第6回 本当に大切なものは暗闇の中にあるかもしれないじゃないか

2007年10月10日から12日までの3日間、HR Technology2007という、世界最大級の人事とITをテーマにしたコンファレンス+展示会が開催されました。(このメールマガジンでは何度も申し上げておりますが、初めての方のために再度。
(詳しくはこちら)

コンファレンスのオープニングとエンディングには、Keynote Session と言われる基調講演が行われます。つまり「基調講演」が2つ行われるわけですが、その2つともが、「人事データの分析について」ということがテーマでした。

今、人事のデータをどのように経営に活かしていくか、というのがアメリカにおいて、ホットな話題であることは間違ないようです。

講演のテーマ

オープニング講演:「分析を持って競争する」 Tom H. Davenport氏
クロージング講演:「人事データの測定の秘策は、単に数字ではない」John W.Boudreau氏

お二人とも今年、Harvard Business School Pressから同様のテーマで本を出し
て話題になっているということ。

お二人の著作

“Competing on Analytics New Science of Winning”
Thomas H. Davenport / Jeanne G. Harris
(邦訳:『分析力を武器とする企業』)

“Beyond HR New Science of Human Capital”
John W. Boudreau / Peter M. Ramstad

まず、Davenport氏の講演のPointは、

「データを分析しても、既に起こったことを事実としてレポートしているだけならば、企業の競争力を強化するために役には立たない。」

ということです。

データの分析といっても、以下の2つがあると言います。

1.「既に起こったこと(事実)」をレポートするもの。つまり後ろを振り向いて過去のことを語っているレポートを出すもの。

2.「なぜ起こったか」について分析し、「起こらないために」「起こり続けるために」何をすればいいのかを決めることをサポートするもの。決断の最適化、将来の予測を助ける指標を提供するもの。

そして、経営やマネジメントが決断をするためになるデータを提供し、それによって企業の競争力が強化されるということを考えるのが、これからの人事に求められている、という指摘です。

そして、現在市場で強大な競争力を持ち続けている企業は、この考え方を実践していると指摘しています。

たとえば、

Google: measuring everything, and determining attributes that correlated
with performance.

Amazon: We never throw away data.

というように、手元にあるデータを、いかに会社の成長や競争優位性に使うかについて真剣だということです。

一方、Boudreau教授の講演のポイントは、

「問題は、人事関連データが不足していることではなく、人事が集めているデータと経営・マネジメント層が求めているものとかい離している(つながりが見えてない)ことが、大きな問題なのだ」

ということです。

印象的だったのは、「人事は、現在光が当たっているところにあるものを一生懸命に見ようとしているかもしれないが、実は現在暗闇になっているところにこそ、見るべきものがあるかもしれないじゃないか。」という警鐘でした。

講演の中で、Boudreau教授がひとつの例が示されました。

ディズニーランドの顧客満足を上げるための施策を考えるとしたら?、というものです。

あなたが、人事の責任者で、ディズニーランドに訪れるお客様の満足度を上げるために何ができるか、と発想するとしたら、どのような考え方をするかとイメージしていただくといいかと思います。

たとえば、園内にいる着ぐるみをきたパフォーマーたちのサービスを向上させるのがいいのか?それとも、場内の案内係の対応を向上するのがいいのか?

大事なのは、それを決定するためのプロセスをどう考えるか、です。

教授が示されたのは、ミッキーマウスの態度の善し悪し(評価)が顧客満足度に与える影響と、園内の掃除係りの態度の善し悪し(評価)が顧客満足度の与える影響の相関関係図でした。

ミッキーマウスの場合は、態度の善し悪しはあまり関係なく、ミッキーマウスがいるということで一気に顧客満足度が上がります。

一方、園内の掃除係りについては、その人の態度の善し悪しが顧客満足に直結している、つまり、掃除係りの良くない態度に接した人は満足度が低く、良い態度に触れ分だけ満足度は正比例して上がっていく、というものでした。

つまり、今、「ヒト」という観点からみたときには、まず、園内の掃除係りのお客様への態度を向上させることが、顧客満足度を上げるために人事がすべき施策、ということになります。

もちろん、働く人全員がお客様の奉仕する、という意識を植え付けるといった総論的な施策も必要であることは間違いないでしょう。

しかし、日々変化していく市場の中でビジネスを成功に導くために、今、優先順位として何から手をつけるのがいいのかは、「何がビジネスの成功の要因になっているのか」と「人のデータ」の関連性を追及していかない限り、タイムリーな人事対策として実行し続けていくことは難しいはずです。

これは、両教授ともに指摘されていたことですが、

「財務関連やマーケティングで行われている事実に基づいて戦略を立て、仮説と検証を行っていくという発想が、人事という分野では抜け落ちているのではないか」

ということです。

5日に、「人が足りない!」時代の人事データ管理・活用セミナーでご一緒に講演をさせていただいた、プライスウォーターハウスクーパーズHRSのパートナーである山本紳也氏が指摘されていましたが、

「人事の分野を完全に数値化できる理論ができたらノーベル賞もの」

というくらい非常に難しい分野であることは間違いありません。

だからこそ、まずはデータをしっかりと蓄積し、その結果と財務の情報、営業の情報、CRMの情報と照らし合わせて、人事として経営のサポートとなるデータや提案、実
際の施策を打っていくことは、これらの人事部に求められていることなのではないか
と思います。

皆様の会社では、そんな取り組みを始められているでしょうか?

次回は、コンファレンスでも展示会場でも話題の中心だった、「Talent Management」についてご報告したいと思います。

(2007年11月9日)

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