- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
20年以上前のことになりますが、ハワイに行った時のことです。
到着したホノルル空港はとても混在していました。手続きがスムーズにいかず、とりあえず待合室の
ようなところに連れていかれました。
そこに現地の従業員がいたので、どれくらいかかりそうか聞いたのですが、英語で「ちょっと待ってく
ださいね」とにこやかに言うだけでした。やはり、ハワイは働き方ものんびりしているんだなあと思いま
した。
そのとき、一緒に旅行していた仲間の一人が、「ちょっと待ってね」と言った現地の従業員(女性)をし
ばらく見ていて、「僕が経営者なら、彼女のような人を雇いたいな」と言いました。
私はその人を、ビジネスパーソン(その時は"ビジネスマン"と言っても訂正されないくらい「昔」でした
が)として認めていましたし、今でも社会的に成功している人の一人です。
その人が、「のんびりだな」と思った人を、自分の下で働く人として認めると言ったのです。正直、当時
の私の頭の中は「????」で一杯でした。
「どうしてですか?彼女がてきぱき仕事をできるとは思えないですけど?」と私。
「彼女からは自分の仕事を好きだって気持ちが伝わってくるし、彼女を嫌いになる人は少ないと思う。
ポジションによってはそういう人も必要なんじゃないかな」とその人。
納得したわけではありませんでしたが、そこで言い争ってもイライラが増すだけなので、そんなものな
のかなと、それ以上追及しませんでした。
先日、スタートトゥデイの前澤社長のインタビュー記事を読む機会がありました。
スタートトゥデイは、ファッションを中心にしたインターネット通販サイ「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」の運
営会社。現在、取り扱うブランドは1,500を超え、試着できない「ネットで服を買う」という習慣を根付か
せたと言われています。2012年には東証一部に上場し、業績を順調に伸ばしています。
その前澤社長がインタビューに答えて、同社の強みを以下のように話していました。
「現場ではお客さまの視点に立って、お客さまが知りたいと思う情報を提する努力を日々しています。
ただ、そういう撮影の仕方だったりサイトの利便性は、ウチが真っ先にやってるという自負はあるけれ
ど、すぐにマネされてしまいます。
むしろ、商品へのこだわりや気持ち、それを支えるシステムや物流への思いが、顔が見えないインタ
ーネットでありながら、お客さまに伝わっているんじゃないでしょうか。」
「顧客が好きそうなものを提供する、という視点と、自分が顧客だったらこれが欲しいというものを提供
する、という視点とは実は全然違うでしょう。前者は自分が欲しいかどうかは関係ないですからね」
頭を使って理屈で考えることと、感性や感情といったものをベースに発想することには大きな違いがあ
る。
前者を鍛えて再現性の高めること(サイエンスの世界)も重要かもしれないけれど、それは後発部隊
から真似されていく。一方、後者を十分に活用できると(アートの世界)、独自の競争優位を生み出す
ことができて、しかも真似をすることが難しい。
ということだと解釈しました。
そのときに、ホノルル空港の「彼女」が頭に浮かびました。20年以上経った今でも、その人の会話と
ピンクのワンピースを着たぽっちゃりとした彼女の姿を思い出すことができました。
彼女本人の本当の能力については今や知るすべもありませんが、一般的な「サイエンスの世界」で
の評価ではこぼれ落ちる「何か」に目を向けることに価値がある、ということをあの人はいいたかった
のではないか、と思い至ったのです。そしてそういった人を、組織の中でどう活かしていくか。
私の好きな学者の一人に、ヘンリー・ミンツバーグ博士がいます。彼が著者の中で、「マネジメントに
はしかるべき量のアート」が必要だということを主張しています。
私自身は「人事にITを活用する」「人事にもサイエンスを」ということを仕事にしていますが、改めて、
それと並行する「アート」の世界についても考えてみたいと思いました。
【今回参考にさせていただいた情報】
運命を切り拓く男たち「お客さまを神様だと思ったことは一度もないです」
スタートトゥデイ・前澤友作社長と語る【前編】(日経ビジネスオンライン)