- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
ある本の一節から。
「食糧庁の大広間で、長官以下幹部職員を集めて試食会を開いた時も絶賛された。・・・
新聞にも『奇跡の食品』『米作農業の救世主』といった見出しが躍った。・・・
私自身も長い経営者人生の中で、これほど褒めそやされたことはなかった。」
一方、同じ本の別の一節。
「『アメリカ人は動物性タンパク質を好むから、でんぷん主体のめん類に成長性はない』という。・・・
社員に聞いてみても『欧米人は猫舌で熱いものは食べられない』とか、『食事中に音を立てるとマナーに反するので、めんをすすることができない』とか、腰が引けたはなしばかりだった」
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ここまで書くと、どこの会社の話か、想像がついたかと思います。
最初の一節は、日清食品が1974年に、「カップライス」を発売する際に行った試食会でのこと。
次の一節は、同社が1970年に、アメリカ向けに「カップヌードル」を開発・発売をする際のエピソードです。
『魔法のラーメン発明物語』安藤百福・著から、引用させていただきました。
さて、その結果は・・
「カップライス」発売1カ月後には追加注文がこない、という状態に追い込まれます。
つまり、まったく売れなかったのです。
今度は、社内では、「時間をかけて消費者の需要を掘り起こそうという意見が大半を占めたといいます。
しかし、社長である安藤氏は、短期間で、カップライスからの撤退を決めました。
一方、「カップヌードル」はといえば、ご存じのとおり。
現在も日清食品ブランドとして、堂々とその存在を示しています。
海外に行っても、”Cup Noodle”を、現地のスーパーマーケットで目にします。
『魔法のラーメン発明物語』には、その他にもいろいろとビジネスに関わるにあたって参考になる話が盛り込まれているのですが、
今回、私はこの二つのエピソードが気になりました。
なぜか。。。
「今、目の前で、自分のアイディアを称賛してくれている仲間がいる。」
逆に、
「精緻な理論や『既成事実』で、アイディアの欠点を分析して反対してくる上司や、コンサルタントがいる。」
この空前の不況の波にもまれて、「何かしなければ」ともがくなかで、どちらの場面にも直面することが多くなってきた気がするからです。
そのときに、「そもそも、何のために、誰のために」といったところに立ち返って考える勇気がないと、自分が望まない道へとどんどん進んでいってしまうのではないか、と考えさせられました。
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環境問題に対する関心が高まるなか、多くのファンを持つ「シャボン玉石けん」(旧「森田商事」)。
もともと、合成洗剤の卸売りを手掛けていた「森田商事」が、合成洗剤はいっさい取り扱わない、石けん専業でいく!と決めたのは、先代の社
長、森田光徳氏が43歳の1974年のことでした。
(石けんと合成洗剤の違いに興味のある方は、こちらで。シャボン玉せっけん株式会社様のサ
イトです。)
森田氏自身が、合成洗剤が人体と環境に及ぼす影響を知って、自分の良心に従い、合成洗剤からの撤退を決めたのです。
1974年当時「森田商事」の合成洗剤関連ビジネスの月商は8000万円。
当然、社長の母である会長はじめ、社員全員が反対したといいます。
案の上、石けん専業宣言を実行した直後の月商は、たった78万円となってしまいました。
これでは、反対が収まるどころか、強烈になっていくばかりです。
そしてとうとう、3年後の1977年には、100人いた従業員が5人まで減ってしまったそうです。
「森田商事」(1987年には「シャボン玉石けん」に社名変更)が、その後黒字決算になったのは、実に18年後の1992年のことでした。
それでも、年商4億。
しかし、その10年後には、年商が55億を超える成長を遂げるのです。
また、1999年には、坂本龍一氏が企画したオペラ公演で特別協賛企業を探していた際に、「環境に取り組む理念がすばらしい」ということで、坂本氏自身が特別協賛を依頼した、というエピソードも残っていま
す。
(ちなみに、坂本氏自身がシャボン玉石けんの愛用者だとか<2002年現在の情報>)
少し長くなってしまいましたが・・・
混乱が激しい時には、自分でもいろいろなことを考えるし、いろいろな人が、実しやかにいろいろなことを言います。
普段気にならない声も、必要以上に聞こえてしまったりします。
でも、そんなときだからこそ、「そもそも」に立ち返って考えることの価値について、少し考えてみる必要があるのではないか、と考えさせられました。
皆さんの周りで起きていることを思い起こしてみて、どんな風に考えられますか?
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残念ながら、日清食品の安藤氏、シャボン玉石けんの森田氏、お二方とも逝去されてしまいましたが、もし今回の話に少しでも興味をもたれた方は、お二方の本に触れてみてください。
『魔法のラーメンの発明物語』安藤百福・著 日経ビジネス文庫
『好 信 楽 森田光徳聞書』 沢辺克己・著 西日本新聞社
(2009年2月6日)