- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
前回、今人事部で起きていることの中で、気になっていることを8つほど挙げた。それを受けて、今回は、これからの人事部が考えていくべきポイントを挙げたいと思う。
もし、今人事部にいて、この世界でプロとしてやっていきたいと考えるのであれば、なるべく外に出て、異業種人事担当者たちと交流した方がいいだろう。人事は法律をきっちり守って、制度づくりはコンサルティング会社に任せて、それを運用していけばいい、という時代は終わったのだ。これから、経済の先行きは不透明、対外的にはグローバル化、社内では多様化が進む中で、「人」に関する課題は次から次へと持ち上がってくる。人事が自ら能動的に外に出て情報収集していかないと、課題解決が後手後手に回っていくだろう。
同業界の人事が定期的に情報交換をしているケースはよく目にする。それはそれで意味のあることだと思うが、それに加えて是非、異業種の人事とも交流をするべきだと思う。なぜ異業種がいいかというと、自社で課題になっていることが、他業種では随分前から課題として上がっていて、解決方法や失敗例を持っている可能性が高いからだ。
前回のコラムでも書いたが、今の日本企業の人事は、ざっくりと3つのタイプに分けて考えることができる。
1. 伝統的な日本型経営をしている企業の人事
2. 外資系企業の人事
3. 新興企業の人事
例えば、外資系の企業の人事は、「理念浸透」であるとか、「組織開発」(Organizational Development)、「メンタルケア」といった分野について最先端の知識と経験を持っている可能性が高い。
一方新興企業の人事は、ほとんどが転職組で、他社(日本型や外資系も含めて)での経験を持っている人が集まっている。また、新しい会社の人事ということで手探りであることも多いからだろう、学習意欲が高く、知識が豊富な人が多い。
一番、知識や経験に乏しいのは、一般的にいって、伝統的な日本型経営の企業で人事一筋という人たち。そのことを自覚して、是非、2.や3.の人事と交流をしてほしい。
何度か異業種交流の場に人事担当をお誘いしても、「忙しいから」といって丁重に断ってくる会社(日本型経営の企業)があった。そのあと聞いた話では、部内ではよく飲み会をやっているらしい。部内のコミュニケーションも大事だろうが、そのまま、他社、特に異業種から刺激や情報を受けないままでいたら、時代に取り残されていってしまう。そうした危機感を持ってほしいと思う。
ただし、懸念事項がひとつある。そうして情報収集をしても、単にインプットしたことに満足してしまって、社内でまったくアウトプットしていない人が一部見受けられる。企業の人事として情報収集するのは、それを持ち帰って仕事の質を上げていくためのはず。「新しい話が聞けて満足」といったユートピア状態に甘んじないでほしい。
このコラムで何度も書いてきたけれど、人事が制度と法律だけやっていればいい時代は終わったと思う。
ポジションも報酬も、昔のように潤沢に提供できるわけではない。そんななかで人事は何ができるのか、新しい役割が求められているのだ。
具体的に言えば、適切な採用や教育、次世代経営層の育成はもちろん、ビジネスが求める人材や組織をいかに適時に提供できるかというところまで求められてくる。そうなると、大学院レベルで組織開発(Organizational Development)や組織行動(Organizational Behavior)、人材マネジメントを専門的に学んだような人材を積極的に取り入れる時代が早晩やってくるだろう。アメリカでは、既にこうした流れが普通になっているという。そうした分野で博士課程を取った人たちが、専門職としてしかるべきポジションを与えられて活躍している。
これまでの日本では、下手に文系の博士課程など出てしまうと「扱いにくい」ということで採用されにくかったり、採用されたとしてもその知識を十分に活かす仕組みが整っていない企業がほとんどだった。確かに、これまで多くの日本企業を訪問してきたけれど、人事の分野で修士・博士を積極的に採用して活用していくという企業をまだ一社も見たことがない。
しかし、流れは確実にやってくる。人事部をマネジメントする立場にいるのであれば、どうやってこうした流れに先鞭をつけていくのか考えていく価値はあると思う。また、メンバー・マネジャーとして人事のプロとして活躍したいと思うのであれば、高度で専門的な知識の習得も視野に入れていく必要があるだろう。
第八回 これからの人事部のあり方 〜 新たな人事の役割を考える
第六回 成功するコーポレートユニバーシティ・失敗するコーポレートユニバーシティ