第136回 「こごみ」のスムージー


朝、バタバタと準備をしながら、テレビから流れてくる音を聞くともなく聞いていたら、「『こごみ』(山菜の一種)のスムージー」を紹介していました。何でも、若い人たちにも山菜の魅力を知ってもらおうと、考案されたものだとか。

どうやらスタジオに実際のスムージーが持ち込まれ、キャスターたちが試飲した様子。「あら、山菜のクセがありませんね。すっきりして飲みやすい」(キャスター)。「そうしたクセを取り除くために、バナナなどいくつものフルーツを使って口当たりを良くする工夫がされているんですよ」(記者)。


この会話を聞きながら、これで山菜の魅力を伝えたことになるんだろうか??と、とても不思議な気持ちになりました。個人的には、こごみなら天ぷらで食べたい。こごみの魅力を隠したスムージーを飲むよりも、スムージーにしてその魅力を最大限に引き出せる食物で作ったスムージーを飲みたい。

実際に「こごみのスムージー」を飲んだわけではないので、味についてはあくまで想像ですが、こごみが、「クセがない」ことをもって評価されてしまうのはどうなのか、考えてしまったのです。



1993年のタイ米騒動を思い出しました。前年の冷害の影響で、日本米の供給が、需要に対して大場にで落ち込むという事態になり、政府がタイから大量のコメを輸入することになりました。

ご存知の通り、タイ米は、日本米のような粘り気はなく、独特の香りがあります。そのため、「日本の米の代わり」と考えた人たちにとっては、まったく満足のいく「代替え品」ではありませんでした。

多くのテレビ番組や雑誌が、「タイ米をいかに日本米に近づけるか」というノウハウを競って取り上げました。中には、小さくちぎったこんにゃくを炊き込んで、弾力のある触感を出しましょう、というものもあり、そんなものが本当に美味しいのか、大いに疑問だった記憶があります。

いずれにしても、タイ米の評判が下がることは合っても、上がることはなく、事態が収拾した翌年に、多くの米が廃棄されたり、家畜の飼料になったりしたと言われています。



今、受け入れられにくい、もしくは理解されていない魅力や長所を、新しい環境で活かしていくためには、どう考えていったらいいのか、改めて考えさせられました。

こごみやタイ米には、確実に一定の魅力があります。私自身、どちらも好物の中に入ります。しかし、一般的に皆が好きかといれば、おそらくそうではない。そうしたものに出会ったとき、どうやって現在のマジョリティのグループの中に取り入れていくのか。

これまで見てきた例は、どこまでも現状のマジョリティの嗜好やあり方の範疇内に組み込んでいくという考え方。でも、それぞれの良さを活かして、マジョリティの嗜好に少し風穴を空けるということは、本当に難しいことなのだろうか・・・。

当事者でもない私が、状況に向いあって一生懸命考え行動している人たちを、偉そうに批判するつもりは毛頭ありません。ただ、こうした構造は、個性のある人やマイナーなグループの人たち、自分の理解の範疇を超える人たちを受け入れる際の考え方に通じているな、と、自戒の念も込めて、
心に刻みました。


目の前にいる人材を、無条件に、今ある「スムージー」や「日本米」にしようとしていないか。それが本当に、その人たちを活かすことなのか。
改めて意識したいと思います。

(2015年4月23日)

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