第120回 気づき、試行錯誤し、仮説検証ができる環境をもっているか


家事に関して決してマメな人間ではありませんが、何故か食器を洗うことが嫌いではありません。先日、食器洗いをしていたときのことです。

大きめの皿の洗剤を流したあと、何も考えずに手にしたのは、小さなエスプレッソ用のカップでした。ぼんやりと蛇口の下に手を動かした私の胸に水しぶきが飛んできて、はっとしました。蛇口から流れる水の勢いが強すぎてカップの底を打ち、すべての水が外に飛び出してしまったのです。すでに洗剤で洗ってあったので、単にTシャツが少し濡れたくらいで納まりましたが、「何かを学ぶとき」のことが頭に浮かびました。

小さい器に水を溜めるとき、あまりに勢いよく注ぎ込んでしまうと、結局何も残らないのだなあ、と。逆に、小さい器に溜めるのに適した水の入れ方で大きな鍋を満たそうとしたら、長い時間をかけてもほんの少ししか水を溜めることができない、とも。

食器洗いの場面なら、今自分が手にしているものの大きさや形を目や手で直接知ることができます。でも、これが人間の能力だったら、私たちはどれだけ把握できるのだろう。しかも、一人の人間にはいろいろな能力が備わっている。それぞれについて、私たちはどれだけ正確に知ることができるのだろうか。特に4月から部署に新しい人が入ってきたこともあって、そんなことを考えたのだと思います。

自分の目の前にある器の形や性質を知らないでいたら、過日の私のように、自分ではきちっと水を提供していると思っていても、相手方には結局何も残らないという状況が生まれるでしょう。

人材や組織のデータを一元化し、見える化していくことの基本的な意義のひとつは、そこにあります。

ただ、10年間この世界でお手伝いをしてきて、そこには落とし穴があるとも感じています。

人材情報のデータベース化、パッケージ製品を活用したシステム化では、それまでの平均的な事例(もしくは成功事例)を元にしているケースがほとんどです。そこでは、手にしているのは液体を入れられる陶器やガラスであること、蛇口から出てくるのは水であるといったことが、そもそもの大前提になっているのです。それがどの企業にとっても「正解」であり続けるならば問題はありませんが、今はそうした時代ではないことを感じられている方は少なくないのではないでしょうか。

今まで正しいと考えてきたことが本当にこれからも正解なのか、気づかないところで大きな変化が起こっているのではないか。そうした疑問や問題意識に応えられる仕組みを持たなければ、知らず知らずのうちに誤った方向に流されていく危険性を孕みます。

そこで今、私たちがシステムとして挑戦しているのは、人材マネジメントに関わる人たちの「気づき」を促し、「試行錯誤」をサポートし、「仮説検証」が柔軟にできる環境の提供です。決して簡単なことではありませんが、幸い、成功事例も増えてきています。また、それを目指していくつものプロジェクトがスタートし始めました。

そこで、5月にそんなお話をするセミナーを開催することになりました。その場では皆さんと意見の交換ができたらと思っています。

【5月に開催するセミナー】 ※このセミナーは終了しました
「成功事例・失敗事例から学ぶ
人材・タレントマネジメントのシステム活用で成功するポイント」(東京・大阪)

最新のセミナーはこちらから ↓
http://www.rosic.jp/event/


(2013年5月7日)
破壊と創造の人事

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