- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
このコラムも、残すところあと2回となった。そこで、今回は、ここ数年多くの企業の人事部に話を聞くなかで、ある特定の会社や業界に限らず見えてきたトピックスを、アトランダムに紹介したい。最終回では、これらを受けて、これからの人事部が考えていかなくてはいけないポイントをまとめていきたいと思う。
ずっと気になっていることのひとつに、労働組合経験者の人事がある。結構多くの会社で、「あるべき姿」を逸しているのではないか、と思うからだ。
労働組合の委員長経験者たちのキャリアに注目してみたことがある。入社後人事に配属されて、人事の中で労働組合担当になって、その後労働組合側に移って、最終的に委員長になるといったパターンが多いようだ。そして、その委員長の人事権を握っているのが、実は人事部、というケースが非常に多かった。これには正直びっくりした。つまり、人事部に会社での処遇の決定権を握られている人物が、人事部と交渉をしている、という非常にグレーな構造が存在しているのだ。これでは、人事部と労働組合の上層部が裏で握っていると思われても仕方ないだろう。
実際そうした会社で労働組合の委員長を務めた人物が、今はグループ会社の執行役員人事部長をやっているのを見たことがある。どう考えても、そのことが約束されていて、在任期間中、大きな問題を起こさないように立ち回っていたとしか思えない。
労働組合の弱体化が言われているが、こうした部分を襟を正して考え直す必要があるのではないかと思っている。
今の日本企業の人事は、ざっくりと3つのタイプに分けて考えることができる。
1. 伝統的な日本型経営をしている企業の人事
2. 外資系企業の人事
3. 新興企業の人事
それぞれのタイプの人事で部長職までたどり着いた人たちは、それぞれに悩みを抱えている。
まず、伝統的な日本型経営をしている企業、特に東証一部上場企業の人事部長の人たちは、執行役員人事部長くらいまでは昇進していく。しかし、その先、定款に載る取締役まで上がっていくケースは少なくなっている。
それは、人事部長に至るまでのキャリアが水平展開されていないことに原因があるように思われる。人事一筋というキャリアではなく、人事、法務、経理など複数の管理部門を経験した人の方が、取締役管理部門担当になるケースが多いようなのだ。
バブルが崩壊する以前の80年代後半には、取締役の数も多かった。したがって人事部長も法務部長も経理部長も皆が取締役になることが可能な環境だった。しかし、組織がフラット化する中で、取締役の人数は少なくなる。そうした状況下では、キャリアを水平展開した人の方が競争に勝ち残り易いということだろう。もしくは、単一の部門一筋だとしても、経理畑や法務畑の人の方が取締役になれるケースが多いようである。そしてその人が人事担当役員を兼務している場合が目立っている。
次に、外資系企業の人事部長。ここでは、40代前半で部長になる人が多い。そうして3年から5年経って、50歳を目の前にしたとき、自分の次のキャリアが見えないことに気がつく。順当に行けば、アジア・パシフィックリージョンのHRマネジャーということになるのだろうが、最近は、中国人・シンガポール人がそうしたポジションを独占するようになっている。欧米の本社に行けるかと言えば、こちらは実質不可能に近い。日本の労働法しか知らない、英語がネイティブではない、組織開発の知識が乏しいといったことが原因だと聞く。
では、日本法人の経営層に行けるかと言えば、これは日本型企業と同じく、人事出身者が経営層に入るパスは非常に狭い。一方で、下から人が育ってきて、突き上げを感じ始める。だから、結局転職を考え始める、という流れが多く見受けられる。
では、新興企業の人事部長はどうか。数人で起業して創業10年程で数百人から数千人の社員を雇用するベンチャー起業も数は増えている。しかし、人事部長は、結果的に2年間の有期雇用化していやしないかと疑うことがある。特に、立ち上げ時期から関わっている場合には、実際に大規模の人材マネジメント・組織マネジメントを経験したことがない部長が生まれることになる。すると、ある規模に達したとき、突然自分の上に、大企業経験者がヘッドハンティングされてきて、これまでの権限範囲がぐっと狭くなるという事態が起きる。もちろん、会社の成長とともに成長し、そのまま進んでいく優秀な人事部長もいるが、少なくともある時点で、会社の急激な変化に伴って、今後の自分のビジネスキャリアと向き合うことになる。
いずれの場合でも、自ら次のキャリアを切り開いていく優秀な人物はいるわけだが、一般的にみてこういうことが起こりうるということを理解しうえで、次のステップに向けて準備をしていくことが重要だろう。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ