースが増えたからだという。そのタイミングは配属先を言い渡された直後。「私が働きたかったのはその分野ではありません」といって辞表を提出してくるというのだ。だから、正式内定と同時に配属先を知らせて、すぐにその配属先の先輩をメンターとしてつけてしまう。そこで入社までじっくりフォローをしていくことにしたということだった。

これは一例だが、1998年から10年の間に、新入社員や中途採用者が、スキルや志向のミスマッチを理由に入社してすぐに辞めてしまうという傾向を耳にすることが増えてきた。詳しく話を聞いてみると、実は何故その人たちが辞めてしまったかについて、しっかりと検証されていないケースが多い。

人事部長に「何でそんなに辞めてしまうんですかね?」と聞いても、「いや、わからないんですよ。ウチはいい会社なのになー」といった具合だ。そして、「最近の若い者はわからない」で締めくくられてしまう。そして、その状態が実質そのまま野放しにされている。

2009年以降は圧倒的な買い手市場に戻ってしまったから、早々に辞めてしまう若者は減ったのかもしれない。しかし、「良し!」と判断して採用した人が早期に退職した、という事実の根本にある問題は変わっていないはずだ。本当は辞めたいけれど、このご時世で辞められないから「そこそこ」働いておこう、と思ってしまっている若手社員が隠れていないとも限らない。

「集団的エゴイズムに陥った利己主義的な社員の増加」

ただ、きちっと一生懸命働く、という意識が希薄になっている可能性があるのは、何も若手社員だけではない。

自社のビジネスの成長に限界を感じている社員が、短期的な成果を求められて、倫理観を失っているというケースが増えてきていると感じる。

会社の将来に疑問を持ちながら数字に追われているところに、「コンプライアンス遵守」を強く求められ、細かいルールを与えられると、「それなら会社が示すルールを形式的に守っていればいいんだ」という結論に達してしまう危険性がある。

そうなると、個々人の内面にある常識や道徳観に基づいて、ルールの文言の行間読んで行動することは期待できない。極端な話、会社が提示する「コンプライアンス・ルール」に書かれていないことはやっていいこと、となってしまう。「自分の利益だけを重んじる集団的エゴイズムに陥った利己主義的な社員」の登場だ。

また、「自分」を大事にするあまり、自分の「働き方の価値観」や「心の価値観」に固執して追及し、会社の中に「ユートピア」を探し求めてさまようという社員が増加してきたのも、この10年の特徴だろう。

「現場組織の疲弊」

この10年の間で、現場組織の疲弊が顕在化してきた、というのも見逃せない傾向だと感じている。

バブル崩壊の前は、基本的に最初に入った会社に生涯勤めるという考え方がマジョリティを占めていた。普通に頑張っていれば、課長になれる、部長になれる、給料も上がっていく、と報酬とポジションに疑いを持つことはなかった。

その頃にはキャリアという言葉はなかったと思うが、自分の定年退職までの道筋(キャリア)が見えていた。それは多くの先輩たちがたどってきた道であるから、その背中を見て仕事を覚えていけばよかった。

そして何より、当時は、机の上に一人一台のパソコンなどないし、職場にはパーテーョンンなどもなかったから、自然と目と目が合う。そこでは無意識のOJTが成立していたのだ。

今は、終身雇用の保証がなくなり、多様な価値観を持った人たちが入ってきている職場において、皆がディスプレーに向かって仕事をし、ちょっとした連絡もメール。自然に目と目があう機会など極端に減っている状態だ。無意識のOJTが自然に成立するという状況はもはや存在しない、と認識しなくてはならない。

それに加えて、バブル崩壊後の新卒採用の中断、非正規雇用者の大量採用などで、現場でマネジメントを学ぶ機会がほとんどないまま中堅になってしまった社員が出てきた。

彼らは、数年ぶりに入ってきた新入社員のマネジメントに戸惑う。管理職に昇進しても、様々な雇用形態と価値観を持つ部下の管理に神経をすり減らす。そして、最悪は鬱になってしまう、というケースも少なくない。

こんな状態だから、職場の中の組織力が著しく低下している企業がとても多い。

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