第107回 マナーが難しいのはフランス料理店か焼き鳥屋か
先日、興味深い記事を見つけました。「フランス料理店よりも焼き鳥屋の方がマナーが難しい」というも
のです。記事を書いたのは、料理評論家・山本益博氏。山本氏が言うには・・・
「フランス料理のレストランマナーは、世界共通です。店に予約を入れ、時間に遅れずに店を訪れれば、
席はすでに用意してあり、座ればサービス係が必ずメニューを持ってきてくれます。そして、料理でも
ワインでもわからないことがあれば、なんでもサービス係やソムリエが教えてくれます。ところが、焼き鳥
屋ではそう簡単にはいきません。」
ある焼き鳥屋では、そもそも予約を取らないから行ってみないと座れるかどうかわからない。
そういう店で席が空いたからといって勝手に座るとしかられることさえある。それに懲りて別の店で案内さ
れているのを待っていると、後からきた人に座られてしまう。
やっと席に着いたとしても、こちらから積極的に注文しなければならない店があるかと思えば、店の人が
聞きにくるまでまっていなければならない店もある。
つまり、「フランス料理のマナーは世界共通ですが、焼き鳥屋は主人が10人いれば10通りのマナーが
存在するというわけです。ただ、わたしたちはフランス料理より焼き鳥のほうが食べ慣れているのと、行き
つけの店を持っているというだけで、気楽に食べられていると錯覚しているだけではないでしょうか。」
そこから山本氏は、北千住にあるお勧めの焼き鳥屋の紹介に入っていくのですが・・・私はここまで読ん
で、日本企業や日本人のグローバル化について考えてしまいました。
知らない人にはそのルールの理解が難しい焼き鳥屋は、海外の優秀な人材を呼び込むことに苦労して
いる日本企業で、ルールが徹底できているフランス料理店は、グローバル化に成功している海外
(主に西欧)の企業。そんな構図がふと頭に浮かんだのです。
ルールの違いについて考えるとき、今でも鮮明に思い出す場面があります。
大学のサークルに高校までアメリカで過ごした人が入ってきました。彼が最初に参加した練習のとき、
途中で参加者全員が集合する場面があったのですが、彼は自然に地面に座ったのです。私を含め周り
の人はびっくりして、有無を言わさず彼を立ち上がらせました。
当時、集合をかけられたら立ったまま話を聞くのが「当然」だったからです。そのときの彼が、まず
「きょとん」とし、すぐに困惑した表情をしたのを、今でも時々思い出すのです。彼はその後しばらくは
サークルに参加していましたが、結局疎遠になってしまいました。
もしあの時、お互いに日本とアメリカでの考え方の違いをきちっと説明し合っていれば、と考えることがあ
ります。当時の私は、自分以外の全員が「暗黙の了解」でつながっている集団に放り込まれる恐怖と
疎外感の大きさを想像することができませんでした。
ただ同時に、「焼き鳥屋(日本企業)も、フランス料理店(西欧のグローバル企業)と同じにならなければ
ならない」という結論に安易に飛びついてしまう危険性も感じます。
焼き鳥を美味しく提供するために独特のルールがあってもいいのだと思います。ただ、これまでの常連
以外の人を呼び込んでいくとき、そのルールをしっかりと理解してもらうための努力をどれだけ丁寧に
行うか。
それでも理解してもらえない時に、その人たちをあきらめるのか、引き留めるために綿々と続いてきた
独特のルールを変えるのか。焼き鳥やサービスの質を低下させずにルールを変更するために何にこだ
わらなくてはならないのか・・・。そんな風に考えていく必要があるのではないかと考えさせられました。
皆さんはどうお考えになるでしょうか。
【今回参考にさせていただいた書籍記事】
どらく(朝日新聞デジタル版)マスヒロのマナー手帳 vol.7
「店主の人柄も美味しい焼き鳥の名店にフォーカス」(2012年2月14日)