- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
前回のボーイング社の話の続きです。
(これらの話は、、”Beyond HR , New Science of Human Capital”John W. Boudreau/ Peter M. Ramstadから引用させていただいております)
ボーイング社は、新機種787を納期通りに納入し、エアバス社との競争でのチャンスを最大限に享受するために、これまで主流だった「機体の内製」体制を転換し、多くのサプライヤーを巻き込んだ体制を組むことを決断しました。
巻き込んでいくべきサプライヤーには、いくつかの日本の製造メーカーも含まれていました。
ボーイング社は、日本の企業文化とアメリカの企業文化が異質であることを自覚しており、本社の技術者と日本の企業がうまくやっていくことが、重要なポイントになると認識していたといいます。
そのコラボレーションを潤滑に行っていくために、ボーイング社がとった施策は。。。
787のウィング設計のための技術分析チームのリーダーに、三菱重工業のエンジニアN氏を起用したのです。
N氏は、三菱重工業の社員でありながら、キャリアの4分の1をボーイング社の技術畑で過ごしてきた、という人物。
ボーイングの技術と文化を身をもって経験してきたと同時に、純粋な日本企業の技術者でもある。
今回のプロジェクトに求められていたのは、高い技術を持ちながら異文化間のコミニュケーションをスムーズに進めることができる人物です。そして、その人物は会社の外にいた、ということになります。
ボーイング社は「社外の人物である」ということを越えて、起用を決めたわけです。
最近読んだ本の中に、「財務上の連結範囲が、人的リソース管理の連結範囲と一致するべき理由はない」という言葉がありました。(『多元的ネットワーク社会の組織と人事』南雲道朋・著/とても興味深い本だったのでいつかご紹介したいと思います。)
これは、その発想を実行に移した事例といえるかもしれません。
企業体が異なれれば、処遇の違いなどから、自社内の人材と同様の扱いをするのは難しいことだとは思います。
しかし、今まで、越えることのない、超えることが不可能だと思っていた「境界線」をはずしてみる、という発想を持つことは、人材不足であり、市場の変化が激しい環境では、有効なのではないかと感じます。
また、家庭用品販売のWillian-Sononaがビジネスチャンスをつかんだ話も紹介されていました。
いわゆる、「インターネットブーム」が湧き上がっていた1990年後半の話です。
当時、どの企業も、いかにインターネットブームに乗ってチャンスをつかむかを考えており、インターネットの技術がわかる技術者不足が起こっていたといいます。
技術が好きな人たちは、高度な技術を扱うプロジェクトに参加できたり、高い報酬を提示してくれる企業へと流れていきました。
Willian-Sononaは、小売業であり、薄いマージンの中で戦うビジネスモデル。多くの技術者にとって魅力を感じるようなオファーはできませんでした。。
技術者獲得で苦戦していたWillian-Sononaが発見したのは。。。
カタログや店舗デザインといった分野で働いていたクリエイティヴな従業員がたちが、Webの世界に挑戦してみたいという気持ちになっていたことでした。
加えて、Willian-Sonona で既に働いている技術者に話を聞いてみると、彼らのモチベーションは、お金や技術ではないという事実です。
彼らが、回りからみたらもっと良いオファーがあるにも関わらずWillian-Sononaで働き続ける理由は、一流の小売業の現場を学びながら、技術を使えるということでした。
ここからは私見ですが、ここでは2つの「境界線」が越えられているのではないか、と思います。
ひとつは、決められた「職種」「職域」という「境界線」。もうひとつが、「マーケット情報(この場合は人材マーケット)は外部にある」という常識(思い込み)の「境界線」。
既存のルールとの折り合いをつけるという大きなチャレンジが求められますが、
考えてみる価値のあることのように感じました。
* * *
ボーイング社の例に戻ると、今年になって、787の納期遅れが濃厚になってきた、という記事が日本のメディアで取り上げられています。
(日経新聞 2008年1月18日、日経ビジネス2008年1月21日号)
そこには、787の生産プロセスに深く関わっている日本企業の不安の声が掲載されています。そこからは、残念ながら、ボーイング社との一体感のようなものは感じられません。
多文化間の連携プレーの難しさを認識し、その困難を回避すべく施策をとって始まったプロジェクトは、どこで歯車を狂わせてしまったのでしょうか?
このメルマガを書いているときの記事だっただけに、もし、自分が人事担当であったら、この状況に至らないための施策として何ができただろうか、と考え込んでしまいまいた。
もしくは、こうなった今、人事として何かできることはあるのでしょうか?
少し考えてみたいと思います。
* 今回の話は、”Beyond HR , New Science of Human Capital” John W. Boudreau/ Peter M. Ramstad の内容をベースに、当メールマガジンの編集人がまとめたものです。
* 英語の書籍からの引用のため、当メールマガジン編集人の責任において翻訳をして執筆しています。原書のニュアンスを伝えきれない内容があった場合の責任は当編集人に帰します。
(2008年1月25日)
※ ボーイング787は、残念ながら開発遅延を繰り返し、2008年8月時点でも実用に至っていません。