第78回 湖にナンを投げ入れるのは正しい行為なのか

湖を眺めている時、突然隣にやってきた人がナン(インドのパン)を次々に投げ入れたら、どう思うでしょうか?

そして、自分が小石をつかんで「水切り」(小石を限りなく水平に近く投げて、水面をはねさせる遊びです)を始めたら、ナンを投げ入れていたその人に、その行為を烈火のごとく怒られたら・・・

これは、イラン留学中の日本人男性、水谷陣也さんが実際に経験したことだそうです。

「湖」はカスピ海。イラン人の男性が、自分の横にやってくるなり、カレー皿くらいのナンを次々にカスピ海に投げ出したというのです。そして、それが終わると、おもむろに彼の方に近寄ってきました。
そこで、日本からの留学生だと挨拶をすると、

「君の学んでいる大学では、石を湖に向かって投げてはならないということすら教えてくれないのか」

と言われたそうです。石が魚にぶつかって死んでしまうではないかと。水谷さんは、そのイラン人男性がナンを投げ入れたことを逆に突いてみました。すると、「あれは魚のえさになるから全く問題はない」との答え。

忠告にも関わらず石を投げ続けると、イラン人男性は自らも石を取り上げ
て水谷さんに投げる動作をして、魚の気持ちになってみるようにきつく言
い寄ったそうです。

ここでの彼の結論は、「彼にとって大事なのは、もちろん魚が石で実際に死ぬかどうかということではなく、自分の意見を通すことなのだ。」ということでした。彼らは絶対に自説を曲げない、と。

なるほど、イラン人の気質にはそんな特徴もあるのかと、興味深くこのエピソードを読みました。

ただ、当のイラン人男性は、そもそも「石を投げるよりもナンを投げる方が正当性がある」という理屈を持っていたわけで、その点に注目してみると、この出来事からもっと面白いことがわかるのかもしれない、と思いました。

例えば、自然への考え方がまったく違うかもしれない、同じ場に男が二人いたら自分の優位性を誇示せずにはいられないのかもしれない、相手に非難される前に自分が優位に立とうしている ― つまりイラン人にとってもナンを投げ入れるのは単純に悪いことなのかもしれない…。

いろいろな仮説が頭に浮かんできます。(イランをご存じの方からみると、まったく的外れかもしれませんが。)

今度、イランに詳しい方、イラン出身の方にお会いする機会があったら、是非このエピソードについての感想や解釈を聞いてみたいと思いました。

水谷さんは、この他にも、先のサッカーのワールドカップの際、イランの人たちが「日本はじめ韓国、北朝鮮、オーストラリアのチームを、自分たちアジアの代表として、心から応援してくれている」姿を目にして、かの国の人たちとのつながりを実感したり、

バスの中で突然歌いだした老人に拍手喝さいが起こるのを見て、「他人のことに興味があれば、すぐに態度に表すイランの人と、見てみぬふりをしようとする日本人の筆者。素直に感情を表せるイランの人が、このときばかりは羨ましく思った」と、その様子を伝えています。

これらエピソードは、Asahi中東マガジンの「街角から」というシリーズの中で紹介されていたものです。そこでは、中東で暮らす日本人が、自分たちがそれぞれの国で体験したエピソードを投稿しています。意外な話、驚くような話も少なくなく、楽しみに読んでいます。

投稿者はビジネス等で駐在・滞在している人が多いようですが、水谷さんのような海外留学生も少なくありません。彼らの報告を読んでいると、20代(おそらく)でこれだけの経験をし、発信している姿がとても頼もしく感じます。

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最近、就職活動に不利にならないように、海外留学を断念する大学生が増えているそうです。

W大学の女子学生は、3年生の秋から4年生の夏ごろまで日本にいないことが就職活動に与える影響を考えて、かねてから夢だった海外留学を断念したといいます。

「日本語が通じない環境で、語学力とともに自分を成長させたかったのに。」
でも、「戻ってきたら大手企業は内定を出し終えている」

もったいない。彼女も、目的の地で驚くような経験をし、人脈を作り、新しい発見をして、日本のビジネスパーソンになっていたかもしれないのに・・・と、とても残念に思いました。

先日、大手総合商社が2013年春に入社する大卒新卒者から採用活動時期を遅らせると決めたことが大々的に報道されました。大学卒業後3年間は新卒扱いにしようという働きかけもあります。ただ、実際に人事の方々にお話を伺うと、現実的には難しいのではという反応が多いのも現実のようです。

今、私にも具体的な解決策は思い浮かばないのですが、何かしなければいけないのではないか、痛切に考えさせられました。

皆さんはどう思われるでしょうか。

今回参考にさせていただいた情報源

Asahi中東マガジン 
http://astand.asahi.com/magazine/middleeast/intro/「街角から」 

イラン人と能弁と暴論、カスピ海の記憶 水谷陣也(2010/10/8)
バスの中の独演会  水谷陣也 (2010/8/16)
W杯とアジア  水谷陣也 (2010/7/12)

日本経済新聞 「早まる採用 留学二の足」 2010/10/9 夕刊
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