第135回 正しく負ける


ずいぶん前のことになりますので、記憶は鮮明ではなく、うろ覚えの部分もあるのですが、時々に思い出す言葉があります。王貞治氏が、胃がん手術から回復し、記者会見したときのコメントです。

負けるということも含めて、野球をするという喜びをまた味わえることがとても嬉しい。という主旨の発言されたと記憶しています。「負けるということも、喜びの一つである」というメッセージが含まれたこの言葉を聞いた時は、軽い衝撃を受けました。

今考えると、そのことに驚いた自分自身の未熟さを思い知らされますが、今でも、壁にぶつかったり、悔しい思いをしたりしたときに、鮮明に思い出します。

最近、仕事で、いわゆる「負け戦」をしました。できるだけ「負け戦」をしない、そのために情報を集め、できる得るかぎりのことをし、引くときは引く、と意識してきましたが、今回はどうにもならず。久しぶりの大苦戦に、前述の言葉を思い出しました。負けるということも含めて、仕事に喜びを見いだせるとしたら、今の私はどうしたらいいのか。

「正しく負ける」ということだろう、と思い至りました。

こちらもずいぶん前になりますが、印象深く、何度も思い出す本があります。ユニクロの柳井氏が、会社の売り上げがまだ3000億円程度だった2003年末に上梓した、『一勝九敗』という本です。

同社は、今でこそ売上高は一兆円超、様々な批判を時々に受けながらも、快進撃を続けていますが、当時は、フリースを中心としたユニクロブームが終焉し、再生・再出発を始めた時期でした。自身が一旦社長職を譲った時期でもあります。それだけに、言葉に込められた力や思いの強さを感じる一冊です。

「自分の姿を見ようと思ったら、計画して失敗するのが一番いい。あ、これはこう計画していたんだけれども、ここが違ったな、ということがはっきりわかり、次はこういうふうにしようとトライする。十戦十勝ほど恐ろしいものはない。一勝九敗だからこそ、一つの成功に深みがあり、次につながる大きなパワーが生まれるのだ。」(『一勝九敗』より)

何も考えずに負ける・失敗するのは言語道断ですが、自分なりに計画を立て、戦略を練り、挑戦したにも関わらず、それでも負けたのであれば、それは実はチャンス。その負けを、将来の成功の糧にするためにどう敗戦処理して次に進むか、ということだなと、改めて思いました。

だから、「正しく負けよう」と。

とても個人的な話となってしまいましたが、何かに負けたり、失敗したときに、ふと、王さんの言葉や、ユニクロ快進撃前夜の柳井氏の言葉を思い出すきっかけになれば、嬉しく思います。


【参考にさせていただいた書籍】
一勝九敗』 柳井正  新潮文庫


(2015年3月12日)


破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ