- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
このコラムも、残すところあと2回となった。そこで、今回は、ここ数年多くの企業の人事部に話を聞くなかで、ある特定の会社や業界に限らず見えてきたトピックスを、アトランダムに紹介したい。最終回では、これらを受けて、これからの人事部が考えていかなくてはいけないポイントをまとめていきたいと思う。
2008年の年頭訓示で、これからはグローバル化を目指す、そのためのグローバル人材を育成する、といった話が出た企業は多い。そうした会社に訪問してみると、2つのタイプに分かれる。
ひとつは、グローバル人材を育てるといっても一朝一夕にはいかないので、計画的にグローバル人材を育てていこうとしている企業。もう一つは、「いやいや、グローバル化といっても、事業はまだまだ小さいので、事業が本格的に立ち上がって、事業部の方から人が欲しいと言ってきたときに人をアサインして、そこで育てていけばいい」と考えている企業。
どちらがいい悪いとは一概には判断できないと思うが、これからは前者のように準備していかないと、グローバル化を進める中で、各国での競争に勝っていくことはできないのではないか、と思う。確かに、事業そのもののグローバル化が進んでいて、海外売上高比率が高いところも少なくない。しかし、その中で、グローバル人材が着実に育っている企業がどれくらいあるか考えてみると、結構少ないのが現状だと思う。
グローバル化ということで言えば、各国の現地法人の強化に乗り出す企業が増え始めている。そのひとつに、現地のプロパー社員を巻き込んで、企業のバリューを英語で浸透させていこうという活動がある。現地社員を日本に呼んで、英語で日本人社員も交えて企業理念(バリュー)を学ぶ。そして、現地に戻ったら、他の現地プロパー社員にどうやって浸透させていけるかをグループワークを通して皆で考え、ビデオを作ったり、パンフレットを作成したりするのだ。
パナソニックでは、2008年10月に社名変更した際、13カ国30万人に企業理念を配布したという。そして、こうした活動で、人事部がイニシアティブを取っている。人事の仕事を、ビジネスが必要とする人材を提供し続けることだと位置づければ、おのずとこうした活動につながってくるのだろう。
いずれにしても、日本→海外という方向でも、海外→日本という方向でも、人事にとって人材のグローバル化は避けて通れない課題になっている。
メンタルヘルスの問題はキャリアの問題と切り離して考えられない。ある社員が上司とうまくいっていないとする。会社が成長し続け、年功序列終身雇用が機能していた時代なら、異動できる部門は潤沢にあったし、課長や部長への昇進はほぼ保証されていた。だから、いつか現状から抜け出すことができると信じて我慢することができた。そのため、上司との関係が多少悪くても、それを悲壮感をもって突き詰めて考えることは少なかったのだと考えられる。
しかし、今多くの企業では、異動機会は限られている、いつ昇進できるかわからない、自分の下に社員が配属されないといった現状がある。だから、今の上司との折り合いの悪さが自分のキャリア形成に大きな影を落としていると感じ、そのことから考えが離れなくなってしまう。
つまり、これは、最初はメンタルヘルスの問題というよりも、キャリア形成の問題なのだ。従って、こういう問題を抱えている人たちに「月に2回、産業医がくるので、困ったことがあれば相談に来てください」と言っても、なかなかやってこない。そのうちに、本当にメンタルな問題が出てきてしまって、会社にこなくなってしまう、という悲劇が起こる。
そのことに気がついた企業は、人事担当者にキャリアカウンセラーの資格を取得させたり、既にそうした資格を持っている人を人事に異動させるなどし始めた。彼らが現場に足を運んで、若い社員と話をする機会を持ち、キャリアの問題として解決できるものは異動などで対処し、異動ができない場合は上司との話し合いを持つなどして、メンタルヘルスの問題になる前に解決していこうとしている。
社員がうつになって、良いことはひとつもない。水際でどう防いでいくのか。これからの人事の課題だろう。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ