- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
先月の「私の履歴書」(日本経済新聞)の書き手は、ゴルフの青木功選手でした。読まれていた方も多いかと思います。私も、青木氏の、あの語り口と同じ、格好をつけないざっくばらんな文章に惹かれて、毎日楽しみに読んでいました。
その22回目は1983年のハワイアンオープンで優勝したときの話。
最終日、青木氏は、ジャック・レナー選手と優勝争いを繰り広げていました。その最終18番ホール(パー5)。レナー選手は青木氏の一つ前の組でプレーしています。17番ホールまで両者同スコア。優勝は、互いの18番ホールの結果で決まることに。
レナー選手は、二打目をグリーンに乗せ、イーグルパットを狙いましたが、失敗。しかし、次のバーディパットを決めてスコアを一つ伸ばし、青木氏を一打リードしてプレーを終えました。
一方の青木氏は、18番ホールのティーショット(第一打)を打ち損じ、次の二打目もギャラリーに当たって、ラフへ。
青木氏が勝つためには、三打目をピンそばに寄せてバーディーを取り、プレーオフに持ち込むしかありません。しかし、ボールは深いラフの中。しかも、バンカー越え。少しもで長めに打ってしまうとグリーンが下り坂になっており、バーディーを狙うのは難しくなってしまう。
非常に難易度の高いショットが要求されます。この時点で、おそらく誰もがレナー選手の勝利を確信したに違いありません。
青木氏は自分の直感を信じて、キャディが勧めるクラブより一番手低い(距離がでない)クラブを要求し、三打目を打ちました。「そんなクラブではダメだ」というキャディのアドバイスを振り切って打ったボールは、ピン手前でワンバンドしカップに吸い込まれていく・・・。
これで、イーグル。一打勝っていたレナー選手を一気に抜き去って、優勝を果たしたそうです。
その時青木氏は、「40歳で通算40勝。一生懸命やってきた神様のご褒美だと思った」と書いています。
(後日談として、翌年のアトラクションで同じ位置から、同じクラブで打ったそうですが、まったくとどかなかったとか。)
「一生懸命にやってきた神様のご褒美」 その言葉を読んだとき、ドキっとしました。
とてもシンプルなフレーズですが、今の私は、仕事でプライベートで、その言葉を言い切れるくらい、本当に目の前のことを一生懸命やっているだろうか。もちろん、自分が関わっている仕事を意図して怠けているつもりはありませんが、青木氏の素直な一言を読んで、考えさせられました。
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そのあと、「表紙だけみると『きわもの』に見えるかもしれないが、中身はかなり骨太」と聞いていた、『地道力』という本を手にしました。(表紙は著者が赤いフェラーリのボンネットに座って笑っている写真です)
著者は、「ヘアサロン業界の風雲児」と呼ばれる、國分利治氏。全国200店舗のヘアサロンのフランチャイズ会社を経営する人物です。
彼が本の中で一貫して送ってくるメッセージは、「成功するためのもっとも「近道」は、地道な努力をコツコツと続けること」。
もっともすぎると感じるかもしれませんが、今、本当に「地道な努力をコツコツやることが大事なんだ!」と堂々と言い切れる大人、今もやり続けていると言い切れる人がどれくらいいるか。
少なくとも私は、「最近、やっていなかったかもしれない」と自分を振りかえさせられました。
「近年、多くの「ビジネス書」がベストセラーになり広く読まれるようになりましたが、私が不満を感じるのは、もっとも地道に取り組まなければならない点は何か?その点をきちんと指摘するものがほとんどみられないことです。
むしろ、いかに効率よくスキルアップをするかといった方法論に代表されるように、最近の若い人には地道力がないことを前提とした文法ばかり目立っているような気がしてなりません」 (國分氏)
彼は、「若い人」と限定していますが、果たして若い人だけなのか。
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もちろん、ある場面では、「努力が足りない」とすべてを自己責任として本人だけに押し付けるのは非常に危険であるということは忘れてはいけないでしょう。
「年越し派遣村」で有名になった、湯浅誠氏が指摘する、「社会の構造を無視して、個人の自己責任にすべてを押し付ける考え方の危険性」は、社会を前提として生きる私たちが傾聴すべき指摘だと思っています。
そのうえで、
神様がご褒美をくれるくらいやってみる。
地道な努力をコツコツ続けること。
若者へのアドバイスのようなフレーズですが、実は中堅以上になった私のような立場でこそ、もう一度振り返る価値のある考え方かもしれない・・・と、少し自省モードに入った1週間でした。
皆さんはこれらの言葉を改めて聞いて、どのように感じるでしょうか。
「私の履歴書」青木功 第22回「ハワイで優勝」
(日本経済新聞 2010.2.26)
(2010年3月5日)