- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
バングラディシュでは、大学予備校ビジネスが非常に盛んである、ということを最近知りました。
ダッカ大学(日本でいうと「東大」の位置づけ)に入学する学生の95%近くが予備校で徹底的に勉強して、
入学試験を突破するそうです。逆に言えば、予備校に通わずに入学することはかなりの困難ということ。
予備校ではいわゆる「カリスマ講師」も存在し、教室はぎゅうぎゅう詰め。
形容詞として「アジア最貧」が使われることが多い国で、激しい受験戦争が繰り広げられていることを
まったく知りませんでした。
しかし、そうした予備校に通うためには、5か月で8000タカ〜1万タカがかかります。しかも予備校が
あるのは大都市。遠方に住む子供が予備校に通う間の宿泊費を含めると、3万タカから5万タカが必要です。
一方、多くの村の成人男子が月に稼ぐ金額は2000タカ程度。つまり、子供を予備校に半年通わせるためには、
村の平均的な家庭の1年分の収入が簡単に消えてしまいます。そのため、村でどんなに優秀な子供がいても、
大学に入ることはほとんど「不可能」なのだそうです。
そんなバングラディシュで、予備校カリスマ講師たちの授業をDVDに撮り、村の優秀な学生たちに無料で
提供するというソーシシャルビジネスを立ち上げ、バングラデシュ版「ドラゴン桜」(落ちこぼれ高校生を
東大に合格させるというストーリーの漫画)を実現した21歳の日本人男性がいます。
その話自体が非常に興味深いので、そちらは改めてどこかでご紹介できればと思うのですが、その前に、
その人物につけられた形容詞が非常に気になりました。
「偏差値28からの逆転」
その言葉を読んだとき、勉強ができずに落ちこぼれてしまった学生が、バングラディシュに行ったことで
人生の大逆転をした物語なのだろう、と無条件に思ったのです。
しかし、彼の著書を読み進めると、大学は早稲田大学、高校は両国高校(都立の進学校)、中学では
生徒会長。偏差値28だったのは、高校の2年間のことで、両国高校に入学した後、最初に躓き、
学校での授業に興味が持てず、そのまま偏差値が底辺まで下がってしまった、ということがわかりました。
その後、一橋大学の米倉誠一郎教授、バングラディシュ版「ドラゴン桜」のアイディアの元になる
予備校の授業に出会い、高校3年生の1年間の勉強で早稲田大学に現役合格します。
ストーリ−を読んだ後、「逆転」という言葉に強い違和感を覚えました。
確かに大学受験の部分だけを取り出せば、「偏差値28からの”逆転”」かもしれない。しかし、
バングラディシュの教育界に衝撃を与えるほどのプロジェクトをやり遂げたという事実は、「偏差値28で
いられたからこそ」なのではないか、と思い至りました。「逆転」ではなく、一本につながった「延長線上」
にあるもの。
苦しいときに自分を抑えて中途半端に周りに迎合するのではなく、とことん自分のことについて考えた結果、
28という最低の数字までたどり着いたのではないか。「28」は、そこで自分を見失わずに、納得する
居場所を探し出したその強さの結果であって、今の彼の成果を生み出した源泉ではないか、と。
「偏差値28」と聞くと、無条件に「成功するためには『逆転』しかないのだ」(つまり、そこにいることは
無条件に価値が低いこと)、という私たちに刷り込まれている感覚を、怖い、と思った次第です。例えば偏差値は
通過点であり、ひとつの価値軸での相対評価でしかないということは、頭ではわかっているはずなのに。
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レンジで温めて食べる白いご飯のパックの話です。
これまで「サトウのごはん」が圧倒的なシェアを誇ってきたそうですが、最近は「たきたてご飯」というブランドが、
かなりの健闘を見せているそうです。
そのポイントは、「これまでパックご飯の量は200グラムが常識」だったところに、「150グラムパック」を
発売したから。
女性や高齢者の存在を考えれば、量にバリエーションがあった方がいいのは当たり前と思ってしまいますが、
業界の中で長らく「消費者の一回分のごはんの平均値は200g」が常識となっていて、多くのメーカーがそこから脱却できることができなかったのだそうです。
常識とされた総平均ではなく、消費者カテゴリから数字を見直してみたら、
150グラムという数値が見えてきて、いち早くそれに取り組んだメーカーが支持を集めた、ということでした。
偏差値や平均値、そこに表示される数字。思っている以上に、先入観に囚われた判断をするということに自覚的で
ありたい、と思いました。
特に、今、人材データを人材マネジメントに活かす、というエリアで顧客の支援をする立場として、気を引き締め
なければ、と思った2つのエピソードでした。
『前へ!前へ!前へ!』 税所篤快・著 木楽舎
メールマガジン「発想源」弘中勝 「平均消費者はどこに」2011年5月12日
(2011年5月26日)