第103回 4ミリの違いへのこだわり 今の踏ん張りが助けているもの

入曽精密。金属を超精密に加工する、従業員14名の会社です。

 

世界最小のサイコロ(一辺0.3ミリ)を作った会社として記憶している方もいらっしゃるかもしれません。手が

ける部品がF1カーのエンジンや人工衛星に使われており、世界に誇る技術力を持つ会社としてメディアな

どでも多数取り上げられています。

 

さて、子供の頃からあたり前のように手にしていたサイコロですが、サイコロがサイコロであるためには、すべて

の辺の長さが一定でなければならず、重さのバランスが取れている必要があるそうです。それを0.3ミリのレ

ベルで実現するには、非常に高度な技術が必要で、それまで大学の研究機関でも実現することができま

せんでした。

 

2004年にそれを実現したのは社長の斉藤氏。初代社長の息子であり、若いころから技術の継承を受け

ていたのだろうと思いきや、この世界に入ったのは25歳のとき。それまでは芸術家を目指していたため、親

の会社の技術のことには触れたことはなく、見習い工からのスタートでした。

 

その斉藤氏が技術者としての駆け出しの頃に手掛けたのが、その世界では初歩中の初歩である材料の

切り分け作業。精密加工の前に素材を大まかな形にカットしていく仕事です。通常は、100ミリのものを

作るのに105ミリくらいに切り分ければOKで、誰もがそれをよしとして作業をしていました。

 

しかし、見習工だった斉藤氏は「日本一の技術者になる」ために、与えられた材料を101ミリで切り分ける

ように努力したといいます。

 

斉藤氏は、切断する刃がまっすぐ材料に向かうようにするように意識して機械を操作することで、一ミリの

誤差を実現しました。当たり前と考えられていた作業に、現場の工夫や努力が加わることで質の高い結

果を出すことができる。ここからは私の想像ですが、この見習工時代のこだわりと頑張りが、手がける部品

がF1カーのエンジンや人工衛星に使われるという、その後の斉藤氏の活躍ぶりを支えているのだろうと思い

ました。

 

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時々、どうして自分はここでこのような仕事を、こういう人たちに囲まれてできているのだろう、と不思議な

感覚になることがあります。

 

その理由をたどっていくと、いろいろな方々の助けをお借りしていることは当然のことながら、同時に、過去

のある時点でベソをかきながら、悔しい思いをしながら、諦めないで少しだけ踏ん張った過去の自分が現

れてくることがあります。「過去の自分に今、助けてもらっている」という感覚。

 

逆もまた真なりで、自分の弱さを突きつけられるとき、過去の自分が何かから安易に逃げていたという事

実に直面させられます。

 

仕事の幅や責任が増えたとき、自分の能力以上のものを求められるとき、

 

一方的な守勢の仕事が続くとき、正直ふと心がくじけそうになることがあります。

 

そんなとき、今、立ち止まらないで一歩前に踏み出す踏ん張りや、旧弊や現状に決別する行動が、3年

後、5年後の自分を助けている。3年後、5年後の自分はきっと今(過去)の自分に感謝してくれるだろうと、

自分を奮い立たせてみたりすることがあります。

 

 

斉藤さんの見習工時代の話を知って(レベルはかなり違いますが)、そんなことを思い出しました。

 

 

今回参考にさせていただいた書籍

『日本の小さな大企業』青春出版社 

 

(2011年12月1日)

 

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