第127回 情報は知識ではないことに自覚的でいたい
前回のエッセイで、
タイでの珍道中のお話をしましたが、そもそもタイを訪れた理由は、友人の結婚式に出席するためでした。結婚するのは、中華系マレーシア人(新郎)と中華系タイ人(新婦)。新郎が生まれた時間(今回は朝の3時から!)に行われる伝統的な式。徹底的に豪華な披露宴。その披露宴は、マレーシアでももう一回、同じように行われるということ。日本の平均的な一般家庭で生まれ育った私にとっては、驚きの連続でした。
ただ、一番印象に残ったのは、伝統を守り続ける式や披露宴の華やかさではなく、披露宴の前に新郎と話をしたときのことでした。
新婦は民族的にも文化的に中国人であるけれど、新婦の家族と過ごせば過ごすほど、タイの中国人とマレーシアの中国人は違うことを痛感した、というのです。
彼曰く、「中華系タイ人たちは、国のことが好き。人によってはタイ語用の名前を持っていたりする。国王のことも好きだし、尊敬をしている。こんなことはマレーシアではありえない。それには改めて驚いた」と。
マレーシアでは、マレー人優遇政策の影響が強く、中華系の国民にとっては決して居心地のいい状態ではないといいます。実際、披露宴で知り合った中華系マレーシア人の女性は、「ニュージー
ランドで学位を取り、オーストラリア(シドニー)で仕事を続けていたけれど、ロンドンにいい仕事口があったので、来月引っ越しをする」と言っていました。マレーシアには帰らないの?と聞くと、あちらではシドニーやロンドンのようなレベルの仕事と収入は期待できないから、戻る気はないと。
たった二人の話から、すべてを一般化することはあまりに危険ですから、あくまで2人の中華系マレーシア人の個人的エピソードとして聞いていただきたいと思いますが。
確かに、「海外で暮らす中華系の人たち」とか、「マレーシアでのマレー人優遇政策」ということについておおよその情報は持っていました。しかし、一人一人の人生に基づいた生の声やその表情を通して、そうしたものと出会ったとき、机上で得た情報の力の弱さを感じずにはいられませんでした。
つい先日
、「グーグルに頼る人は、世界を理解できない」という、挑戦的なタイトルの記事を読みました。ユニクロを急成長させることになった1999年の「フリース」の広告や、ナイキの企業広告を担当、業界では「伝説」のクリエーターと言われているジョン・ジェイ氏をインタビューしたものです。
「例えば今、我々が可士和さん(インタビュアーである佐藤可士和氏)のオフィスにいて、『ここの空間、いいですね』と言ったとしますね。その言葉の背後には、空間デザインの発祥から変遷という、歴史的なコンテクストがある。それを可士和さんと私の両者が共有していないと、会話は成り立たない。
その知識を獲得するには、やっぱり深い体験が重要です。ちなみに情報は知識ではありません。グーグルで答えが見つけられるからといって、それだけに頼っている人は、世界を理解しているとはいえない。」(インタビュー記事より。これ以外にも、刺激的な話が沢山ありましたので、是非一読してみてください。)
机の前でキーボードをたたくだけで、世界につながることができることの素晴らしさは否定しようがありません。それがなければ、出会うことが出来なかった人やモノ・コトは数え切れません。
だからこそ、足を使って、五感を使って体験することに意識的である必要があると、改めて自分にいいきかせました。
週末に、次の休暇に、想像を超えた出会いがありそうな場所に、足を運んでみたいと思います。
(2014年2月27日)