- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
今回は、戦略人事のあり方について考えてみたいと思う。 第一回目のコラムでも書いたが、1998年から毎日のように日本企業の人事部門の部長やマネジャーに会ってきた。毎年300人以上。昨年2008年は、450社、2009年も9月末の時点で、350社に訪問した。 その経験から直観的に感じているのは、今、企業の人事は、戦略的人事になろうと前に進んでいるところと、「モグラ叩き」人事になってしまっているところが二極分化しているのではないか、ということだ。 「モグラ叩き」人事というのは、目の前に現われてくる諸問題に対応するので精一杯になってしまっている人事のこと。そうならないための視点を整理してみよう。
そこで、2つ目のポイントは、「グローバル化」だ。
2008年の年頭訓示で、「グローバル化」を表明した企業が多かったし、実際に、グローバル人事部機能を作った会社も多かった。
この不況でややトーンダウンしたところはあるが、そうした組織が取り組んだのは、現地法人の雇用形態の棚卸と現地社員の処遇の整備だった。グローバル人事機能ができたのは昨年だったとしても、多くの企業は70年代くらいから海外には進出していた。つまり、20年から30年の間、海外拠点の人事がどうなっているかブラックボックスだったというわけだ。
そこで、そのギャップを埋めていくために、日本人社員をグローバル人材にしようとする企業、現地法人のコア人材を育成してグローバル人材にしていこうという企業、それらを融合してやろうという企業、選択は企業毎にそれぞれだが、日本企業が「人材のグローバル化」に本気で取り組もうとし始めているのは確かだと思う。
そうした動きの今後を占うにあたって興味深い話がある。
21世紀の夜明け、2001年頃に、トヨタ自動車がグローバル人事部を作った。ほぼ時を同じくして、デンソーもグローバル人事部を立ち上げた。しかし、両社とも、2009年の現在、「グローバル人事部」は存在しない。キヤノンでも、ほぼ同じ動きがあったと聞いている。
これが何を意味するのか?
最初は、「グローバル」という名称をはっきりと示すことで、本社が本気で人材のグローバル化に取り組むのだ、ということを宣言しておいて、実際にその考え方が浸透したところで、その言葉をはずした、ということだと思う。通常の人事が、既にグローバルであるのが当たり前、ということだ。
観察していると、うまくいっている企業では、大体5年くらいで、「グローバル」という言葉をはずしている。となると、6年以上もずっと「グローバル」とつけている企業は、実はグローバル化の浸透がうまくいっていないと見ることもできるかもしれない。
2008年にグローバル化を掲げた企業の人事が、2012年頃にどうなっているか、興味深いところだ。
では、5年後に成功するためにはどうしたらいいのだろう。
実際に、新しくできたグローバル人事部に訪問することは少なくない。その中で、「グローバル人事」なのに、部員が全員日本人、というところがある。そして、そうしたところのグローバル人事部長と話をしていると、ほとんど日本での人事管理の話しかでてこない、ということもある。
そうした人のキャリアを聞いてみると、確かに2年から5年くらいの海外赴任の経験はある。しかし、そこでの業務は、結局、その国に出張した日本人社員の世話であったり、他社との交流も日本企業の駐在員とばかりだったりして、ほとんど英語も話していないし、現地のネットワークもできていないというケースが少なくない。
そうした状況に危機感を持っていないとしたら、5年経っても「グローバル」という言葉を外すことはできないのではないかと思う。
いきなり、外国人を人事部長にするのは難しいかもしれない。しかし、課長レベル、メンバーレベルでは積極的に外国人を取り入れていくことを真剣に考える必要があるのではないか。それも、日本に留学をしてきて、日本文化を理解して好意的な人ばかりではなく、現地法人採用のコア人材を積極的に取り入れていくことも必要だろう。
そのように意識を転換して、実際に思い切った行動に出ることができるか。「グローバル化」を標ぼうしている企業の人事としての真価が問われるところだと思う。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ