第45回 全体最適と時間感覚

現在、弊社では、「人材・組織システム研究室」という、Webサイトの最終的な仕上げをしています。

私自身、「戦略人事にITを活かす」をテーマに、ITサイドから、人事に関わるお客様にご提案する日々ですが、

その活動を深掘りすればするほど、もっと、人事戦略について、今後の「人材マネジメント」について知らなければ、本当の意味で人事に役立つIT技術の提供はできない、と感じていました。

そこで、今年の始め、人事にとってのITについても考え、同時に今後の人材マネジメント、戦略人事についても考える場を持ちたいと切に思うようになりました。

そこで、そういう場として、「人材・組織システム研究室」をいうWebサイトを立ち上げることになったのです。

最初のコンテンツは既に完成しており、5月末から6月初めにはご案内できると思いますので、楽しみにしていただければと思います。
(こちらのメールマガジンでご案内させていただきます。)

さて、そのなかで、戦略人事・人材マネジメントの分野で活躍されている方々にインタビューさせていただくセクションがあり、第一回目として、日本総合研究所・調査部・マクロ経済研究センター所長の山田久氏にお話を伺わせていただきました。

山田氏は、「労働エコノミスト」という新しい立場から、日本の労働市場に対して興味深い発言をされている論客。最近は、NHKのご出演も多いので、お話される姿をご覧になった方も多いかと思います。

詳しいインタビュー記事は新サイトに掲載しますが、お話のなかで、興味深いご指摘がありました。

「人事を考えるなら、『経済』、『経営』、『人事』という構造で考えるべきだろうと思います」

「人事に必要なのは、譲れないコアの部分を守りつつ、「経済」「経営」との緊張感の中で時代の要請に応えてていくことでしょう」

「日本企業も、世界に出て戦っていこうと思ったら、日本の市場とか日本の人材を大切にしないと、絶対に戦い抜いていけないと思います。」

部分最適を各々が求めすぎる結果、日本の労働市場という全体最適を壊しているのではないか。

自社の人事、自社の経営の短期の最適化、ということだけを考えていては、結局、中長期的には、自分たちの首を絞めるのではないか。

こういった問題意識がこれからの人事には求められるのではないか、ということです。

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先日、神戸大学大学院の加護野忠夫教授が、プレジデントという雑誌の中で非常に興味深い指摘をされていることを、教えていただきました。

我々は、企業の中の「時間感覚の違い」を、もっと理解するべきではないか、と。

「同じ会社の中でも、時間感覚は違う。製造現場や経理の人々は、分、時間、日を単位にして考え、動いている。

営業の人々は週、月を単位に考え、研究、企画部門は、年を単位に考えている。・・・

単に違うだけではない。その時間感覚を考えて判断しないと、よい仕事はできない」

部門間の対立、部門間の壁の原因のひとつには、この時間感覚の違いがあるようです。

加護野教授は、企業の中の時間単位を、

短期: 3週間から3カ月で、時間の単位は週/月
中期: 3カ月から3年で、時間の単位は年
長期: 3年から30年で、時間の単位は10年

と分けて説明をされます。

四半期決算の開示をする企業が増えるなか、本来、中期や長期で考えるべき問題・課題も、その時間感覚に引きずられてしまっていないか、という問題提起です。

「実際に、経営者が短期の数字にとらわれすぎているのではないかと思わせるような現象も起こっている。非正規労働への過度の依存、速やかすぎる雇用調整は、経営者が短期的な数字をつくるために出てくる問題である。

緊急時代が発生したときには、短期対応が不可欠だが、それに目を奪われてしまうのは問題である。」

このお話では、経営者が、上記の3つの時間感覚のどれか一つだけのとらわれるべきではない、という結論になっていくのですが、「人事の仕事」と範囲を限定したとしても、同じことが言えるのではないか・・・

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これら2つのご指摘を通じて、

コスト削減の要請が厳しくなっていくなかで、人事の仕事の成否の判断基準として、ますます「自社の人事の、短期的な最適化」というポイントにばかり重点が置かれていないか?と考えさせられました。

もちろん、企業は毎年売上を上げ、利益を上げていかなければなりません。

日経新聞を開けば、「減」の文字が全面に躍っているこの状況で、マクロ経済的な視点、10年単位の長期的な視点を持って、、、などというのは口当たりのよい理想論、と片づけられてしまうのかもしれません。

一方で、こんな時期だからこそ、細々だとしてもこれらの視点を持ち続けられた経営・人事が、この不況が明けたときに大きな差をつけるのではないか、と思った次第です。

今回は、少し抽象的な話になってしまいましたが、折に触れて本質論というものに触れることは必要だと感じました。

皆様はどうお考えになるでしょうか。

今回参考にさせていただいた書籍・記事

『雇用再生 〜 戦後最悪の危機からどう脱出するのか〜』山田久・著 日本経済新聞出版社
・「勝敗を分かつ『3カ月、3年、30年』の時間感覚」 
加護野忠夫・文 プレジデント(2009 6.1号)(プレジデント社)

(2009年5月22日)

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