第14回 「固有の『理想のチーム』などない」

中竹監督の考え方は、そうした状況に対していくつかの興味深い視点を示唆していたように思います。そこで今回は、そのなかのひとつを共有させていただこうと思います。

「(大学選手権で優勝するという目的に対して)実は、僕には目指そうとしている理想のチーム像はありません。

最初にその組織を観察してから、その組織の目的に対してどうあるべきかを考えるのが、監督としての僕の仕事だと思っています。そういう意味で、僕の固有の理想は全くないのです。」(中竹監督)

目的達成のためには、「最初にその組織を観察してから」はじまるということ。それをベースに「目的」に合わせて、やるべきことを決めていく。

そして、現存する組織と、今掲げられた目標の組み合わせから、戦略と戦術、それを実現する日々の行動が決まっていく。だから、「固有の『理想のチーム』などない」というのです。

成功哲学やコーチングなどでよく、「今、自分が変えられることだけに集中する」といわれます。

自分が影響力を持てないものに対して不満を募らせても、ストレスが溜まるばかりで、百害あって一理なし、だからです。

もちろん、大局に立てば、会社全体でみて、足りない力、今後必要となる強みを見極めて、採用や教育を強化していくということは非常に重要です。(この話はいつか掘り下げてみたいと思っていますが。)

でも、目の前にある目標に対して、今リーダーは何ができるのか。

「その目的に対して選手たちの力と僕の指導者としての力をミックスした時に、何が一番いいのかと考えたわけです。

僕には強烈なカリスマ性とかリーダーシップはありません。

だから、僕が選手みんなの力を最大限に引き出す、そして、選手みんなが何をすればチームに貢献できるかを自主的に考えて行動できるようにする。

これこそが、次の大学選手権までの限られた時間の中で最高の成果を出す組織だと考えたのです。」(中竹監督)

「あるべき姿」を追い求めて、そのギャップに嘆いていても仕方ない。リーダーである自分だって、足りないところがある。

そこで、自分も含めた今ある組織をしっかりと観察し、その可能性を十分に発揮するための策を考える、これが中竹監督のとった戦略だったというわけです。

もちろん、そこから先のビジョンの共有とプラン実行に、大きな力を発揮されて今期の成功を納めるわけですが。

「常勝チーム」と言われるようになったチームのスタートが、まず「自分も含めた今ある組織をしっかりと観察する」ところにあったというのは興味深く、人と組織を考えるときの大きなヒントになるのではないかと思いました。

「組織は戦略に従う」(チャンドラー)と言われますが、「戦略実行の成否は組織に属する人に規定される」ことから100%逃れることはできないはずで
す。

どうしたら組織の顕在力・潜在力を把握し続け、その力を最大に保つことができるのか、組織と人を考えるとき、そんな視点を持ちたいと思います。

中竹監督のインタビュー記事はこちらから読むことができます。↓
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080228/148394/

アマゾンで、中竹監督の本も早速申し込みました。そのなかでヒントになることがあれば、また共有させていただきたいと思っています。

(2008年3月7日)

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