日本ラグビー代表の監督(エディー・ジョーンズ氏)が、外国のメディアから、「2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップまでに、日本チームはトップクラスの国と互角に渡り合えるようになるか」と質問された際に、こう答えていました。(ちなみに、現在、日本ラグビーは世界で13位。ワールドカップでは勝利を上げたことがありません)
「日本では、電車が本当に正確に来ます。私がイングランドに住んでいた時には、時間通りに電車が来たことなどなかったですよ。このように、日本人には決めたこと計画的に実行していく能力があります。この5年で大きな変化を生むことができるでしょう」と。
一方で、プロ野球の往年の名選手であり監督経験もある権藤博氏との対談では、
「たとえば日本に住んでいると、時間通りに電車が来ますが、イングランドでは来ない可能性もあります。だから『もし来なかったらどうしよう』という策を考えながら生活しています。日本人は事がレギュラー通りに動いている分にはいいけど、トラブルがあったときに対処できないんです。」
確実に時間通りに動く公共交通機関。そんな整然とした仕組みを作り、継続できる力は、我々日本人が誇るべき能力です。
しかし同時に、そうした状態に慣れ過ぎてしまうと、思いがけないことが起きたときのとっさの判断が鈍ってしまうという側面もあるのだ、ということでしょう。
私自身が海外に暮らし始めてしばらくたった頃に取った行動を思い出しました。
あるとき、家人(日本人ではありません)が「天ぷらを作ってほしい」と言いました。
からりと天ぷらを揚げるのは簡単ではありませんから、正直料理をするのを避けていました。折しも日本に帰国する機会があったので、母親に改めてポイントを教わることに。そして同時に私の頭に浮かんだのが、「油を切る天ぷらバットが必要。向こうでは売っていない。だから、買って帰らないと!」ということでした。
日本から戻ってきて、天ぷら料理をする私を横から見ていた家人が、日本から持ち帰った「天ぷらバット」をじっと見ています。そして、「これってロースト肉を置く網と一緒だね」と言ったのです。
ローストした肉は、肉汁を落ち着かせるために、オーブンから出した後しばらく寝かせます。一般的には普通のお皿を使うことが多いようですが、我が家では網の上に乗せて、余分な油を落としています。私はそれを何度も見ていました。言われてみれば、確かに、原理も形も、天ぷらバットに置く網とまったく同じです。しかし、私は、「天ぷら」という言葉が頭に浮かんだ瞬間に、「それ専用の道具を買う」ということ以外考えられなかったのです。
もちろん、専用の道具はそのために作られていますから、当然使い勝手はいい。しかし、置かれた状況下でいくらでも工夫することもできたわけです。残念ながら、そんなことは思いつきませんでした。
決まった目的に対して、時間をかけて精緻な対応ができる力と、その場で柔軟な発想を駆使して対応できる力。もし前者は既に強みとして持っているとしたら、後者を身につけることで、更に強くなっていくことができるだろうと思います。
冒頭で紹介したジョーンズ氏と権藤氏の対談の内容から、そうなるためのヒントをピックアップしてみました。「最初から完璧を追求しない」「プロセスを自分で考えてみる」「ミスを恐れないで、まずやってみる。ミスをしたときにその原因を自分で考える」、ということのようです。
4月という新たなスタートの時期。こんなことを意識して、改めて自分の行動を見直してみたいと思います。
【参考にさせていただいた資料】
IRB Rugby: The Big Interview: Eddie Jones, Japan head coach
https://soundcloud.com/irbrugby/the-big-interview-eddie-jones
「ラグビーも野球も遊び心を持たなくちゃ」
異色対談 権藤博氏×エディー・ジョーンズ氏(前編)
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO67483510X20C14A2000000/
「監督と意見が同じコーチは要らない」
異色対談 権藤博氏×エディー・ジョーンズ氏(後編)
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO67483880X20C14A2000000/
(2014年3月27日)