第113回 異なる世界の「メガネ」を通して見えてくるもの
今年9月に数学の「ABC予想」が日本人数学者・望月新一博士によって解明されたというニュース
流れました。数学の世界には証明されていない命題があり、中には100年以上かかっても証明されていないというものあるようです。
数学に興味がないという方でも、360年の時を経て証明されたフェルマーの定理」は耳にしたことが
あるのではないかと思います。
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2002年秋、100年前に提出された予想が証明されたことが確認されました。「ポアンカレ予想」と呼
ばれるものです。証明をしたロシアの数学者・ペルマン博士がその証明ついての講演を行ったとき、
多くの数学者は衝撃を受けたといいます。博士の説明が、ほとんど理解できなかったからです。
「ポアンカレ予想」の詳細についてはWebで検索していただけばと思いますが、予測を提出したフラン
スの数学者・ポアンカレは、20世紀初頭に数学界にトポロジー(位相幾何学)を確立させた人物。そのこともあってでしょう、「ポアンカレ予想」に取り組んでいた多くの数学者が、トポロジー専門にしてい
ました。
しかし、ペレルマン博士の専門は微分幾何学、なかでもメインストリームでない分野だったと言いま
す。また、博士は幼少の頃から物理学にも明るく、物理学的手法もふんだんに使われていました。自分たちがほとんど理解できない異なる分野の理論で、自分たちの世界の分野の難題が証明されしまった。多くのトポロジー学者が衝撃を受けた大きな理由でした。
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数学の予測のなかでも「格が違う」と言われているものに、「リーマン予想」があります。これは素数を
扱うもので、証明できれば万物の法則が解明かせると考えている数学者もいるとか。
こちらはまだ証明されていませんが、証明に大きく近づくブレークスルーは、優秀な数学者と物理学
者の偶然の出会いでした。素数が生み出す世界原子核のエネルギーの世界が偶然にも同じような式で示される、というとがわかったのです。
数学者が見ている素数の世界と、物理学者が見ている原子や量子力学の世界が実は非常に近い
世世だった。それぞれの「メガネ」で通して見える世界を重ね合わせることで、新しい発見がある。証明への大きなステップをみ出すことになりました。
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子供の頃からラグビー観戦が好きで、今まで観戦したラグビーの試合は結構な数になると思うのです
が、実際に練習や試合をしたことは一度もありせん。
そんな私がテレビで解説を聞いていると、「やったことがある人でなければ絶対にわからないことだ
な」と思う発言があります。どれだけ試合を見ても、解説本を読んでもわからない世界が確実に存在しているのだと思う瞬間です。
「実際にやっている」強さは何ものにも代えられないと思います。しかし、その世界に染まっておらず、まったく別の視点を持っている人から自分の世界を見てもらう。そんなところから、大きなブレークスル
ーが生まれるもまた事実。今から数学者や物理学者、ラグビー選手にはなれませんが、今のビジネ
スや生活で、このことを覚えておこうと思っています。
【今回参考にさせていただいた情報】
NHKスペシャル
「数学者はキノコの夢を見る ポアンカレ予想 100年の格闘」(2007年)
「魔性の難問 リーマン予想・天才たちの闘い」(2009年)