- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
前回は、「これからの人材開発部門はどうあるべきなのか」について考えたが、今回はコーポレートユニバーシティについて考えてみたい。 (ここでは、コーポレートユニバーシティとは、一般的に従業員全員が対象となるような教育・研修ではなく、次世代の経営層を選抜育成するための教育・研修を提供する機能と定義する。) 「コーポレートユニバーシティ」という考え方が日本で取り入れられるようになってきたのが、2000年前後、10年ほど前のことだ。その頃から、各社のコーポレートユニバーシティの担当者に毎年会ってきた。その経験を通して今感じているのは、10年かけてコーポレートユニバーシティの質を上げて成果を出しているところと、ほとんど野放し状態で実質的には機能していないところで、二極分化している、ということだ。
コーポレートユニバーシティの失敗は、4つのタイプに分けられる。
一つ目は、「セレモニー型」。
これは、「他社もやっているし、投資する資金もあるし」、ということで始まり、何となく続けているケース。開始当初は、お祭り騒ぎのようにホームページで紹介したり、広報活動に使ったりしたものの、数年やってみても成果が見えず、経営も興味を失ってしまっていることが多い。
しかし、アドバルーンを上げてしまったから止めるに止められず、何となく存続している、というタイプである。
二つ目が、「アリバイ型」。
ある企業を訪問したときに、選抜研修を担当しているマネジャーから、「楠田さん、2000年くらいから選抜研修を始めたんですけれど、管理職全員が受けてしまったんですよ。次にはどんな選抜研修をしたらいいでしょう?」と真顔で相談されたことがある。
「それは選抜研修ではなくて、順番待ち研修でしょう?」と言ったのだけれど、これでは、「ウチの会社は選抜研修をやっている」というアリバイづくりに過ぎない。しかし、笑いごとではなく、こういった状態に陥っている企業は少なくない。
三つ目が、「プロトタイプ型」
うまくいっているなと思うコーポレートユニバーシティを運営している企業の担当者に、「いろいろな企業から、『どうやっているのか聞かせてください』っていう依頼が結構くるでしょう?」と聞くと、「確かに、来ますね」と言う。そこで、「どれくらい時間を取って教えてあげているのですか?」と尋ねると、大体2時間くらい話をすることが多いようだ。
一方、そうして話を聞いた側の企業を訪ねてみると、その2時間そこそこで得た、コーポレートユニバーシティの考え方や仕組み、講師の選定、処遇との関連性などの知識を、ほとんどそのまま自社のコーポレートユニバーシティに当てはめ、そのまま6年も7年も続けていることがある。
これでは、試作車(プロトタイプ)をそのまま一般道で走らせているようなもの。いつ事故が起きてもまったくおかしくない。
一方、6、7年の間に話を聞いた先進的な会社では、どんどん改良・改革が進んでいる。その差は開くばかりだ。
そして、四つ目が、「パッチワーク型」
「他社はこうやっている」と耳にしたことや、研修ベンダーが「これがいいですよ」と勧めてきたようなものを、ほとんど思いつきのレベルで導入してしまう企業もある。全体的なフレームを持っていないから、ちょっと財政が厳しくなると、「当面、選抜研修は凍結」とか、「内製化を進めろ」という話になる。要するに次世代リーダーの育成といったものに、面としての一貫性もないし、時間的な連続性もない。
もし、読者が所属する会社にもコーポレートユニバーシティがあるとしたら、この中のどれかに当てはまっていないか、よく観察してみていただきたい。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ