第73回 足元にある、価値あるもの

先日、成田空港にて。

私のチケットはエコノミーでしたが、マイレージポイントが溜まっていたために、ビジネスラウンジを使うことができました。ラウンジのカウンターに向かうと、一人の女性がカウンター内のスタッフの一人と押し問答をしていました。

どうやら、その人は、いつもは他の航空会社を使っている。そちらでは家族が特別なメンバーなので、エコノミーチケットであってもラウンジを使用できる。その航空会社と今回使う航空会社はアライアンスを組んでいるので、ラウンジを使えると思った。ということのようでした。対応しているスタッフは、当惑しながら、「でもこちらはご使用いただけません・・」と言っています。

すると、私のチケットを受け取って機械にスキャンをしようとしていたもう一人のスタッフが、「はっ」と気がついたように、お断りを続けるスタッフからチケットを引き取り、私のチケットと照合を始めました。そして、私に向かって、

「この方を、お客様のゲストとして招待していただけないでしょうか」と聞いてきました。

その時まで失念していましたが、私は、同じフライトに乗る知り合いを一人、ゲストとしてラウンジに招待する権利があるのでした。思わず、「素晴らしいアイディア!この人私の友人です。」

このことは、会社のマニュアルからすれば、やってはいけないことだったのかもしれません。しかし、初めて自社を使うお客様が困っている。ラウンジにいるのはたかだか1時間強。どんなに飲み食いしても、ドリンクを2〜3杯、おつまみを少々といったところでしょう。金額換算すれば、大した額ではありません。

一方、今回ラウンジを使えた女性の航空会社のイメージは、ものすごく良くなったとも思えませんが、少なくとも最悪の印象を残すことは避けられたはずです。

そのスタッフは、20代半ばといった感じ。彼女のサービスに対する感覚と機転の早さに感心しながら、私も気持ち良く成田を出発することができました。

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私の乗った便は、夏休みということもあって、多くの若い旅行者が搭乗していました。通路を挟んで斜め前にも、おそらく10代くらいの二人組がいました。なぜ、そんなことに気がついたかと言えば、夕食のサービスのときに、まったく英語が話せずに、日本語が話せないキャビンアテンダント(AC)とすったもんだしていたからです。

飛行機は無事夜間飛行を終え、目的地到着前に朝食のサービスが始まりました。そして、またその二人組のところで、ACがコミュニケーションがとれずにいるのが見えました。日本食がいいのか、洋食がいいのかと聞かれても彼女たちは相手の顔を見るばかりで、一言も言葉を発することができなかったのです。

ついにACは、「So, you don’t need breakfast」と言って、次の人のサービスに移ってしまいまいた。

ACが私のところに来たので顔を上げると、さっきの一人が後ろを向いて、ACを呼び戻そうとしています。どうやら、朝食は食べたいようでした。私は、「I think she would like to talk to you」とそのACに言いました。

そして、立ち上がって通訳をしなければならないか・・・と老婆心を出したところで、もうひとりのACがどうにか彼女たちの言わんとするところを汲んでくれたようで、無事、朝食が渡されました。

日本の若者として、彼らには是非もっと英語を勉強してほしいと思いますが、一方で、いろいろな形で「言葉が通じない人」は存在するのに、とも思いました。

その時、少し前に使った日本の航空会社でのサービスを思い出しました。そちらでも食事の種類を選ぶことができましたが、写真を見て選ぶようになっていたのです。

さっきの場面で写真があればスムーズにいったのだなあ、と思い、おそらくそのアイディアを出したであろう、日本のACのことを思いました。純粋にお客様の便利を考えてのことだったのだろうと想像します。

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先日、外資系企業の人事部長のお話を伺う機会がありました。彼は日本人スタッフを海外に送り出すにあたって、「日本人は他の国の人にはない視点を持っている。問題は、多様な人たちに対するコミュニケーションの仕方を知らないだけだから、謙虚にそれを学ぶ必要はあるが、もっと自信を持っていい」と伝えるとおっしゃっていました。

ともすると、グローバル化の流れのなかで、自信を失う場面・現象に直面するケースも少なくありませんが、自分たちの足元にある価値あるものまで見失わないようにしようと、改めて思いました。

皆さんの周りではいかがでしょうか。

(2010年8月5日)

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