HR Fundamentals : 人材組織研究室インタビュー

第27回 ダイバ―シティ実現には皆が納得することが重要。業界全体で解決するという視点を持つ。

第27回 ダイバ―シティ実現には皆が納得することが重要。業界全体で解決するという視点を持つ。

株式会社パルコ・シティ HR事業責任者 吉本 明加 氏

今回は、「アパレル女子会」を企画しているパルコ・シティの吉本さんにお話を伺いました。きっかけは「アパレル女子会」でしたが、グループ会社全体のダイバーシティ推進にも関わられていること、吉本さんご自身も社会人1年目からワーキングマザーであり、営業部門のマネジャーを務めながらも残業を一切しないという働き方を実践した経験があることなどから、幅広いお話を伺うことができました。


吉本 明加 氏  プロフィール

早稲田大学卒業後、広告営業や事業企画、秘書業務や、WEB制作、営業マネジメントなど様々な職種を経験した後、通信会社人事職を経て、人事コンサルティング会社のベンチャー立上参画。管理部門責任者と人材紹介部門責任者を兼任しながら、複数の新規事業立上に従事。
2011年より現職、株式会社パルコ・シティにてHR事業立上、アパレル業界を中心に採用・育成支援を行い、パルコグループダイバーシティ推進委員を兼務。ワーキングマザー歴約15年の経験を活かし「女性の活躍」を日々支援し、女性活躍推進に関する講演などにも登壇している。様々な会社やブランドの方々が、働く女性のリアルな意見交換の場として、自らが幹事となり開催している「アパレル女子会」、講師を務める「ドリームマップセミナー」をあわせて、年間約20回行っている。


会社を超えて「本音で悩みを吐き出せる場所」、アパレル女子会を企画・運営

― まず、吉本さんの現在のお仕事について教えてください。

私の仕事の領域は大きく分けて2つあります。一つは、パルコ・シティのHR事業の仕事です。具体的には、パルコにご出店いただいているテナント企業の、採用・育成の支援をしています。もう一つが、パルコグループのダイバーシティ推進委員会の仕事です。パルコグループには4社の事業会社がありますが、それら4社横断のダイバーシティ推進活動になります。パルコはアパレルのイメージから、女性が多い環境と思われがちですが、パルコはディベロッパーでもありますので、男性が想像よりは多い会社でもあります。そうした各社の違いを超えて、グループとして多様な人材が活躍できる場にしていこうと、2014年にパルコにてダイバーシティ推進委員会の発足、2015年よりグループ横断のダイバーシティ推進委員会となりました。また、その延長線として、ダイバーシティ環境を生かして新しいビジネスのアイディアを生み出し、プロジェクト化していくことを支援するといった業務にも携わっています。

― パルコシティのHR事業について教えてください。

パルコ・シティは、2000年にパルコのWebプロモーションを担う組織として設立しました。その延長線上で、テナント企業の採用をWebを通じて支援していくために、5年程前にHR事業が立ち上がりました。求人サイトの運営からスタートしましたが、それだけではテナント企業各社の課題を解決することにはならないと痛感し、採用後の育成や女性活躍支援にも事業を拡げているところです。

そうした活動の一つに、「アパレル女子会」があります。パルコのテナント企業で働く女性従業員の方々に、「本音で悩みを吐き出せる場所」を提供しようという取り組みです。パルコ・シティが食事会を主催し、参加者が自らの悩みや課題を語り合います。夜の会はお酒も入りますが、「楽しかった遊び」で終わらせないように意識をしています。ですから、開催して終わりではなく、必ず各会のまとめを、皆が見ることができるブログにアップして共有しています。また、女子会への参加は有料で、企業が負担しているケースがほとんどですから、参加者の多くは「この女子会で何を得たか」を会社に報告しているはずです。

― 企業が参加費を負担するということは、そうした場に期待を寄せているということですね。

社長や経営層が是非に、と言っていただいているケースが多いようです。女性社員が社外で有効な交流をできる場がなかなかない、ということだと思っています。

― どれくらいの人数で開催しているのですか?

一回、10人までとしています。皆が全体で情報交換をしながら、最後には一人一人がしっかりと何かを掴んで帰っていけるように目を配れるのは10人くらいが限度だからです。

― アパレル女子会は東京での開催ですか?

今は東京のみでの開催ですが、将来的には大阪や名古屋、福岡などでの開催もできたらいいなと考えています。また、そうしたエリア的な発展だけではなく、Web上での発展も考えています。先ほど申し上げたように、女子会についての報告をブログで行っていますが、これをベースにWeb上で情報交換できる仕掛けがあれば、物理的に参加が難しい人たちも巻き込めるのではないかと、今、案を練っているところです。

ドリームマップ研修で、将来なりたい自分に向けた具体的なステップを作成


― クローズドなSNS女子会のようなイメージですか?

いえ、敢えてクローズドにする必要はないと考えています。アパレル女子会自体、ご興味のある方なら誰でも歓迎しているのです。参加者のほとんどはパルコのテナント企業の女性従業員の方々ではありますが、アパレル業界に興味があるという学生さんが参加したこともあります。パルコのテナント以外の方も、もちろんご参加いただけます。そうしたオープンな面が良い影響を与えることもありますので、Webでの展開でも、同じスタンスでいこうかと考えています。

― 女子会を通じて気がつかれ、新たに取り組むようになったことはありますか?

「自分のやりたいことが見つかっていない」と不安に感じている方が少なからずいることに気がつきました。たとえば、店舗に出ている方たちは、店長以降のキャリアがイメージしにくいという悩みを持っています。一般的に、店長の上には「エリアマネジャー」というポジションが用意されていることが多いのですが、それが本当に自分のやりたいことなのか。それを選択しなかったら、ずっと今のままの店長でい続けることになるもしれないが、それでいいのか、など、それまで周囲になかなか相談できずに、悩んでいたという話をよく聞きます。

そこで、一般社団法人ドリームマップ普及協会が提供している「ドリームマップ」という研修プログラムの提供を始めました。これは、将来なりたい自分をイメージし、その実現のための地図を描いていく、というもの。私自身が講師の資格を取得して、2015年6月から研修を展開しています。「未来の自分」を考えるということだからでしょう、参加者の中心は20代の女性になっています。ただ、この研修には参加資格を設けていません。男性も参加されていますし、50代の方が参加されたこともあります。

もちろん、個人の意識やモチベーションの変化だけでは対応できない、制度的な問題もあります。そうした人事制度面でのご相談にも乗れるような体制も整えています。

皆が納得するダイバーシティ施策のために、グループ全体の意識調査を

― では、グループのダイバーシティ推進委員会の方について教えてください。委員会はどのように構成されているのですか?

パルコの社長が委員長を務め、パルコの執行役および各グループ会社の社長がメンバーとなっています。社長直轄の組織の元、パルコグループの中堅社員が集まり、ダイバーシティに関わる課題について、解決案の提言・実行を行っています。

― 社長、執行役の参加ということで、本気度の高さを感じます。

グループ横断の委員会が立ち上がった背景には、大きく2つの理由があると思っています。一つ目は、店舗にいらっしゃるお客様の多くが女性であるにも関わらず、必ずしも女性の意見が反映される仕組みづくりができていないのではないか、という課題感です。二つ目は、パルコグループとして掲げている2020年に向けた長期ビジョンを実現するためには、ダイバーシティ経営が必須であるという認識です。パルコ本社自体のダイバーシティはある程度進んできていますが、その社員は600名程度。それに対して、グループ全体では3000人を超えます。グループとして強くなっていくためには、グループ全体が一枚岩となって取り組む必要があります。

― グループ横断の委員会ということで、大変なことはありますか?

やはり、それぞれの会社の業種・業態が異なりますので、パルコ本社単体をベースにしたビジョンだけでは不十分だということがわかってきました。そこで、パルコグループ全体のダイバーシティ調査を行うことにしました。2012年に、パルコ本社単体でダイバーシティに関する意識調査を行ったのですが、女性比率の高い本社でも、働く意識や環境への期待など、予想していた以上に女性と男性で差が見られました。では、男性比率の高いグループ会社ではどうなのか。思い込みではなく、事実を知ることからスタートすることが重要です。ダイバーシティを推進していくにあたって、「皆が納得する」ということが重要なポイントとなります。少なくとも過半数以上の人が納得していないダイバーシティ施策は上手くいきません。

現在、パルコ本社では在宅勤務やサマータイムの導入などのトライアルを実施しています。これを単純にグループ会社に横展開してしまうのではなく、実際の取り組みからのフィードバックと、今回行う意識調査を合わせて、実効性のあるダイバーシティ施策を立案・実行・展開していきたいと考えています。

― パルコ本社ではダイバーシティ推進が先行しているということですが、そこで見えてきた課題はありますか?

「女性」という観点では、少し厳しい言い方になりますが、成長に対する貪欲さが少し薄くなってしまっているのではないか、と感じています。女性比率の高い会社ですから、仕事とプライベートの両立のしやすさについては随分改善されてきています。先ほど申し上げた2012年のダイバーシティの調査でも、働く環境に対する安心感は得られていました。しかし、挑戦する環境であるという点についてはポイントが高くありませんでした。多分、会社側の女性の対しての思い込みが、過剰な優しさとして現れてしまうことがあったのだと思います。そうした優しさに女性が慣れすぎてしまうと、挑戦の場に立ち続けてきた男性とは、結果的に差が出てきてしまうのです。

そこで、先ほども出てきた「ドリームマップ」を女性の意識改善に活用し、自分のキャリア開発に主体的に向き合えるような環境作りに取り組んでいます。ドリームマップを使って3年後、10年後の自分をイメージしてもらうことで、漠然と考えていた時にはなかなか思いつかなかった、「職場がこうあったらいい」「会社のこういう良いところを活用したらいい」など、具体的なアイディアや行動案が出てくるようになってきました。また、このように、個人の意識が変わっていくことも大事ですが、会社としてもそうした変化に対応できる体制や制度を整えていくことも同じく重要です。ですから、皆がドリームマップを作成していくなかで出てくる具体的な課題や挑戦については、人事部門にしっかりとフィードバックするようにしています。

ワーキングマザーがキャリアを諦めずに選んだ残業ゼロの働き方

― 吉本さんが今の2つの仕事に就くまでは、ずっとパルコ本社の人事の仕事をしていらしたのですか?

いえ、私は転職組です。実は私は大学時代に子供を産んで、子育てをしていました。ちょうど就職氷河期でもあったので、専門職が安全だろうということで、行政書士になりましたが、あまり水が合わず、1年で転職をし、そこでは広告営業をしていました。しかしこの事業が1年で解散。その後、ソフトバンクグループに入社し、秘書、営業、企画や管理系の仕事も兼任し、とにかく様々な仕事を経験していきました。ソフトバンクグループが急激に拡大し、3000人採用を実施したときには人事にいて、その採用現場も経験しました。その後、ベンチャー企業の立ち上げに参画し、その後、パルコ・シティに入社しました。

― パルコ・シティでも人事の仕事を?

いえ、こちらには新規事業の立ち上げのために入社しました。それが、先ほどお話したHR事業です。

― 今のお話ですと、ご自身が社会に出たときからワーキングマザーだった、ということですね。そちらの経験をお聞かせいただけますか?

正直、社会人になって数年間は、まったく両立ができていなかったと思います。自分が成長したいという気持ちが先に立ってしまい、終電まで仕事などということも少なくありませんでした。しかし、あるとき子供が、「お母さん、何になりたいの?」と聞いてきたのです。それは広告営業をしていたときでした。その質問に答えようとしたとき、自分が今のような働き方で自分のキャリアを極めたいと思っているわけではないということに気がつきました。そこで、会社から女性のロールモデルになってほしいと期待されていたこともあって、「私は残業を一切しないで働く」と宣言、会社と交渉し、その働き方を貫かせていただきました。当時は、12人の新人営業担当をマネジメントしていましたが、そのときから1分も残業をしなくなりました。

「里親」を巻き込んで、自分がいなくても仕事が回る仕組みをつくる

― どうして、まったく残業をしないという働き方を選んだのですか?

いわゆる「バリキャリ」ではない働き方でも、女性が管理職を務められるということを証明したいという気持ちがありました。私より少し上の世代の女性は、それこそ男性のように働いて、今の地位を手に入れたという方が多いと思います。私自身は、どうしてもそういう風に働く自分をイメージできませんでしたし、そうではない女性管理職がいてもいいだろうと考えました。

― 毎日きっちりと定時退社ということですね。それを続けながら成果を挙げるために、どんなことに工夫されたのですか?

まず、問題となるのは、私が帰社した後に、メンバーが悩んだときでしょう。例えば、その日中に解決しなければいけない問題が持ち上がっても、相談できる人がいなければ暗礁に乗り上げてしまいます。そこで、私がいないときに相談に乗ってくれる役を担ってもらうよう、複数のマネジャーにお願いをしました。私は、その方々を「里親」と呼ばせていただいていました。快く引き受けてくださった方もいましたが、当然「何で自分がそんなことをしなくてはならないのか?」と難色を示す方もいました。周囲にどう理解・協力してもらうかには腐心しました。

― 周りが残業を当然と考えている環境で、毎日定時に帰るというのは心理的にきつくはありませんでしたか?

やはり最初の頃は、よく「ごめんなさい」と言っていました。しかし、ある時期から、「自分がいる、いないに関わらず、仕事が回る仕組みを作ればいいのだ」と腹をくくりました。「そもそもチームとしてベストなのはどのような状態なのか」を、部下に対してだけではなく、里親をお願いしている方にもきちっと説明をして理解してもらう努力を続けました。そのうち、しっかりと仕事が回るようになってきて、申し訳ないという気持ちはなくなりました。

― そうした工夫については、ロールモデルがあったのですか?

残念ながら、私の周りにはワーキングマザーはいませんでしたので、直接ヒントをもらえる人はいませんでした。しかし、周りに「仕事ができる人」は沢山いましたから、一人を丸々ロールモデルにするという発想は捨てて、そうした人たちの中で、それぞれ真似できそうな部分、学べる部分を少しずついただいて、自分なりのモデルを作っていった感じです。それに、そもそも私自身がロールモデルになってほしいと言ってもらったのですから、思うようにやってみようと、いい意味で開き直ったところもありました。

アパレル業界全体での適材適所の実現と家族を巻き込んだダイバーシティの実現

― そうした実体験が、現在のダイバーシティ推進や、テナント企業の女性活躍の支援に活かされているのですね。今も着々と実績を積んでいらっしゃいますが、中長期的にはどのような展望をいだいていらっしゃいますか?まずは、パルコ・シティのHR事業の分野について教えてください。

アパレル業界では、離職率が高く、辞めた人材の代わりを採用するのに苦労している企業が少なくありません。では、離職していく人たちがどこに転職するかというと、アパレル業界ではないことが多いのです。つまり、人材の業界外流出が激しいということです。私はそこに課題があると考えています。なかなかロールモデルが見当たらなかったり、自分の将来像がイメージしにくかったりするために、単純にシフト勤務や土日の出勤がない仕事がいいかなと、業界から出ていってしまう。これは、本人にとっても企業にとってももったいないことです。せっかく好きでアパレル業界に入り、そこでキャリアスタートしたのですから、それを土台にキャリアを積み上げていくいことができれば、それに越したことはないはずです。そうした流れができれば、アパレル業界の慢性的な人材不足も改善するでしょう。

ただ、規模の大きくない企業では、ターゲットとする顧客の層が限定されているケースも少なくありません。例えば20代前半の商品を扱っている店舗を展開している会社ですと、確かに40代の自分がそこで働くことを想像しづらいかもしれません。しかし、業界全体で考えれば、そうした年齢とキャリアが活きる場所は必ずあります。業界全体に目を向ければ、ロールモデルも見つかり、自分の将来もイメージしやすくなっていくでしょう。こんな風に、個社がそれぞれで課題を解決しようとするだけではなく、様々な課題を業界全体で解決していくという視点を持ったら、異なるものが見えてくるのではないか。幸い私たちは、採用、研修・育成、人材紹介、情報交換の場や情報提供といったサービスを持っていますから、それらを最大限に活用して、「アパレル業界の適材適所」の実現を支援していけたらと考えています。

― ダイバ―シティ推進の方はいかがですか?

今、ドリームマップを家族で作る、という研修を計画しています。個人で取り組むドリームマップの中にも、他者や社会との関わりを考える部分はありますが、出発点は「自分はどうなっていきたいか」です。しかし、実際に生活をしている中では、どうしても「家族」との関わりを無視することはできません。残念ながら、家族の中の女性の役割は、まだまだ世間が考えるステレオタイプに縛られている部分が根強く残っています。自分のドリームマップで将来を見つめ直し、日々の行動プランに落とし込み、会社に対しても思いを伝えることができるようなったとしても、家族の中でそのことが共有されなければ、やはりどこかで先に進むのが難しくなっていくでしょう。また、これは女性に限ったことではなく、夫である男性側にもステレオタイプの縛りがあるかもしれませんし、ご本人の夢もあるでしょう。そうしたことをしっかりと共有して、自分たちなりのなりたい家族像を家族全体でイメージしていくことで、それを土台にして伸び伸び働くことができるのではないかと考えています。

― 本日はどうもありがとうございました。


取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2015年3月)

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