- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
いきなり映画の話から入りますが、個人的な趣味の話をするわけではありませんので、しばしお付き合いください。
『ザ・マジックアワー』『K-20 怪人二十面相・伝』『おっぱいバレー』
これらの映画には共通点があります。おわかりになりますか?
私はまったく知りませんでした。
答えは・・・北九州市でロケを行った、です。
原作では異なった土地が舞台だったものや、もともと北九州にはまったく関係ないものもあります。
が、すべてロケ地が北九州。
(これは、私が常に勉強をさせてもらっている日刊メールマガジン「ビジネス発想源」(M&C研究所・弘中勝氏・執筆)で教えていただきました。)
その他にも、『バトルロワイヤル2』『プルコギ』『サラリーマン金太郎』なども、北九州でロケを行っているそうです。
何故、こんな現象が起きているのか?
それは、偶然や運ではなく、北九州市が本気で地域を活性化させることに取り組んでいるからです。
「地域活性化」という観点から大きな成果を上げているわけですが、その詳細を知って、「自分たちは何者なのか」を言葉にすることの意味について考えさせられました。
私は今、図らずも、この話題を語るにあたって「地域活性化」という言葉を使いました。
このような話の場合、「街おこし」もよく使われる言葉でしょう。
これらの言葉は、複数の人たちの間で、短時間で共通のイメージを持つのに大変便利です。
しかし、その便利さの裏には、思考の広がりにブレーキをかけてしまう働きがあるのではないか、と気づいたのです。
実はこの成果、「地域活性化」「地域振興」「街おこし」といった言葉ではなく、「イメージアップ」というキーワードで始まった活動の結果でした。
昭和63年に実施された「全国11大都市住みやすさアンケート」で、北九州市は、生活環境の調査では総合1位!
しかし、都市イメージ調査では、なんと最下位でした。
せっかく一番住みやすい生活環境があるのに、それがまったく認知されていないどころか、最悪の街だと思われていた、ということです。
出てくるイメージは、「鉄冷えの街」「暴力の街」「文化砂漠」等々。。
つまり、イメージが悪いために、企業や観光客の誘致に不利益が生じているという可能性が高い。
加えて、マイナスイメージが強い街ということで、市民は自分たちの街を語る言葉をなくしているようにみえる。市民の自信を取り戻したい。
そこで、できた組織が、「北九州市広報室『イメージアップ班』」だっ
たのです。
「地域振興」でも、「街おこし」でもなく、「イメージアップ」。
シンプルな言葉ですが、やるべき方向性が明確です。
では、「イメージアップ」のために何ができるのか。
当時の広報担当だった安藤氏は、街の実態の素晴らしさをそのままの姿で全国の人々に見てもらえばいいじゃないか、と思いつきました。
現実をありのままに伝えるには映像媒体が一番効果的だろう。であれば、映画、ドラマ、旅番組などを誘致すればいいのでは?
こうして、北九州市広報室イメージアップ班は、日本初のフィルム・コミッション組織となり、大きな成果を上げるようになったそうです。
これを、最初に深く考えずに、「地域振興をしましょう!」「では、何ができますか?」、という発想と言語化で取り組んでいたら、果たしてこれだけ成功するフィルムコミッションを作り上げることができたのか?
「自分たちがするべきことは何か」ということを、一般的に使われる言葉でまとめてしまうのではなく、自らの腹に落ちる形で言語化していくことの重要性を感じました。
(「北九州フィルムコミッション」の話は非常に興味深いので、お時間のあるときに是非読んでみてください。
⇒ http://www.kitakyu-fc.com/about/index.php )
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今回この話を取り上げようと思ったのは、同じようなことが「人事」「人事部」というエリアでも言えるのではないか、と思ったからです。
先日、サイバーエージェントの取締役人事本部長の曽山氏のお話を伺う機会がありました。
その中で、「目から鱗」の言葉に出会ったのです。
サイバーエージェントでは、
「人事は、会社と現場のコミュニケーション・エンジンとなる」
「経営陣の考えを『わかりやすく』現場に伝え、現場の声から『本質を見抜いて』経営に提言する。これが、人事の仕事」
だ、と定義しているというのです。
「人事=コミュニケーション・エンジン」、です。
一般的な「人事部の仕事」をイメージしていると、「人事=コミュニケーション・エンジン」という関係に違和感を覚えるのではないでしょうか?
数年前、曽山氏が営業から人事に異動してきた際に、経営陣から出てきた人事への要望と、現場から出てきた人事へのリクエストを生の声として集め、サイバーエージェントにとっての人事の役割とは何かを議論したそうです。
そこでのひとつの結論が、「人事は、会社と現場のコミュニケーション・エンジンになる」でした。
となると、経営と現場のコミュニケーションがうまくいっていないとしたら人事の仕事はうまくいっていない、ということになります。
そのため、人事が制度を導入するときには、「現場はこの制度に対して白けてしまわないか」「現場はこの制度を喜ぶだろうか」と自問自答するそうです。
どんなに精密に設計された制度であっても、経営の意思を正確に反映させていたとしても、現場がそれを喜んで受け入れていなければ、よいコミュニケーションが成立しているとは言えない。
だから、人事制度が設計できて導入したら終わり、ではなく、それが経営と現場のコミュニケーションツールとして機能して初めて、成果として認められるということです。
詳しくは、曽山さんのブログに図つきで説明がありますので、興味のある方はこちらからご覧ください。
⇒ http://ameblo.jp/dekitan/entry-10183336802.html#main
(今は、上の話から更に進化しています!)
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「人事部」という言葉を聞いた瞬間に頭に浮かんでくる、多くのステレオタイプのイメージや既成概念にとらわれていると、人事=「コミュニケーション・エンジン」「パフォーマンス・エンジン」という発想にはたどり着けないだろうと思うのです。
「自分たちは何をするべき人・組織なのか」「そもそも何故、存在しているのか」を、じっくりと吟味し、わかりやすく、腹に落ちるように言語化することは、想像以上に重要だと改めて思った次第です。
自分の仕事を、北九州市やサイバーエージェントの人事のように言語化してみるとどうなるのか。考えてみる価値があるように思います。
皆さんはどうお考えになりますか?
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・「ビジネス発想源」(M&C研究所・弘中勝氏執筆・メールマガジン)
・「北九州フィルムコミッション」Webサイト
・ 2009/5/20 組織人材戦略研究会 第22回研究会開催
「サイバーエージェントの戦略的人事の取り組み」
(取締役人事本部長・曽山氏ご講演)
(2009年6月5日)