第20回 「本物の失敗」と「ただの失敗」

前回は、「時間の価値」について考えましたが、今回は「失敗の価値」について考えてみたいと思います。

先日、「日経コンピュータ」(2008/5/15)を読んでいたら、サントリーラグビー部の清宮克幸監督の講演録が掲載されていて、気になる言葉があったからです。

「本物の負けというのは、あれがあの場面でこうだったら勝っていた、というもの。何をしたら勝てたか分からない負けは“ただの負け”。」

「サントリーでは、必要な負けのことを、『ネササリー・ロス』と呼んでいます。ネササリー・ロスと口にすれば、負けた試合のシーンが思い浮かぶ。そして、自分が何をすべきかを意識する。行動が変わってくる。」

清宮監督がおっしゃった意図と少しずれるのだとは思うのですが、そのとき頭に浮かんだのは、たとえ何かで「負け」たとしても、「本物の負け」にできれば、負けにも「勝ち」と同等もしくはそれ以上の価値がある、と考えることはできないか。

企業のマネジメントに当てはめて考えると、「失敗しないためには」と考えるのではなく、「失敗を『本物の失敗』に変えていくシステムは?」という発想が、今後の企業の競争力を高めていくひとつのカギなのではないかと、思ったのです。

「人材」マネジメントの領域では、特に。

愛読書である『奇跡の経営』(リカルド・セムラー)の中にも、「失敗」について示唆に富む話が書かれていました。

「失敗をしないため」に多くの企業が導入する考え方として、「マニュアル」「ルール」があるのではないでしょうか?

しかしリカルド氏は、

「新しいことにチャレンジすることによるリスクを避けたいのは理解できます。しかし、そうすること自体が、リスクを背負い込むことになるのです」 

そして、直観で行動することを奨励し、社員の経験・能力を最大限に引き出すことを目指しています。

「誰も直観にしたがって行動することを許可されない限り、マニュアルを超えて考えようとはしません。しかし、直観で行動することが許されることになっていれば、会社のため、そして自分自身のために、直観に基づく行動をとれるようになります。」

そして、「許可を請うより、許しを請え!」というのです。

つまり、失敗を恐れるあまり、自分なりに思うことがあっても「ルールに従っておくほうが安全」と思ってしまう企業文化になってはいけない。

自分の経験・知識に基づいた直観であれば、それを使ってみることを、会社としては価値にあることだとみなす、というメッセージです。

実際にリカルド氏は、自身が懐疑的である新規事業に対して、

「一定数の社員が直観的に成功を信じ、自分たちでその成功にコミットしていること」

を理由に巨額の投資をしています。

氏は、「タルトタタン」誕生の話を引き合いに出します。

「失敗は、わたし達にやってはいけないことを教えてくれるものだというのは、誤った考えです。タルトタタンが、そのよい例です。

フランスの有名なアップルタルトは、まさに失敗の産物でした。

ある日、ビストロを開業している二人のタタン姉妹は、お店のオープン時間前に、必要なアップルタルトのパイ生地が間に合わずあせっていました。

そこで早くしようと、パイ生地をリンゴの上において15分焼き、それを取り出して上下逆さまにおいてみたら、あーらびっくり、アップルタルトの出来上がり!これがタルトタタンの誕生秘話です。」

誕生の経緯には、異説もあるそうですが、いずれにしても、失敗からの産物であることは間違いないようです。

失敗が生み出す結果を信じて、失敗しないことよりも挑戦することを選び、失敗から学び、新しい価値を生み出していく。

コロンブスのアメリカ大陸発見しかり、エジソンの電球の発明しかり。

人の想像を超えた何かが生まれる(発見される)ときには、「失敗」の二文字が常にあることは、私たちは知識としては理解しているのだと思います。

しかし、企業での人材マネジメントとなると、どうでしょうか。

「失敗をしないため」の研修、「失敗をしないため」のマニュアル、「失敗しないため」のマネジメント。

それらは必要な部分あると思いますが、それだけになっていないか。それだけで良いのか。

自分の日々の仕事も含めて、考えさせられました。

皆さんはどう考えられますか?

(2008年5月30日)

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ