第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

前回は、「これからの人材開発部門はどうあるべきなのか」について考えたが、今回はコーポレートユニバーシティについて考えてみたい。 (ここでは、コーポレートユニバーシティとは、一般的に従業員全員が対象となるような教育・研修ではなく、次世代の経営層を選抜育成するための教育・研修を提供する機能と定義する。) 「コーポレートユニバーシティ」という考え方が日本で取り入れられるようになってきたのが、2000年前後、10年ほど前のことだ。その頃から、各社のコーポレートユニバーシティの担当者に毎年会ってきた。その経験を通して今感じているのは、10年かけてコーポレートユニバーシティの質を上げて成果を出しているところと、ほとんど野放し状態で実質的には機能していないところで、二極分化している、ということだ。

第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

コーポレートユニバーシティ失敗の4つのタイプ

コーポレートユニバーシティの失敗は、4つのタイプに分けられる。

一つ目は、「セレモニー型」。

これは、「他社もやっているし、投資する資金もあるし」、ということで始まり、何となく続けているケース。開始当初は、お祭り騒ぎのようにホームページで紹介したり、広報活動に使ったりしたものの、数年やってみても成果が見えず、経営も興味を失ってしまっていることが多い。

しかし、アドバルーンを上げてしまったから止めるに止められず、何となく存続している、というタイプである。

二つ目が、「アリバイ型」。

ある企業を訪問したときに、選抜研修を担当しているマネジャーから、「楠田さん、2000年くらいから選抜研修を始めたんですけれど、管理職全員が受けてしまったんですよ。次にはどんな選抜研修をしたらいいでしょう?」と真顔で相談されたことがある。

「それは選抜研修ではなくて、順番待ち研修でしょう?」と言ったのだけれど、これでは、「ウチの会社は選抜研修をやっている」というアリバイづくりに過ぎない。しかし、笑いごとではなく、こういった状態に陥っている企業は少なくない。

三つ目が、「プロトタイプ型」

うまくいっているなと思うコーポレートユニバーシティを運営している企業の担当者に、「いろいろな企業から、『どうやっているのか聞かせてください』っていう依頼が結構くるでしょう?」と聞くと、「確かに、来ますね」と言う。そこで、「どれくらい時間を取って教えてあげているのですか?」と尋ねると、大体2時間くらい話をすることが多いようだ。

一方、そうして話を聞いた側の企業を訪ねてみると、その2時間そこそこで得た、コーポレートユニバーシティの考え方や仕組み、講師の選定、処遇との関連性などの知識を、ほとんどそのまま自社のコーポレートユニバーシティに当てはめ、そのまま6年も7年も続けていることがある。

これでは、試作車(プロトタイプ)をそのまま一般道で走らせているようなもの。いつ事故が起きてもまったくおかしくない。

一方、6、7年の間に話を聞いた先進的な会社では、どんどん改良・改革が進んでいる。その差は開くばかりだ。

そして、四つ目が、「パッチワーク型」

「他社はこうやっている」と耳にしたことや、研修ベンダーが「これがいいですよ」と勧めてきたようなものを、ほとんど思いつきのレベルで導入してしまう企業もある。全体的なフレームを持っていないから、ちょっと財政が厳しくなると、「当面、選抜研修は凍結」とか、「内製化を進めろ」という話になる。要するに次世代リーダーの育成といったものに、面としての一貫性もないし、時間的な連続性もない。

もし、読者が所属する会社にもコーポレートユニバーシティがあるとしたら、この中のどれかに当てはまっていないか、よく観察してみていただきたい。

1  2  3

過去のコラム

第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える

第七回 人事部をめぐるトピック 8 

第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ

第五回 これからの人材開発部門はどうあるべきなのか?

第四回 戦略人事のあり方の視点

第三回 これからの人事 〜 求められる人事担当者像とは? 〜

第二回 日本の人事の転換点 2  2008年(前後2年)

第一回 日本の人事の転換点1 1998年 (前後2年)

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ