第五回 これからの人材開発部門はどうあるべきなのか?

今回は、これからの人材開発部門はどうあるべきなのか、について考えてみたい。 実は、人材開発部門の位置づけについて考え始めたのは、約20年前にまで遡る。私が同業他社から異業種まで、様々な人事の人たちとの交流を本格的に始めた時期だ。その中で、「社内の教育や研修に関わる人たちは、会社・経営者からみて、コア人材なのだろうか?」と感じたことがあったのがきっかけだった。

第五回 「これからの人材開発部門はどうあるべきなのか?」

教育部門の歴史 〜人材開発部門にコア人材はいたのか?〜

そもそも、大手企業での教育機能というのは、60年代くらいまで人事部の一部だった。「人事部教育課」といった感じだ。それが、70年代に入って、「教育部」「能力開発部」として教育の専門部隊を独立させる動きが出てくると同時に、研修所といった箱モノを作る企業も出てきた。

そして、80年代の終わり頃から、特に89年くらいから92年くらいにかけて、人材開発機能をどう扱うかの模索があったように思う。再度人事部の中に再統合していくような企業もあったが、一方で、人材開発部門を研修の事業会社化し、プロフィットセンターにしようとする動きが見られるようになった。

そういった会社を観察してみると、「プロフィットセンターです」と言っている割には、ほとんどの会社が赤字を続けている。そして、社長が代わったりすると、今度は、「本体の研修に特化するので、コストセンターでいいのだ」と言い始めたりする。いったい、これはどういうことなんだろうか、と思った。

そこでますます、「人材開発のスタッフに、コア人材が配置されているのだろうか?」という疑問を突き詰めて考えるようになったのだ。

ここからは、少しネガティブな話になるが、意識して観察してみると、営業にしても、技術にしても、事業部の第一線で活躍できなくなった人を、人事部が「預かる」という動きがあることがわかってきた。従業員の数が多ければ多いほど、業界に関係なくそういった傾向が見られる。

ビジネスの要請が「売上重視」だったときには、事業部でも、少しでも売り上げに貢献できるのであれば多めに人を抱えていてもいいだろう、という判断があった。しかし、「利益重視」に移行した結果、事業部では、コストになってしまう人を抱え続けることが難しくなってしまったのだ。

では、コストと判断されてしまった人はどうなるのか。そもそも人事が採用した人材なのだから、人事部で預かってくれ、ということになったのである。

そうした人たちは、長く企業で働いているケースがほとんどだから、その会社の営業や技術は理解している。社会人経験も長いから、人前で話すこともできるだろう。ということで、社内の研修を担当してもらおう、と考えた会社が多かったように思われる。

2000年くらいに、日本能率協会の出版物に書かれていた文章がある。

「人材開発スタフは、決して専門集団ではなかった。日本的経営を行っている企業の教育スタフは、優れた学歴を有し、品性がよく人間性もすぐれているが、営業などの現場や困難な調整業務には余り向かないという人材が充てられることが多い」 

まさに、その通りだったのだと思う。人材開発の部門に、ビジネス・経営にとってのコア人材は配置されてこなかったのだ。

ただ、これも、職能資格制度が純粋に機能しているうちは、ある程度妥当な解決策だったとは言える。職能資格制度でいうところの「能力」は、業務経験の年数と、会社が提供する研修をしっかりと受講しているか否かの組み合わせで決められていたからだ。

つまり、研修に強制力があった。研修に真面目に参加しなければ、自分の昇格・昇給に影響するわけだから、人材開発部門は、決まった研修を粛々と運営することができればよかったわけである。

しかし、それを利益を上げる組織としていくのが困難だったのは想像に難くない。プロフィットセンター化するということは、外部に対して価値のある商品を生み出し、それを売っていく力が必要、ということだ。そもそも、本体の営業で成果が上げられなかった人が、研修会社に移ったから急に営業ができるようになるわけではない。じゃあ、本体の営業に売ってもらおうと画策しても、「本流で活躍できなかった人たち」の企画したものを、どうしてオレたち私たちが売らなければいけないんだ、と思われてしまった可能性が高い。

こうして、多くの研修事業会社が、本当のプロフィットセンターになれなかったのだと思う。厳しい見方だが、これが実態だっただろう。

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