- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
前回、今人事部で起きていることの中で、気になっていることを8つほど挙げた。それを受けて、今回は、これからの人事部が考えていくべきポイントを挙げたいと思う。
ここ数年、人事部門自体のキャリア形成プロジェクトに取り組み始めた企業が増えたように感じている。人事部は、現場の社員のキャリアについては熱心に考えているわりに、気がつくと自部門のメンバーについては手薄、という「紺屋の白袴」的になってしまうことがあると聞く。
これは私の持論で、講演などでも人事の若手メンバー(20代・30代)によく言っているのだが、もし人事のプロとしてキャリア形成していきたいと思うのであれば、人事関連のファンクションを最低3つは経験した方がいい。そうすることで、早いうちに高い視点から人事を考えることができるようになるからだ。
例えば、人事部の中でも、「採用を10年やっています」といった人たちの話を聞くと、「○○大学の学内セミナーがいい」とか、「△△というサイトは要チェックだ」などと、非常にマニアックな知識を競っていたりする。まるで、採用が調達部や購買部のような雰囲気なのだ。特に、採用活動に切れ目がなくなっている昨今では、ますます「採る」ことにしか頭がいかなくなりがちだ。
一方、人材開発一筋といった人たちは、様々なベンダーの知識や、流行りの研修のコンテンツなどに精通し、のめり込んでいってしまう傾向が強い。また、研修ベンダー主催の研修説明会やセミナーに積極的に参加し、他社の人たちとの人脈作りを率先している人材開発担当者たちを目にすることも多い。よく観察してみると、そうした人たちの中に、どんな説明会やセミナーにも必ず顔を出す人たちがいることに気がつく。話を聞いてみると、情報をインプットはするが、自社内でアウトプットはしている様子がない。自分の勉強で終わってしまっているのだ。
新規開拓や顧客抱え込みを意図した説明会やセミナーを企画している研修ベンダーからすれば、まったく商売につながらない人たちになっている。人事企画担当者からは、人材開発は外に出ていろいろな人に会えて、自由でいいねと思われている。
彼らの中では、商談と学習が分離されてしまっている。企業の商談の場である説明会場を、自分のための学習を求めて彷徨うという、ユートピア状態にならないようにしてほしい。このままだと、まるで会社から「放牧」されているような状態だということを自覚する必要があるだろう。
そうした問題に気がついている企業は、採用、教育、配置の機能をひとつにまとめて、採用から育成までを一気通貫で担当する部署を作っている。また、採用担当者が入社後3年は一貫して新入社員の面倒をみて、そのうえで人材開発の育成担当に引き継ぐという運用を制度化した企業もある。
このように人事の単一機能だけを経験して、知識や経験が偏ってしまう問題は、人事制度や労務の担当者にも言えることだ。制度を作ったり賃金計算をしたり、労務管理をしたりというのは、ほとんどが机の上で済ますことができてしまう。こちらでは、「生身の人」のことが見えなくなってしまうのだ。
したがって、人事部員のキャリアを考える時、採用・育成という現場の顔が見えるファンクションも含めて、最低3ファンクションを経験させる。これはキャリア形成だけでなく、人事機能の質の向上という視点でも必要なことだろうと思う。
また、人事部出身者から次世代リーダーを輩出するために必要な教育は何か、という観点も重要ではないか。人事部は「選抜研修」や「経営者育成」なども担当しているわけだけれど、人事部のメンバーがそこで育成されているかといえば、正直あまり考えられていないように見受けられる。これも「紺屋の白袴」だ。若手を人事のプロとして育成すると同時に、人事出身者が取締役まで上がっていくキャリアパスについて、真剣に取り組んでもいいのではないかと思う。そうしないと、かつてより取締役の席が少なくなっている時代、法務や財務一筋の人たちとその席の奪い合いとなってしまう。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ