- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
「従来やってきた目標による管理を、本日をもってやめます。これは部長会議や課長会議で、すでに了解をとっています。当社の目標による管理は完全に形
骸化しています。死んでいます。だからやめます。みなさんは自分の目標カードを今日破ってください。」
「目標管理」プロセスを、システムでサポートしていくために、システムの思想の基礎として何が必要なのかを改めて考える機会があり、推薦された何冊か
の本を読んでいたときに出会った文章です。しかも、その本のほぼ冒頭で。
「あれ、私は目標管理に関する本を読んでいたのではなかったけ?」と驚きました。
この本は『黒字浮上!最終指令 出向社長の記録』(猿谷雅治・著/ダイヤモンド社)です。
ずいぶん前に出版された本で、MBOの実録書として有名な本だと思いますので、お読みになった方もいらっしゃると思いますが、簡単にあらすじをご説明します。
一部上場企業の部長レベルの沢田は、万年赤字の子会社に社長として出向を命じられます。
そこでは、1年以内に黒字にすることを目標とし、その結果をみてその会社を存続させるか、整理するかを判断することを求められます。
「整理」と決まったら、その処理も沢田の仕事になります。
1年以内に会社を整理することが視野に入っているということは、設備投資など多額の金額を使う戦略・戦術を使うことは許されず、人員の増加も許されないということ。
つまり、今ある施設と人員だけで、万年赤字だったものを黒字にしなければならない、というわけです。
出社した会社の設備は古くて汚れ、従業員たちからは覇気をまったく感じられない。沢田は想像していた以上の挑戦に挑むことになります。
沢田は、自らの哲学に基づいた目標による管理の思想を中軸として、様々な方策を打ち出していき、結果着任9カ月目にして会社を黒字に浮上させることに成功するのです。。。
これは小説の形式を取っていますが、著者の実際の経験を基に書かれています。
そして、そこには、「目標を紙に書いて、上司と部下で管理する」といったような方法論は出てきません。
逆に形骸化した目標管理は害になるだけと、冒頭で引用したように紙を破り捨てろ、というくらいです。
具体的な「目標管理手法」を求めて本書を読むと、肩透かしをくった感じをうけるかもしれません。
しかし、この本が(この著者が)、これが目標によって管理するということは、小手先の方法論で対応できるものではなく、思想でありそれに基づく行動である、と伝えようとしていると捉えると、この本の価値が見えてきます。
目標管理は、P.F.ドラッガーが、"The practice of management" (邦題『現代の経営』)の中で提唱した、"Management by Objectives and Self-Control"の訳だと言われています。
目標管理をMBOと呼ぶのは、Management by Objectivesの頭文字というわけです。
しかし、なぜか、Self-ControlのSは省かれてしまっています。(敢えて、MBOSといわれる方もいらっしゃいますが、日本ではMBOが一般的でしょう。)
この「Self-Control」の部分を言葉だけではなく、思想として取りこぼしてしまうと、結局、目標がノルマになってしまったり、絶対に達成できる目標を注意深く立てることが習慣化したりするのだと思います。
『黒字浮上!』は、その部分をしっかり機能させるには何が必要なのかを教えてくれていると思います。それが、MBOを学ぶための本として語り継がれている所以なのでしょう。
著者の猿谷氏に師事し、『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)の著者でもある五十嵐英憲氏の言葉をお借りすると、「命令なき管理」。
「目標管理」が経営に貢献するためにはどうしたらいいのだろうか、とか
今いる人員で、業績を伸ばすにはどうしたらいいのだろうか、といった課題を抱えていらっしゃる方には一度読んでみていただきたい一冊です。
そして、私の課題は、こうした目標管理(命令なき管理)に対して、ITは何を貢献できるのかを考え、実現していくということになるわけです。
『黒字浮上!最終指令 出向社長の記録』(猿谷雅治・著/ダイヤモンド社)です。
(2007年10月12日)