- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
「私の考えた中竹竜二のキャッチフレーズは『日本一オーラのない監督』である」
前回に続いて、早稲田大学ラグビー部を大学日本一に導いた、中竹監督の話をさせていただきたいと思います。
冒頭の言葉は、中竹監督の著書『監督に期待するな』からの一節。
「スタイル」の重要性を説き、スタイルを確立する入り口として、自分にキャッチフレーズをつけたという話に中に出てくる言葉です。
ラグビーをご存知ない方のために、中竹監督の「実績」のすごさを少し。
2007年度、大学選手権優勝(大学日本一)。しかも2007年度に大学生と戦った試合は全戦全勝。
また、対明治大戦(大学ラグビーの早明戦は伝統のある試合で、明治は過去何度も優勝している古豪)は、大正時代に早明戦が始まって以来、最高得点及び最大得点差での勝利。
監督就任2年目で、「すばらしい」としかいいようのない実績を残しています。
そんな人物が「日本一オーラのない監督」なんて、謙遜も甚だしいと思うかもしれません。
しかし、中竹氏の現役時代の選手としての実力を見ると、歴代の監督に見劣りするのは確かなのです。(失礼な言い方ですが、ご本人もそう認めています。)
そして、中竹氏は一見ネガティブな自己イメージを隠そうとしないだけでなく、「スタイル」として前面に出している。
いったいどういうことなのか?
中竹監督の考えるリーダーシップは、時代や世の中の期待に応えない、ということだそうです。
ごく普通の人間が多様な期待に応えることは不可能である。それにもかかわらずすべてに応えようとしたり、逆に「応えられないのだから仕方ない」と開き直ってしまったら、組織は崩壊する。
そこで、普通の人間であるリーダーに求められるのが「スタイル」だと言うのです。
中竹監督によれば、「スタイル」とは「らしさ」。
「スキル」が良し悪しや、高い低いの判断の対象となり、点数化して比較対照できるのに対して、「スタイル」は、あるかないか。
「スキル」がドット(点)なら、「スタイル」はライン(線)。
「スキル」がナンバーワンを目指すのに対して、「スタイル」はオンリーワン。(もちろん、独りよがりの安易なオンリーワンは論外、として一蹴した上で)
そして、「スタイル」はリーダーはもちろん、組織の一員として責任を負うメンバーにも重要な要素である、と。
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万年4軍(早稲田には4軍まであるそうです!)だった選手が、4年生になってレギュラーの座を勝ち取ったときの話が紹介させていました。
始まりは、たまたま同じポジションの1軍、2軍、3軍の選手が次々に怪我で戦列から離脱したため、レギュラーに抜擢されたことでした。
もともと攻撃が弱い選手で、それが4軍に留まっていた理由。
そこで中竹監督は「攻撃は忘れろ、ディフェンスだけ考えろ」と指示を出します。
彼がそれに従っていると、周りの選手からは攻撃ができないその選手に対して不満の声が上がってきました。
そして、怪我をしていた選手たちもだんだん回復に向かっています。
そこで、その選手は監督に、攻撃の練習をさせてほしいと直談判しました。
しかし、中竹監督が言ったことは、
「そもそも4年間攻撃の練習をしてきてまったく芽が出なかった。それが3カ月の練習で上達するわけがない。それよりも、得意なディフェンスに磨きをかけることを考えろ」
でした。
彼はなかなか納得しなかったということですが、最後には中竹監督の指示に従います。
そして、結局、すべての選手が怪我から復帰しても、彼はレギュラーの座を守りきったのです。
守備の要としてのスタイルを確立し、そのためにプレーにぶれがなくなったからです。プレーにぶれがないということは、周りの選手が合わせやすいということ。
また、「ディフェンスは確実にヤツに任せられる」と信頼できれば、他のメンバーはそれ以外のこと、つまり自分たちの「スタイル」に集中することもできる。
これが中竹監督の考える「スタイル」のひとつです。
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リーダーをはじめ、組織のメンバーに「スタイル」が確立すると、「格上」に勝つことができるようになるといいます。
たとえ相手に総合力で負けていたとしても、自分たちのチームのメンバーひとりひとりの「強み」(アドバンテージ)を見逃さず、それらを活かしてうまく組み合わせることで、突破口を見つけることができるからです。
この「強み」(アドバンテージ)になりうる要素が、「スタイル」だ、ということです。
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私たちは、メンバーの「スキル」の見える化に必死になり、組織をぐいぐいと引っ張っていけるリーダーの育成に躍起になっています。
それらが間違いだとは思いませんが、中竹監督の考え方が加わることで、その可能性が広がるのではないか、と感じます。
日経ビジネスオンラインでたまたま見つけた記事からたどり着いた『監督に期待するな』でしたが、期待以上に得るものが多い本でした。
この他にも沢山、「なるほど。。。」とうなる話があったので、またご紹介していきたいと思います。
組織の運営や若手の育成に興味のある方は是非お手にとってみてください。
損はないと思います。
(2008年3月21日)