- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
おそらく、多くの企業で、4月からの新入社員受け入れの準備が進んでいるのではないかと想像します。
今回は、会社で働く、そして教育するということに、少しヒントになりそうな話を2つお届けしたいと思います。
―― 勝ちたい信念と理由 ――
3月15日号の日経ビジネスに、「非常時に強い取締役会」という記事が載っていました。
筆者は、外国人としてNECエレクトロニクスの社外取締役を務めた、T.W.カン氏。MIT大卒、米インテル社を経て、ハーバード大学でMBAを取得したという、ビジネス界では「エリート」と呼ばれるであろう人物。
その彼が、企業が勝つためには、技術と経営の両方の能力を合わせ持つ「複合人材」と「どうしても勝ちたいという信念」が必須、と書いていました。
技術や知識、経験だけではなく、「勝ちたいという信念」、です。
「サムスンがまだ(携帯電話市場で)6位だった頃、携帯電話部門のトップの李基泰氏が『絶対3位になってみせる』と話した際の強くてきついまなざしは今でも鮮明に覚えています。勝つための信念を感じましたが、まさにその通りになりました。」 (記事より抜粋)
その後、長年ラグビーをやっている友人が、大学の新入部員のとき、主将から「どうしてライバル校に勝ちたいか理由を言え」と言われたというエピソードを話してくれました。
自分の言葉で答えられない限り、延々とグランドを走らされたそうです。
その当時は、何でこんなことをさせられるのか、わからないままにグランドを走ったということですが、実際に試合に出るようになって、
「どんな理由であっても、自分の中で腹おちした『勝ちたい理由』がないと、絶対に勝てない。しかも、全員。試合に出る15人はもちろん、試合に出る出ない、学年などにかかわらず、それが100人を超えていたとしても、全部員がそれを持っていないとダメだということを、実際に経験した」と言っていました。
個人的には、「勝ち組・負け組」という言葉が持つ無神経さが好きではなく、なんとなく「勝つ」という言葉を敬遠していたところがあったので、2つの話が新鮮に響きました。
ビジネスをしていく上で、「○○○だから、どうしても勝ちたい」という気持ちの意味を、改めて考えさせられました。
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―― 水に浸して乾かす、80度より45度の方がよく乾く ――
木材の話です。
もともと樹木は多くの水分を含んでいますから、木材として使うためには乾燥させなければなりません。現在の日本では、高温の乾燥機の中に入れて短期間で乾かすという方法が主流です。
そこに、2つの方法を取り入れようとする動きがあるとか。ひとつは、昔ながらの方法。もうひとつは新しい方法です。
木材が水の中に浮いている場面を見たことがある方は少なくないのではないでしょうか。(時代劇の中、ということが多いかもしれませんが。)あれは、水中乾燥と言われるプロセスのスタートになるのだそうです。
釘などの金具を使わない伝統工法を手掛けている宮内氏は、以前から、施行後数カ月してから柱や梁の表面が割れる現象が気になっていました。しかし、ずっと、「強度には問題がなく、無垢材は割れるもの」
と説明してきたと言います。それが「常識」とされていたからです。
しかし、ある日、修復の仕事を手掛けた古民家で、まったく割れていない梁を目にしました。そこで、ベテランの大工にその理由を聞いて回りました。
「昔は木を水につけていたから。」 これが宮内氏の得た答えでした。
水中乾燥と言われる手法は、伐採したての木に水を吸わせることで、樹液を吐き出させる。そのことで、引き上げた後、均一に水を抜くことができる、というのがメカニズム。
もちろん、時間も手間もかかりますが、均一に水が抜けるので割れにくく、樹液の油分も適度に残り、結果的に非常に質の高い無垢材になるそうです。宮内氏は、伝統的な水中乾燥を復活させるために動き出しているとのこと。
もう一つの方法は、スギ材の新しい乾燥方法。知らなかったのですが、スギはとても乾燥が難しいそうです。特に中心部分が乾きにくく、乾燥が十分でないと後で歪みが出ることも。
そこに一石を投じたのが、東京都森林組合の香川氏。高温で一気に乾燥させる乾燥方法が常識というなかで、45度前後で乾燥をさせると、80度のときは1週間かかったものが3日で終わることを発見しました。
しかも、家具デザイナーに「こんなに油分の多いスギ材はめったにない」と言わしめる品質もついてきたのです。
香川氏は、スギの気持ちになって、自然に気持ち良く汗をかくように考えた、と言います。
非合理だと思ったものが、長期的に合理的である。自分の常識ではなく、対象の視点で考えてみると異なる解がみつかる。
こちらも、考えさせられました。
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今回は、私にとっては「目からうろこが落ちた」話をご紹介しました。
皆さんはどのように感じられるでしょうか?
日経ビジネス(2010年3月15日号)「非常時に強い取締役会」 (T.W.カン)
日本経済新聞 日経マガジン2月号(No.82)「乾燥の不思議」
(2010年3月19日)