HR Fundamentals : 人材組織研究室インタビュー

第18回 「多様性・異質性」を取り込みながら、世界に通用する普遍的な人事制度を

第18回 「多様性・異質性」を取り込みながら、世界に通用する普遍的な人事制度を

株式会社イノベーションズ 代表取締役社長 中田 研一郎 氏

日本企業の「グローバル化」は待ったなしと言われています。しかし、そもそも「グローバル化」とは何なのか。日本企業が抱える課題とは何なのか。また、「グローバル人材を育成する」ためにはどのようなポイントを押さえるべきなのか。改めて問われたとき、明確に答えることができるでしょうか。今回は、そうした問いに答え、本質を外さないかたちでグローバル化に取り組むために、ソニー株式会社で人事の責任者として多くの改革を行い、日本企業のグロ―バル化に詳しい中田氏にお話を伺いました。


中田 研一郎 氏  プロフィール

現職:中央大学大学院・戦略研究科・客員教授/早稲田大学商学学術院・総合研究科・特別研究員/新潟大学大学院・技術経営研究科・非常勤講師/中国清華大学・継続教育学院・顧問/内モンゴル工業大学・管理学院・客員教授。
一橋大学法学部卒業後、ソニー株式会社入社。1980年ソニー・アメリカ赴任(米国法務担当)、1988年法務部次長、1989年通商部統括部長、1992年 ソニー・ヨーロッパ赴任(法務・知的財産担当Director)、1999年知的財産部統括部長。2001年人事センター・エレクトロニクス人事戦略部 統括部長を経て、2004年ソニー・ニューマンキャピタル(株)執行役員兼務。ソニーにおける人事の構造改革に着手し、人事制度全般にわたり改革を実施。採用部・研修部・人事情報システム部、Business Process Outsourcing部等の個別業務を歴任。青山学院大学経営学部客員教授を経て現職。

グローバル化の本質は、「多様化」と「普遍化」が同時に起こること

― まず初めに、「グローバル化」の本質について教えていただけますか?また、そこから見えてくる日本企業のグローバル化の問題点はどういうことでしょうか?

グローバル化は、2つのベクトルで考えることができます。一つは「多様化」、もうひとつは「普遍化」です。対立する概念に思えますが、グローバル化の本質はこの2つが同時に起こるということです。

まず、「多様化」というベクトル。グローバル化が進むことで、各民族の特殊性にスポットがあたるようになり、それぞれの文化が尊重されるようになっています。今後、文化はますます多様化し、個の存在が尊重されていくでしょう。

一方、「普遍化」というベクトル。グローバル化が進むことによって、全世界的に均一で同時性を持ったルールが浸透していきます。「文化」の多様化に対して、「文明」の普遍化と言えるでしょう。

つまり、グローバル化が進むと、経済活動やビジネスは、この「多様化」と「普遍化」両方の影響を受けるということです。ざっくりと分ければ、制度やルールは 「普遍化」、人は「多様化」に進みます。ただし、経済活動・ビジネスは制度やルールに基づいて行われるものですから、より「普遍化」の影響を受ける、とい えるでしょう。

こうした本質を理解したうえで、日本企業のグローバル化の問題について考えてみたいと思います。

経営資源 として「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」がありますが、「モノ」と「カネ」に関して、日本企業は世界で遜色のない結果を出してきました。特に「モノ」の分 野である物流・サプライチェーンの普遍化は、世界をリードするものでした。全世界をマーケットとして考えたとき、いかに在庫を持たないか。いかに消費者の ニーズを捉え、需要に合わせた供給体制をつくり、需給バランスのロスを減らしていくか。これは日本企業の得意とするところです。

「カネ」、資金調達のグローバル化に関しては、70年代以降、日本企業が積極的に海外に出始めた頃から既に始まっていました。例えばソニーは、30年以上前に ADR(American Depositary Receipt)を発行して資金調達を始めています。「カネ」の分野でも、日本企業は決して世界の中で後れを取っているわけではありません。

「情報」のグローバル化についても、90年代半ば頃には多くの企業がイントラネットを導入。パソコンを一人に一台支給して、分散型の情報処理を行うようになり ました。ブロードバンドの導入も、決して遅くありません。もちろんアメリカの方が進んでいましたが、日本企業における情報のグローバル化は、それほど後れ を取りませんでした。

日本企業の「ヒト」のグローバル化の遅れは、90年代のバブル崩壊に遡る

これらと比較して、「ヒト」に関して日本企業は致命的に遅れているのです。

その大きな原因は、90年代のバブル崩壊です。この時期の日本企業は、超過債務、供給過多の需給バランスによる過剰設備、過剰労働力、3種類の「過剰」を整理する必要に迫られました。そのため、10年をかけて大々的な「リストラ」を行うことになりました。

多くの企業が人事制度改革などの施策を行いましたが、その目的はあくまでも人を減らすこと。将来のグローバル化を見越して「普遍化」や「多様化」を目指したものではありませんでした。単に、古いルールのまま縮小均衡しただけだったのです。

この時期はまた、多くの会社が海外拠点を廃止、縮小した時期でもあります。海外での仕事があったとしても、支店を新たに作るとか新しい事業を展開するといったチャレンジングなものではなく、事業や支店をたたむ、規模を縮小するという後ろ向きのものがほとんどでした。

バブル崩壊以前は、海外で事業をゼロから立ち上げるといった修羅場を経験ができる場が潤沢にありました。未知の土地で様々な人に巡り合い、複雑なビジネスディールをまとめ上げてきた経験を持つ社員が珍しくなかったのです。

しかし、バブル崩壊後に20代30代を過ごした今の管理職たちで、そうした経験を持っている人は少なくなりました。これは単に管理職にグローバルビジネス経 験が不足しているという問題に留まりません。以前は後輩たちが修羅場を経験した先輩の「武勇伝」から学ぶという、経験の伝承がありましたが、今の若手には そうしたロールモデルが減少してきた、つまりグローバル化を担う人材が育ちにくい環境だという問題でもあるのです。

「ヒト」の分野を変えていくには、最短でも10年サイクルが必要

これに加えて、世界の人材を積極的に取り入れていくという観点でも、日本企業は大きく遅れています。

日本は基本的に単一民族国家ですか ら、多くの日本人が異文化との遭遇には慣れておらず、同一文化、同一価値観の中で生きていく知恵を身につけてきました。「人に迷惑をかけない」「平等を旨とする」「人と違わないようにする」といったことです。このことは、経済が右肩上がりの時代には、量を拡大することが質の向上につながっていましたから、 日本の強みとなっていました。しかしこうした「同一性・画一性」は、労働力の多様化を進めるにあたって、高いハードルとなってしまいました。

また、東西冷戦終結によって、90年代以降、約10数億人いた共産圏の人口が資本主義市場の労働マーケットに組み込まれました。このことによって労働コスト の大競争時代が始まりました。2000年に入ると、IT技術が浸透し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が進み、アメリカや日本でやってい た仕事をインドや中国で行うことが容易にできるようになりました。人材が物理的に流動化していないのに、先進国と発展途上国の間で見えない競争がただちに 起こってしまった、ということです。労働力が見えないこところで、どんどん普遍化しているのです。

例えば、インドの数学に強いシステムエンジニアは、日本のシステムエンジニアと比較して仕事の質も高いうえに労働コストが安い、という状況が現実に起きています。そのような状況を自国の競争力にどう取り込んでいくのか。日本企業は、こうした労働力の普遍化の動きにも大きく出遅れてしまいました。

このように、日本企業は過去20年間、経営資源のうち一番大事な「ヒト」に関して、グロ―バル化にうまく対応することができないままに時を過ごしてしまったということです。

単に出遅れていることが問題なだけではありません。後れを取り戻す難しさにも注目すべきでしょう。

経営資源のうち、変化を起こすに一番時間がかかるのが「ヒト」の分野です。「ヒト」以外の経営資源のグローバル化については、3カ年の事業計画でほぼ達成可 能です。「モノ」であれ、「カネ」であれ、どんなプロジェクトでもあっても3年かければほぼ見通しが立ちます。しかし、「ヒト」の分野は最短でも10年サ イクルで考えなくてはなりません。「ヒト」での遅れの深刻さはここにあるのです。

このように、日本企業のグローバル化の最大の問題点は「ヒト」であり、それは深刻な状況であると言えるでしょう。

「スキル」「本質」「個人(アイデンティティ)」のレベル、3つの観点

― 日本企業が直面している「ヒト」のグローバル化の深刻さがわかりました。この状況を乗り越えていくために、これから求められる「グローバル人材」について教えていただけますか?

「グローバル人材」を考えるにあたっては、3つの観点が求められます。

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まず、スキルのレベル。 これは「異なる『価値観』を理解できること」。具体的には思考回路を複線化すること、異なる視点を理解する柔軟な頭を持つということです。「これは絶対に いい。絶対に悪い」と決めつけるのではなく、新しい価値観や自分と異なる文化に対して、「ああ、そういう考え方もあるのだ」と受け止めることができるか。 この部分については、スキルとして、経験とトレーニングによって身につけることができる部分です。

次に、本質のレベル。こ れは「クリアな『意見』『意思』を持っていること」。具体的には、人の意見や一般論を解説するのではなく、「私は○○と思う」と、簡潔に本質的な意見を言 えることです。表層的な結論に飛びつくことなく本質に近づくには、事実を正しく認識することができ、ファクト・ベースで話せることが必須です。

普遍的なルールの元で、多様性をマネジメントしようと思ったら、コンセプトを形成し、多様な人や意見をまとめた上で、一定の方向に牽引していかなくてはなりません。そこでは、事実に基づいた本質的な意見をしっかりと主張していくことが重要になります。

最後に、個人(アイデンティティ)レベル。 これは、「確立された個をもっていること」。具体的には、自己主張のベースとなる「信じるもの」、「コア」を持っている。そして、他人からリスペクト(尊 敬・尊重)されるに足る、個人としての価値観を持っているということです。「コア」になるものも、個人としての価値観もない人は、異なる文化や価値観とぶ つかったときに、地に足がついた意見を戦わせることができません。多様性を受け入れるということは、表面的に理解ある態度を示すことではなく、異なる立場 の人たちがしっかりと主張し合うことで、お互いを理解し合っていくことです。

コアや価値観に基づいた自己主張ができない人は、グローバル 社会ではリスペクトされません。「話をするに値しない人」としてネグレクト(無視)されます。どんなにスキルがあって、事実認識力が身についていたとして も、最終的に個人としてアイデンティティが確立していない人材は、グローバルで活躍することはできません。

自己同一性を実現できなければ、世界で信用を獲得することはできない

― グローバル人材の、個人としての要件3点を伺いました。では、組織をマネジメントしていくという観点から押されておくべきポイントはありますか?

グローバルで通用するマネジャーの要件についてまとめたものがあります。こちらを説明しましょう。

スキルと経験については、会社で働くうちに身についていくものです。もしくは教育・研修などで学んでいくこともできるでしょう。

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大事なのは、まず「問題解決能力」。問題解決能力は3つに分かれます

1.    コミュニケーション能力(意見形成力)
2.    本質(抽象化・課題設定)
3.    論理(普遍性・国際性)/感性
 

コミュニケーション能力は、単に「人の話を聞く」というリスニング力だけではなく、オピニオン形成力・発信力も重要な要素となります。

次が、本質を捉えた抽象化力、コンセプト形成力。物事は抽象化しないと普遍化できません。いくら個別具体的なことを言っても、「それは日本だけのことでしょ う」と反論されてしまいます。それに対して、「日本だけはなく、アメリカでも中国でも、そもそもこういうことです」と言えなくては、グロ―バルではビジネ スをしていくことが難しい。

もうひとつが、論理と感性をバランス良く使っていくことです。ビジネスの世界では、論理に注目が集まりがちですが、伝播力では感性の方が圧倒的に力を持っています。もちろん、普遍化していくためには論理が不可欠ですが、感性のない論理は伝わりません。

次に、「自己責任力」です。自己の確立と言ってもいいでしょう。これには3つの観点があります。

1.    自己同一性
2.    自律性
3.    自立性


「自己同一性」とは、「どんな場面においても、あの人は言うことが首尾一貫している」ということです。英語で言えば、Consistency。首尾一貫していないと信用を獲得することはできません。

日本人は、自己同一性を持ちにくい傾向にあります。日本の社会では、「和をもって尊しとなす」「出る杭は打たれる」という価値観が浸透しています。こうした 環境下で自分の意見を首尾一貫して言っていると、状況が変化したとき、周囲と対立するケース出てきます。本質的な意見を持っていれば、当然起こりうること です。しかし、日本社会で、あまりに自己主張をすると角が立つため、ここで本音と建前を使い分けることになります。これが、日本企業の文化です。

ただ、海外にいくとこうした態度はとても嫌われます。「状況が変わったから仕方ない」「こうした方針変更はよくある話」と本質的な議論をしないままに流して しまうと、信用を失います。日本の企業文化の論理で動いていると、国を一歩出た瞬間に信用されないビジネスパーソンになるリスクを負っているということを 自覚する必要があると思います。

「自律性」とは、自らを律する、セルフ・マネジメントができる。人に指示を仰がなくても自 分で自分を処する力がある、ということです。英語で言えば、Disciplineであり、Autonomy。海外で誰にも頼ることができなかったり、言葉 が通じなかったりしても、その場を切り抜けていかなければならなりません。

「自立性」とは、人や組織、環境に依存しないということです。英語でいうと、Independence。他人がどうであれ、組織がどうであれ、環境がどうであれ、すべて自分の責任として受け止める。つまり、「これは何々が悪かったんだ」という言い訳はしないということです。

これら3つが揃ってビジネスパーソンとしての自己責任力が確立し、信用を得ていくことができるのです。

「勇気」「情熱」「夢」がなければ、新しいことには挑戦ができない

― では、更に、リーダーシップという観点からグローバル人材を考える際のポイントはありますか?

その点については、「リーダーシップを確立するための七重の塔」としてまとめたものがあります。

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まず、リーダーシップを確立するためには「人間力」が重要です。「人間力」を構成する要素として、まず「顕在価値」と「潜在価値」があります。前者が「行 動」、後者が「考え方」です。「行動」はいわゆるコンピテンシー。「考え方」は更に2つの側面、「自分」と「社会」に分けることができます。

まず、「自分」について考えてみます。そこには、Enabler(手段として物事を可能にするもの)と、Driver(物事を引っ張って、推進していくも の)があります。Enablerは知恵や知識、Driverは勇気・情熱・夢。このうち、より重要なのは、Driverです。

まず勇気。勇気がなければ新しいことには挑戦できません。勇気を生み出すのは情熱と夢。これらがなければ部下はついてきません。夢がなければ、計画も生まれてきません。計画がなければ反省することもなければ、達成のための情熱も生まれないでしょう。

次に「社会」的な側面ですが、これはValue Setter、具体的には「目的観」と言えるでしょう。「世の中金次第」とか「金さえもうければいい」など、そもそも目的観が間違っている経営者も少なく ありません。もっとひどくなると、粉飾決算をするとか、コストを極端に追求して食中毒事件を起こしたりします。やはり、人のため、社会のために役立つのが 経済活動の本質であって、こうした目的観を間違えると必ず破たんします。

この目的観から始まる一連の潜在価値の結果として、行動が現れて くる。この考え方は、グローバルリーダーに限ったモデルではありませんが、普遍化と多様化が進むビジネス界でリーダーシップを発揮していくためには、この 「七重の塔」を内に構築していくことは特に重要になってくると思います。そしてこの「塔」は、7つの要素のどれが欠けても成立しないことは覚えておいて下 さい。

「画一性・同質性」から離れ、「多様性、異質性」を取り込んでいく

― 世界で活躍していく人材に求められる要素を、3つの角度から教えていただきました。では、日本企業の人事は、グローバル化に対してどのように対応していけばいいのでしょうか?

個人のレベルでは、「画一性・同質性」から離れ、「多様性、異質性」を取り込んでいく必要があります。組織のレベルでは、クローズド・コミュニティからオープン・アーキテクチャへの転換が必須です。

ただ、これらを進めていう上で、いくつかの問題があります。まず、日本の若者のトレーニング不足。最近は海外留学をする若者がますます減少しています。例え ば、ハーバード大学から日本人留学生が消えつつある。インドや中国と比較して、3分の1以下の留学生しかいないのです。アメリカで博士号を取っている人の 出身大学のランキングを見ると、東京大学が425位です。一方、中国の大学はベスト10の中に3校が名を連ねています。

また、日本国内の 労働力が総合的に減少していくなか、知的労働の分野において外国人の受け入れが極端に少ない。学問の世界では、外国人の教授は語学の分野に偏っていて、メ インストリームにはほとんどいません。ビジネスの世界でも、トップマネジメントに外国人が入っている日本企業は数えるほどしかありません。

個別施策を乱立させることなく、構造的なアプローチを取ることが必要

急速な構造変革に迫られている中、日本にはそれを担うことができる、世界で通用する人材が決定的に少ないという事実を真摯に受け止めなければ なりません。そして、最初に申し上げたように、人材育成には短くても10年はかかります。この状況を乗り越えていくためには、行き当たりばったりな個別施 策を乱立させることなく、構造的なアプローチを取る必要があるのです。

具体的には、「マネジメント・インフラ」「人間力・インフラ」「コミニュケーション・インフラ」を構築していくことが求められていると思います。

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1) マネジメント・インフラ 
  • マネジメント力
  • 評価・格付け
  • Retention制度(給与・ストックオプション・ベネフィット)
  • 外国人採用(日本・現地)
  • 経営トップへの登用
  • グローバル・サクセッションプラン
  • グローバル・ローテーション(日本人・外国人)

2) 人間力・インフラ 
  • 自立型人材育成 
  • 異文化理解 

3)  コミュニケーション・インフラ 
  • 公用語としての英語によるコミュニケーション 
  • コア・バリューの共有 
  • コーポレートユニバーシティ

マネジメント・インフラは、まさにマネジメントの普遍化です。そのためには、まず人事制度のグローバル化を進める必要があります。日本の終身雇用を世界に広 めるのは不可能です。また日本でだけ終身雇用を残して、接ぎ木のような制度を作ったとしても、海外の優秀な人材を集めることはできません。

人間力・インフラは、前段で説明したようなアイデンティティの確立した人材を育てていくこと。どんな良い制度ができたとしても、実行できる人材がいなければ どうにもなりません。しかし、これは簡単なことではない。なぜなら、職場で身を持って教える人がいないからです。むしろ反面教師の方が多いかもしれませ ん。日本の人事部が研修プログラムを考えてどうにかなるようなものでないのです。ですから、思いきって異質性そのものに直接触れる経験がその解となりま す。

そのための一番の方法は、M&Aでしょう。まずは異質なものを一気に取り込んでしまう。ビジネス目的の中にグローバル人材獲得・育成も含めたM&Aは大変有効な手段と言えます。

そして、コミュニケーション・インフラ。「公用語は英語」という日本企業が出てきていますが、これは望ましい方向だと思います。通訳を入れると、1時間会議 をしても中身は30分です。また、夢や情熱といったハートの部分は通訳では伝わりません。人を動かすには正確であるだけでは不十分です。感性に訴え、感動 を与える必要があります。そのためには、やはり最低限の英語力が必要なのです。

そして、グローバル企業として求心力をつけていくために は、コア・バリューの共有が必須です。コア・バリュー、企業が依って立つべき基盤のコンセプトを多様な価値観を持つ人たちにいかに伝播するか、そのための 発信力が強めていくか。これもコミュニケーションの要素として重要な位置を占めます。

― 最後に、日本企業で人事のグローバル化に携わる人にメッセージをお願いします。

リーマンショック以降に起きたグローバル経済における最大の変化は、「主役の交代」です。アメリカ・ヨーロッパ・日本がG7、G8でやっていたものが G20になって、マーケットサイズから行くと、アジアがグローバル・マーケットのリーダーシップを握るようになりました。あと10年もすれば、アメリカの 経済規模と日本を除くアジアの経済規模は同一になります。我々はこうした大きな変化の中でビジネスをしているという時代の本質を捉えて仕事に反映していく べきです。こうした地殻変動に応じて、グローバル人材を早急に獲得、育成していく必要があるのです。

今、日本企業で「グローバル人事」について考えているとしたら、是非、本日お話したアプローチを参考にしていただきたいと思います。

― 本日はどうもありがとうございました。

取材・文 大島由起子(当研究室管理人) /取材協力: 楠田祐 (戦略的人材マネジメント研究所)

2011年5月


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