- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
今回は、最近経験した話から、考えさせられたことを共有させていただきたいと思います。
先日、人事・組織コンサルタントのBさんに、お付き合いのある企業のトップAさんをご紹介する機会がありました。
そのときAさんは、「コンサルティング業のお仕事の中には、人事制度を策定することになるのですか?」といった趣旨のことを聞かれたと思います。
するとBさんは、
「私が人事制度を一から作ることはありません。」と。
私は、一瞬、きょとんとしました。「人事制度は作らない?人事コンサルタントが?」
「私がお手伝いすることは、各組織をミッションに対して適合している状態にして、その組織に属する従業員一人一人が十分活躍できる環境を作ることです。
そうした状態が実現すると、『今後、自分たちの組織はどうあるべきなのか』『どうありたいのか』が自ずと見えてきます。
それが腹に落ちれば、あとはそれを継続・発展させるために、ベストと思われる制度を社内で策定すればいいのです。
『これが正しい人事制度です』と言って、別の企業で成功した制度の焼き直しを提案することはしないんですよ」
と答えられました。
もちろん、実際の策定にあたって、頭で描いたイメージが、制度として成立するために『家庭教師』的に関わることはある、ということでしたが。
結構、目から鱗でした。
(私の勉強不足だったのかもしれませんが、、)
「人事制度は、あくまで自分たちがありたい姿(組織)を継続・発展させるための方策である。」
であれば、まずは自分たちのありたい姿を実際に体験したうえで、その実感をもって制度を策定していく。
確かに、「理想の世界」は案外容易にに想像できます。
だから、「こういう報酬制度になったらいい」「評価の視点はこうした方がいい」と、決めることはできるでしょう。
しかし、本当に充実感を得る仕事をチームで成し遂げることができたとき、達成不能と思っていた目標を周りのサポートを得て達成したとき。
どんな制度があれば、次も頑張ろうと思えるのか。もしくはどんな仕組みがあれば、そうしたことを実現するために力を出そうと思うようになるのか。
そうした現場の実感から制度を生み出すという発想は、はっきりと持っていませんでした。
その直後に、たまたま手にした本にも同じようなことが書かれていました。
題名はずばり、『バカな人事』(中村壽伸・著/あさ出版)
著者は、人事・組織の戦略をサポートするコンサルタントをしている方です。
この方も、この本の中で、ご自身を、「人事制度をつくらない人事コンサルタント」として紹介していました。
短い期間の間に、同じ話ようなに2度も出会うとは。。。と、ちょっと驚きました。
少し長いですが、引用させていただいきます。
「人事コンサルタントは、何をもって成功とするのかをまずクライアントと語りあわなければなりません。
本来、事業が成功したときの姿を事前にじっくりと話し合わなければ、業績が上がる制度など提案できるはずがないのです。」
「私のクライアントに、アメリカの子会社で営業職についていたところ、日本の本社に呼び出され、経験もないのにいきなり人事担当者に抜擢された人がいました」
この方は、新しい人事制度を導入し、会社の業績に具体的に貢献するのですが、
「営業部門を強くしたいという経営者のニーズに応えるには、営業現場の課題や喜びを知りつくした人の意見をよく聞けばいいのです。(中略)
同じように、強い製造現場をつくりたければ、製造部門を熟知した人間によく話を聞く必要があるのです。」
「人事の仕事は『どのように成功していくのか』といった、社員一人ひとりのサクセスストーリーを提供することです。
そのサクセスストーリーの集合体が会社ですから、成功物語ができるのであれば、制度がうまく運用されなかったとしても、何ら問題はありません。」
2人のコンサルタントの方の言葉やアプローチは少しづつ異なりますが、言わんとすることの核心は共通していると思います。
「人事制度は、実際に成功した経験から生まれてこそ、現場で活きる。」
「人事の仕事は、社員一人一人のサクセスストーリーを提供すること。制度を提供することではない。」
こういった考え方を、皆さんは、どうお考えになりますか?
(2008年6月27日)