第133回 大事なものは暗闇の中にあるかもしれないじゃないか


アリが、一匹で運びきれる量を超えたエサを見つけたとします。そんなとき、多くのアリは、エサがある場所からフェロモンを発しながら巣に戻るそうです。他のアリがその道筋を逆にたどれば、エサのありかにたどり着けるというわけです。

この状況で、多くのエサを効率よく集めるためには、どういうアリの集団を作ればいいのか。


(1) フェロモンを追尾する能力の正確さが100%のアリを揃える。

(2) フェロモンを追尾していても、一定の確率で間違ってしまうアリも一定数混ぜる。


実験をすると、(2)の集団の方が餌の持ち帰り効率が高くなるのだそうです。これは、「間違える個体」が、効率的ルートを発見していくから。目に見える効率を求めて、ひとつの軸で完璧な状態を作ろうとすると、かえって非効率になる、ということもあるようです。


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狂牛病が流行した時、「プリオン」という単語を沢山耳にし、目にしました。このプリオン、もともと神経細胞に存在するたんぱく質で、何の役に立つものなのか判然とせず、ごく少数の研究者がほそぼそと基礎研究を続けているような物質だったとか。ところが、狂牛病が発生して一躍注目の的に。その応用研究が必要になったとき、それまでの地道な基礎研究が大いに役に立ったそうです。


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これらは、『働かないアリに意義がある』という本の中に書かれていたエピソードです。著者は、進化生物学者で、長年「真社会性生物」(アリやハチといった、特殊な集団構造を持つ生物)を研究しています。この他にも、「実は働き者ではないアリも多い。それはなぜか」とか、「巣の大きさによって、アリの体のつくりは異なってくる」など、興味深い話が満載で(是非、手に取って読んでみてください)、上の2つの話もその一部です。

著者は本の最後で、「科学のなかで一つの理論体系が成熟してくると、すべての現象をその理論体系で説明できるものと考え、新たな考えを排斥する風潮が広がります。生物学者も社会のなかに生きている一つの個体ですから、周りの人間がみなそのように考えていると、自分がみた現象を最初からその枠組みの中で考えるように仕向けられます・・・」といいます。

しかし、新しい現象を、固定されてしまった枠組みで捉えようとしても、「説明できないことは説明できない」。そのことに真摯に向き合い、勇気を持って新しい理論を追求していく必要があることを示唆しています。

私たちとは種の異なるアリの話、職業が異なる研究者・科学者の話ではありますが、大いに考えさせられました。

数年前に、「HR Technology」という、アメリカで毎年開催される人事系ITソリューションを中心にしたカンファレンスの、基調講演で聞いた話を久しぶりに思い出しました。

ある男性が夜道を歩いていると、誰かが街灯の下で、何かを一生懸命に探しています。

近づいて、「一体何を探しているのですか?」と聞いたところ、「家の鍵が見当たらないので探しているのです」との答え。男性は一緒に探して上げましたが、一向に見つかりません。そこで、「本当に、ここで落したのですか?」と聞いてみると、「いえ、ここではないかもしれないのですが・・・街灯が当たっているのがここなので、探しているんです」と・・・

実際に起こったら噴飯ものでしょうが、実は日々の生活やビジネスの場面では、決まり切った照明が当たっているところだけで、物を考え、解決しようとしている可能性は低くないのではないでしょうか。

講師は最後に、「大事なものは暗闇の中にあるかもしれないじゃないか」と言っていたのが、印象的でした。

自分の固定概念から逃れることは決して容易ではありませんが、まずはそういうもの気がつかないうちに囚われているかもしれないと意識するところから、始めたいと思います。


(2014年12月9日) 

 
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