第29回 「現場」の価値について

先日、日経新聞朝刊(2008/09/15)の「春秋」に興味深い話が掲載されていました。

お読みになった方もいらしゃるかと思いますが、要約させていただきます。

秀峰岩木山(弘前市)のふもとでリンゴ園を営む木村秋則さん。

木村さんは県や農協から配られる農薬散布マニュアルに従わず、自然栽培を貫き通し、「奇跡のリンゴ」を生み出したと言います。

最初はマニュアルに従わないことの苦情を言っていた役所の職員が、協力を申し出るほどの成功を納めました。

「複合汚染」という過去の経験も忘れて、日本の農業が農水省や農協の言うことを無批判に信用して実行しているという現実に、木村さんのような現場で農作物と向き合い続けた方が、「できるわけがない」という理想を実現したのです。

その木村さんいわく、

「農政を司る人は一回、畜産、漁業、米やリンゴづくりを二年間実習して、それを体験しないかぎり認めないとしたらいい」と。

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また、時を同じくして、個人的に毎日購読している「ビジネス発想源」というメールマガジンでも、こんな話が掲載されていました。(2008年9月12日発行分より)

ルパン3世のテーマソング、と言われてすぐに思い出せる方は多いかと思います。

その作曲家である大野雄二氏の『ルパン三世 ジャズノート』に書かれていた話だそうです。

80年代になるとCM制作の世界に変化が起こったといいます。

CM制作のノウハウが確立しはじめ、クライアントサイドもそれを学習し、数社の広告代理店をコンペ方式で競わせ始めました。

そこで何が起こったか。

コンペに勝ち残るためには、より具体的な案を出さなければならないので、営業が自ら絵コンテをつくったり、イメージに合う曲を選曲するようになってきたといいます。

その結果、制作サイドには「これで仕事をとってきたのだから、この通り作ってくれればいい」という仕事の依頼が増えてきたそうです。

そうなると、音楽を作る大野氏に対して、他人の曲のカセットを渡し、「これに近い音楽を作ってくれ」といった依頼がくるようになってきたと言います。

その結果として、一見格好よく見えるけれど、それを見たあとに何の宣伝だったか思いだせないという本末転倒のCMが増えてしまった、と大野氏は見ています。

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なぜこれらの記事に目がいったかと言えば、花王株式会社の会長である、後藤卓也氏の話の中で出てきた、「現場」という視点について考えていたからです。

「たとえば、ヒット商品が生まれるとその商品の開発担当者が脚光を浴び、雑誌や新聞などで紹介されてちょっとしたヒーローになります。しかし、決して一人の力だけでヒット商品は生まれません。・・・<中略>・・・

その裏には、商品の安全性の研究を黙々と続けているスタッフや、3交代で夜中も工場で生産活動に従事している人たちなど、縁の下で支える社員がたくさんいるのです。

こうした日の当たらないところに目配りをすることが、経営者である自分の役割だと思ってきました」
(「日経ビジネス」2008.9.15「有訓無訓」より)

そして、実際に各拠点を行脚し、「あなたのやっている仕事に1つして無駄なものはない」と伝え続けたそうです。

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3つの方向から、「現場」の価値ということを考えさせることが偶然、この2週間で私の前に現れました。

それぞれのエピソードは、異なった形で「現場」というものを捉えていると思いますので、統一感のあるまとめをするつもりはありません。

しかし、各社が持つ「現場」の価値をどうしたら最大限に生かしていけるのか。

人事に関わる立場の私たちが考える意味があるのではないかと感じた2週間でした。

最後に、俳優であり後輩の養成にも力を注いでいる仲代達也氏の言葉です。

「新劇の世界は、一に作者、二に演出家、三番目にやっと俳優という位置づけになっているような気がしていますが、どんなにすぐれた脚本があっても、それを俳優が肉体化しなければどても成立しません」

先が読みにくい昨今、「現場」の価値の最大活用、という視点がますます重要になってきてるのでは?と感じた次第です。

皆様はどう考えられるでしょうか?

今回参考にさせていただいた本や資料

・「日本経済新聞」朝刊 2008/09/15 1面「春秋」
・「ビジネス発想源」(メールマガジン・2008年9月6日発行)
『ルパン三世 ジャズノート』大野雄司・著 講談社
・「人間と野生の本能を描く」仲代達也が語る仕事2(Asahi Kyujin Web)

(2008年9月19日)

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