- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
ゴールデンウィークにオーストラリアでドライブをする機会がありました。市街地から走ること2時間
半ほどの町への訪問です。その間、ほとんどがフリーウェイで、平均制限速度110キロ。行きには意
識しなかったのですが、帰りが夜になり、改めて気がついたことがありました。
郊外のフリーウェイにはほとんど外灯が立っていないのです。合流地点付近に、ポツンポツンとわずか
に外灯が立っているだけ。つまり、車が走っていない道は真っ暗です。
目の前に車がいない限り、ドライバーはヘッドライトをハイビームにして走ります。10数年前にオー
ストラリアに暮らし始め、初めて郊外にある夜のフリーウェイを走る車の助手席に乗ったとき、道のあ
まりの暗さに驚き、運転手の何倍も緊張し続けていたことを思い出しました。(その後、そうした機会を
重ね、真っ暗な道を走るのにすっかり慣れてしまっていましたが。)
今回、東京での節電で「暗い夜」を意識していたため、改めて道の暗さを再認識しました。
都心に近づき交通量が多くなると、さすがに等間隔で外灯が並びますが、2時間半のうち、2時間近く
は前の車のテールランプかハイビームを頼りに道を走っていました。それでも事故もなく、皆、器用に
ハイビームにしたり戻したりしながら、目的地までたどり着いているのです。
そのとき、ドーム球場や人工芝に慣れ親しんだ日本の野球選手(野手)が、メジャーリーグに移ると、
千差万別の天然芝での守備に四苦八苦することは珍しくない、という新聞のコラムを思い出しました。
リスクヘッジという意味では、外灯がたくさんあった方がいいでしょう。試合を純粋に楽しんでもらう
ためには、天候に左右されない快適なドーム球場は最高のファンサービスのひとつでしょう。
ただ、暗いフリーウェイを走りながら、人の頭で想定されるすべてに備えるきめの細かさと、そのこと
に慣れ切ってしまうことによって失われていく対応力について考えてしまいました。その状態が永遠に
続けば問題がないわけですが、それは必ずしも保証されることではないのだ、ということに今直面して
いるからです。
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最近、「再起力(Resilience)」という言葉に出会いました。「目の前の難局にめげることなく、これを乗り
越え、かつての姿に戻すというよりも、それ以上になって復活する力」を指します。アメリカが、
9.11テロ、リセッション、戦争などを経験するなかで、注目されてきた概念のようです。
その「再起力」が高い人は、3つの能力を持っているという仮説があり、その中の一つが、「即興力」。
「即興力」とは、「一種の独創的な能力であり、必要なツールや素材が手元になくとも、問題解決策を即
興的に作り出せる能力」です。
例えば、戦中の強制収容所において、「再起力」の高い囚人は、ひもやワイヤーを見つけては拾っていた
とか。後で何に役立つかわからないからです。例えば、凍えるような寒さの中では、そうしたもので靴
を直せるかどうかが、生死を分けかねません。
今、「当たり前」の足元がゆるぎ、「不便さ」を目の前にしているからこそ、取り戻せるもしくは獲得で
きる強さ・力があるのではないか。実は今、そのよい機会が与えられたのではないか。そう考えて行動
してみよう、と思いました。
DIAMONDハーバードビジネスレビュー 5月号 「How Resilience Works」
ダイアンL. クーツ
日本経済新聞 2011/4/28 「チェンジアップ/自然との戯れ 楽しもう」
豊田泰光
(2011年5月12日)