第72回 どうして犬は水を飲まなかったのか?

あるとき、可愛がっている犬が、暑さのために舌を出してハーハーと苦しそうなのに、水に口をつけようとしなくなりました。飼い主は、このままでは脱水症状になってしまうかもしれないと、かかりつけの獣医さんのところへ。その場で一通りチェックしてもらいましたが、おかしいところが見つかりませんでした。。。

犬の呼吸はますます激しくなってくる。飼い主は心配のあまり、診察室の片隅にあった水のボールを持ってきて、犬の口元に近づけました。すると、犬は狂ったように水を飲み始めるではありませんか。

「おそらく、腰が椎間板ヘルニアになっていますね・・・」と獣医さん。

犬は水が飲みたくなかったのではなく、首を下げて水を飲めなかった、ということでした。

こういうケースは実は少なくなく、それに気がつかず、脱水症状を起こしてしまう犬もいるそうです。

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著名な書道家の学生時代の話です。

勝敗を越えたところに大切なものがある、という考え方に魅かれて始めたという合気道。師に恵まれ、非常に熱心に稽古に通っていました。

ある日、風邪で高熱を出したものの、せめて稽古を見学したいと、道場の端に座っていました。すると先生が近づいてきて、「いつ風邪をひきましたか」と尋ねます。彼女は「今日です」と答えたそうですが、「風邪は徐々に具合が悪くなって今のような状態になっているのだから、今日のはずがない。もっと自分の内側に関心をもってあげなさい」と諭されたそうです。

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2つの話に触れて、目の前で起きている事象をどう捉えるのか、考えさせられました。

「水を飲まない犬は、内臓に問題があるのだ」という予断で接してしまったら、なかなか正しい対応方法が見つからないまま、水が飲めないという状態下に置き続けてしまうだけでなく、腰も悪化させてしまったかもしれない。

「今日、風邪をひいた」という認識でいる限り、風邪をひかないためにはどうしたらいいか、もしくはひいてしまった風邪の症状を軽い状態で留めるためにはどうしたらいいのか、わからないままに、毎年風邪をひくことになるでしょう。

視点を変える・視野を広げる、時間軸を変える。そのことで見えてくる世界はがらりと変わり、その後の行動が大きく変化するということを、肝に銘じようと思います。

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私は日々、人材データベースの構築、人材マネジメントを支援するシステムの導入をお手伝いしているわけですが、人材マネジメントの世界もそうした発想が必要だと痛感します。

悲しい話ですが、人事系部門にサービスを提供するベンダーの方々と話をすると、セミナーなどは、「メンタルヘルス」という言葉が入ると人が集まる、と言われています。

もちろん、発生してしまった鬱の問題に、早急かつ適切に対処することは非常に重要なことです。しかし、その人が、「本当に水を飲めない原因は何か」「風邪のウィルスが体に入ったのはいつ、どういう経緯だったのか」といった視点からも同時に捉えていかないと、悲しいもぐら叩きが続いてしまうように思います。

それを断ち切るために、「人事部が人を管理する」という枠から発想を広げて、「従業員が活躍し、その活躍がビジネスの成功につながっていくためには?」と考えてみる。そして、そうするためにはどのような情報が必要なのか、という視点が今、切実に求められているのではないかと思っています。

決して、簡単な問題ではありませんし、データベースだけで解決するとも思いません。しかし、今私はシステム屋という立場にいますから、まずはそのエリアから、真剣に考えていこうと思いを新たにしました。

皆さんはどうお考えになるでしょうか。

今回参考にさせていただいた情報源

日本経済新聞(夕刊): 2010/07/02 「学びのふるさと」 書家 紫舟さん

(2010年7月22日)

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