第148回 バなのかパなのか。そのどちらでもない世界に浸る
今年は、立てつづけに中国語のシャワーを浴びる機会がありました。
まずは、日本企業の視察に訪れた方々に、日本における人材・タレント
マネジメントシステムの現状について
講演をさせていただく機会をいただ
き、その後、日本の人材ビジネスの視察にこられた会社の方々が、弊社に
訪問して下さいました。
中国語を話せない私の講演は、当然日本語。
すべて、人材マネジメント
やシステムのことを理解している方々に通訳していただきました。幸い興
味を持っていただいたようで、講演後は沢山の質問をいただきました。そ
れらもすべて通訳の方を介して回答していったのですが、途中からは、視
察団の方々同士の議論がそこここで始まり、最後には何が起きているのか
わからない状況になっていきました。。。
弊社にお越しいただいた際には、弊社にいる中国籍の社員が通訳をして
くれました。十分に準備をして自分の知識を伝えるという仕立ての講演会
とは少し異なり、意見交換といった側面もありました。
自社の社員は信じ
ているものの、自分が言った微妙なニュアンスが伝わったのか否か、確認
する術はまったくないことを痛感しました。
海外で働いていた時にも、中国系の方々は多数いましたが、会話はすべ
て英語。大抵のことはコントロール内でした。ですから、ビジネスという
場面で、まわりで話されていることがまったくわからない、という状況に
置かれた経験がなく、その感覚は衝撃的でした。
ということがあり、1年前には考えもしなかったことですが、中国語の
学習してみることにしました。
正確にメッセージを伝えるためには、信頼
できる通訳を使うのが正解なのでしょうが(外交場面で見るように)、
ニュアンスや感覚を、少しでも掴んでみたいと思ったからです。
中国語というと四声(4つのトーン)が有名ですが、今私が苦労している
のは、無気音と有気音の聴き分けと発音です。ピンイン(中国語の読み方
の表記)では、例えば、BやDが無気音、PやTが有気音となります。
私は最初、これはバとパ、ドとトといった、濁音と半濁点という違いな のだと理解し、Bの音を発音していたら、「息が漏れてますね」と、ダメ
出しを受けました。「『P』に聞こえる」と。
最初は頭の中が?????で一杯になりました。また、私の耳にはTaと
聞こえるものが、Daだったりして更に混乱。つまり、典型的な日本語話者
の私には、濁音・半濁音の違いの存在が理解できても、無気音・有気音の
違いはまったく新しい概念、身体的に反応できないものだった、というこ
とです。
言語学的には、弁別的素性(distinctive feature)とか対立と言われるよ
うですが、言語には異なる意味が発生する違いというものがあって、それ
がそれぞれの言語によって異なる、ということです。
改めて、自分が寄って立っている世界とは違う世界があることを、痛感
しています。どちらが絶対的に正しいとか間違っているということでは片
付かない、ただただ「違う」ということ。長く一つの世界に居ればいるほ
ど、新しい世界に適合していくことは容易ではないこと。そんなことを考
えながら、まずは一生懸命に無気音、有気音と格闘しています。
(多分、この後は、四声や簡体字にやられていくのだと思いますが。。)
ただ、明るい側面もあります。
曲がりなりにも英語という一つの言語を
習得してきたので、「母国語と別の言葉を学ぶこと」への、方法論的・精
神的ハードルが低い、ということです。
そして、恥をかくことに対する抵
抗感が低くなっている。年を重ねることも悪いことばかりではありません。
どこまでいけるか甚だ不安なスタートではありますが、新しい発見を楽
しみながら、次に中国語のシャワーを浴びたときには、単語ひとつでも
いいから、何かがわかることを目指したいと思います。
(2017年10月11日)