第四回 戦略人事のあり方の視点

今回は、戦略人事のあり方について考えてみたいと思う。 第一回目のコラムでも書いたが、1998年から毎日のように日本企業の人事部門の部長やマネジャーに会ってきた。毎年300人以上。昨年2008年は、450社、2009年も9月末の時点で、350社に訪問した。 その経験から直観的に感じているのは、今、企業の人事は、戦略的人事になろうと前に進んでいるところと、「モグラ叩き」人事になってしまっているところが二極分化しているのではないか、ということだ。 「モグラ叩き」人事というのは、目の前に現われてくる諸問題に対応するので精一杯になってしまっている人事のこと。そうならないための視点を整理してみよう。

人事部の地盤沈下

さて、ここから、戦略人事へ初めの一歩に必要なことを整理していこうと思うが、その前に、今人事部が企業の中で置かれている状況を共有しておきたい。

始めに結論を言ってしまえば、いわゆる管理部門の中で、人事部の地位は下がっているのではないか、ということだ。

まず、2000年に入って、米国会計基準が日本企業に大きな影響を及ぼし、上場企業の四半期決算報告書も義務化された。また、キャッシュフロー経営がますます注目される中で、財務・経理部への注目度が上がっていった。

また、法務部も、法令順守が叫ばれるようになって、いつの間にか「コンプライアンス部」になり、更に「CSR部」へ格上げになっていった。

広報部は、外部のメディア対応だけではなく、ステイクホルダーや社員に対してもきちっと広報するべきだということで、「コーポレートコミュニケーション部」へ。

電算室は、企業経営へのIT活用が必須になるなか、情報システム部となって、会社全体のインフラ作りを期待されている。

そんななかでの人事部は、多くの場合、今も制度と法律に埋もれてしまい、置き去りにされてしまっている感が否めない。外から見ていると、結構はっきりとわかるのだけれど、中にいるとなかなか気がつかないのではないかと思う。

戦略人事・初めの一歩

そこで、「戦略人事への初めの一歩」として、考えたのがこの図だ。

大前提として、人事部の役割は、攻めも守りも含めて経営戦略を達成すること、そして、短期的にだけではなく長期的にみても、組織を強くしていくこと。

そのために、人事として身につけていくべきなのは、ます労働法規の知識、これは前提だ。

その上で、多様化する労働環境に対応していくために、産業心理学の知識が重要になってくるのではないかと思っている。

そして、人事の「サイエンス」部分を強化してくために、統計学的な知識も重要になっていくだろう。(ここについては、第二回目のコラムで書いた『エビデンスベースのマネジメント』の部分を読んでみてほしい。

外部との関係に目を向けてみよう。まずは、経営陣との連携をしっかりと取っていくことが必要なのは言うまでもない。

そして、前半でも取り上げたけれど、そもそもは「現場」を知って、連携を取っていかなくてならない。それを怠ってしまえば、気がつかないうちに机上の空論を振りかざしてしまうことになる。

さて、ここまではよく耳にすることかもしれない。しかし、ここでは更に2つの方向での、外部との関係を強調しておきたい。

ひとつ目は、外部専門パートナーとの連携だ。

明示的に何かが必要となったときに、一過性の発注をして業者として付き合うというのではなく、パートナーという形で、労働法であれば弁護士、産業心理学であれば心療内科の専門家や産業医、コーチングの会社、統計学であれば、ODや組織行動を得意とするコンサルタント会社や、データのインフラを作っていくための情報システム関連の会社など、外部の「頭脳」をうまく取り込んでいくことが重要だろうと思う。そのなかで、人事部の内部知識も蓄積され、更に先のステップに進んでいくことができる。

そしてもうひとつが、異業種の人事の人たちとの交流だ。

今は、先行企業の成功事例をキャッチアップしていけば成功するようなビジネス環境ではない。いかにイノベーションを起こせるかが勝負になっている。業務提携や合併でも、思わぬ組み合わせが起こるご時世だ。そのなかで人事だけが昔ながらの同業他社との情報交換を粛々と行っていたとしたら、明らかに経営の動きとスピードに取り残されてしまうだろう。

だから、伝統的な企業は新興企業と、ドメスティックな小売業なら外資系となど、今までの自分だったら遭遇しないような会社の人事と交流していくことが重要になってくると思う。

前回、人事のソーシャルキャピタルについて書いたが、最後の2つは、その増大にも関係してくる。

今後、「戦略人事」という言葉は、ますます人事部への期待とプレッシャーになっていくに違いない。この図を是非眺めて、今何をしていくべきなのか考えるヒントにしてもらえれば幸いである。

次回は、少し各論に入って、「人材開発部門は、専門集団化できるか」について考えてみたいと思う。

(2009年10月)

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過去のコラム

第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える

第七回 人事部をめぐるトピック 8 

第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

第五回 これからの人材開発部門はどうあるべきなのか?

第四回 戦略人事のあり方の視点

第三回 これからの人事 〜 求められる人事担当者像とは? 〜

第二回 日本の人事の転換点 2  2008年(前後2年)

第一回 日本の人事の転換点1 1998年 (前後2年)

破壊と創造の人事

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