HR Professionals:人事担当者インタビュー

第21回 HRBPとして重要なことは、ビジネスを理解して、コモンゴールを共有すること

第21回 HRBPとして重要なことは、ビジネスを理解して、コモンゴールを共有すること

コーチ・ジャパン 人事部長 山下 美砂 氏

今回は、コーチ・ジャパンの人事部長である山下氏に、人事がビジネスパートナー(BP)であるとはどういうことなのか、BPになっていくためには何が必要なのかについてお話を伺いました。加えて、女性が会社で活躍していくことについて、HRリーダーとしてどう考えているかについても語っていただきました。


山下 美砂 氏  プロフィール

テレビ経済ニュース番組制作、雑誌編集を経て、PR会社にて主に外資系企業の日本・アジアにおける広報活動の立案・実行に携わる。1999年アジア担当コミュニケーション・マネジャーとしてGE東芝シリコーン(株)(当時)入社。2000年、人事本部長、2001年より執行役員に就任、同社のアジア地域における人事を統括。2005年4月より日本ゼネラル・エレクトリック(株)取締役人事本部長。2008年10月よりGEヘルスケア ジャパン(株)執行役員人事本部長。2009年2月より日本に加えて韓国、東南アジア、ANZを含むアジアパシフックを統括するHRリーダーに就任。2011年6月〜2015年3月同社取締役。GEでは在籍中の大半を社内の女性ネットワーク、GE Women’s Networkの推進リーダーとして日本・アジアの女性リーダーの育成促進をサポートした。

2015年11月よりコーチジャパン人事部長。2016年7月より日本に加えて韓国、東南アジアも統括。

1987年神戸市外国語大学卒業。1990年米ペンシルバニア大学コミュニケーション学部(アーネンバーグ・スクール)修士課程修了。


人事の経験がないなかで、HRリーダーに抜擢される

― まず、山下さんが人事(HR)の世界に入られたきっかけを教えてください。

大学を卒業した後、米国の大学に留学をしていました。帰国後、英語版ニュース番組の制作や、「TIME」日本語版の立ち上げプロジェクト(実際には未発行)などに関わった後、PR会社に就職しました。そこで5年半ほど仕事をした後、GEに転職しました。当初は、PR・広報の仕事に就いたのですが、半年ほどしてHRの仕事に移ることになりました。

― 広報からHRというのは大きな変化のように思いますが。

GEではHRの中に社内広報の役割があり、私のレポート先はHRリーダーでした。社内広報は、組織変更や人事発令のアナウンスをしたり、社内コミュニケーションのためのウエブサイトを作成したりと、HRや社員と関わることが多い仕事です。そうした経験から、HRの仕事にはいろいろな広がりがあるなと感じました。そこで、最初の評価ミーティングの際に、「HRに興味がある」と言ったところ、リーダーがHRにひっぱって下さったのです。異動した当初は、人事開発、組織開発に関わる仕事にアサインされたのですが、間もなくそのリーダーが出向元に戻ることになってしまいました。彼の後任がなかなか見つからなかったために、「HRのリーダーをやってみないか」という打診をいただきました。

― 人事の経験がほとんどないなかで、不安はありませんでしたか。

不安よりも、面白そうという気持ちが勝りましたね。当時いたビジネスは、東芝とのジョイントベンチャーながら、本格的にGE流のプロセスを導入していくという時期で、米国本社とのコミュニケーションや、ローカルでのチェンジマネジメントに大きなチャレンジがありました。私は広報とHRは、組織に変革が起こる際に絶対に必要な部署だという点で共通点があると思い、広報のバックグラウンドでもHRとして貢献できるのではないかと思い、この仕事をやってみることにしました。

ただ、より日常的な人事業務であるペイロールや採用などの知識は当然乏しく、実務面はそれぞれのチームに任せるしかありませんでしたが、優秀なメンバーが多く、大変助けられました。とはいえ、いつまでも「人事の実務は知りません」ではリーダーは務まりません。着任してから8カ月ほどは、人事の基本的な仕事を覚えるために本当にがむしゃらに働きました。が、今から思えばあまりつらかったという記憶はありません。学ぶことが多かったからかもしれません。

― 当時は何人くらいの規模だったのですか?

日本で500〜600人くらいでした。当時は、中国やタイなどで工場を開設したり、買収をしたりと、アジアでのビジネス拡大をしていた時期で、アジアも担当していました。そちらを含めると1000〜1200人くらいをみていました。今考えると、新しいことばかりでよくやったなと思いますが、逆に、何も知らなかったから何が怖いかもよくわからずに取り組んできた、という面もあったかもしれません。

「それはビジネスにとって大事なことなのか」から発想して、総合的に判断できる力が重要

― HRの仕事について、気がついたことはありましたか?

HRの仕事に長く携わっていると、「HRのポリシーではこうですから、それはダメです」と言ってしまいがちになるな、と気がつきました。もちろんポリシーを守るということはとても重要なのですが、それだけを判断基準にしていては、経営に貢献することはできません。「ポリシーに則して良い、悪い」からスタートするのではなく、「それはビジネスにとって大切なことなのか」「ビジネスを成長させていくために、やっていいことなのか悪いことなのか」から発想して、総合的に判断できる力が重要だと痛感しました。私は人事労務の詳細な専門知識を持っていなかったので、純粋にビジネスパーソンとしてHRの事象を見ることができたのかもしれません。

― 最近は日本でも、HRBP(ビジネスパートナー)という言葉が使われるようになってきました。山下さんがHRBPになるまでの道のりはどのようなものでしたか?

私がGEでHRの仕事に就いた頃は、「HRジェネラリスト」が目指すべきゴールとされていました。人事全体のことがわかって、ワンストップですべて対応できる人材、というイメージです。しかし、「すべてをワンストップで」を目指してしまうと、どうしても知識や経験が広く浅くなってしまい、ビジネスに貢献できるようなデプス(深み)や専門性が持ちにくいことがわかってきました。そこで、GE全体で、人事の専門領域である各種のCenter of Excellence(COE)、例えば、採用や報酬管理などいった業務を専門とするグループと、クライアントとなる部門やそのリーダーをサポートするHRBPという役割を作って、こちらもクライアントへのサポートの専門性を高めていく、というモデルにシフトしました。今いるコーチでも同様のモデルに現在移行中です。

このモデルでは、COEがいわばHRBPの背後で専門性を提供することで、クライアントと直接対峙するHRBPは高度なレベルで担当部門のHR関連課題へのソリューションを提供することを目指しています。ただ、この場合、専門性を必要とされるのはCOEだけではなく、それを有効活用でき、かつソリューションとして提案していかなければならないという意味でHRBPにも専門性が要求されます。私の場合はHRキャリアの最初からCEOと部門長をサポートする立ち位置でしたので、「HRジェネラリスト」モデルの頃からそういうことをかなり意識してやっていました。が、それでも採用からC&Bまであらゆることに「広く浅く」関わっていました。それがHRBPのモデルになってからは、COEの専門性をどう最大限に活用するか、そしてクライアントにどういうソリューションを提供するかということへの意識がより深くなったと思います。

ジェネラリストからHRBPへの移行には大きなスキルセットの移行が伴い、また深さも求められます。特によりジュニアなHRジェネラリストの場合は、「広く浅く」のワンストップショップから提案型のソリューション提供者へスキルを上げていかなければなりませんので、それができる人と残念ながらついていけない人とに分かれていく可能性は高いと思います。

特にCOEの専門分野を経験せずにキャリアの早い段階で直接HRジェネラリストになった人、そしてクライアントのニーズを把握してソリューションを出す力が足りない人、のいずれの場合もHRBPへの道のりは長いもしくは困難を要すると思われます。 特に前者の場合は、ベースとなる人事業務をまったく経験していないと、単なる「ご用聞き」「連絡係」になってしまう危険性があり、本来の戦略的なHR業務を任されませんし、クライアントリーダーとの信頼関係も構築できません。

ですので、HRのキャリアの作り方としては、いくつかのCOEを経験してある程度の専門性を身につけたあとに、HRBPに移行していく、という形がひとつのモデルだと考えています。そういう意味で、日本企業ので「いくつかの人事業務をローテーションさせて人事の仕事を覚えさせる」というやり方は、決して理にかなっていないわけではないと思うのですが、それに10年、15年かけているとしたら、スピードが遅すぎるのではないでしょうか。

社長や事業リーダーとゴールを共有するために、最大限の努力を惜しまない

― HRBPになっていくために必要なことは何だとお考えですか?

前述のHRの専門性はもちろんですが、同様に、もしくはそれ以上に必要なのはビジネスの理解だと考えています。まずは、自社のビジネスを深く理解する。そのために、社長や各事業のリーダーとのコミュニケーションに多くの時間を使うべきです。そして、社内だけではなく、業界や社会の動向にも目を向ける。それがあって初めて、自社のビジネスに貢献するためにはどういうタレントが求められているのか、どういう組織が必要なのか、を考えられるはずだからです。また、ソフトスキル、多様な人たちとコミュニケーションできる能力やリーダーシップといったものも、当たり前ですが必須です。そして、何か事があったら動くという待機型ではなく、自分からプロアクティブに動いていく提案型の人材でなければ務まらないと思います。

― 山下さんはHRBPとして、日々どのような活動をされているのですか?

私にとっての一番のクライアントは社長だと考えています。ですから、まずは、社長が何をゴールにしているのかを、常にきっちりと理解することに努めています。そして、それをHRの各ファンクションに伝え、個人レベルまでカスケードして(落し込んで)いって、それぞれのゴールを設定していきます。

― 「社長のゴール」といった情報を、どのように得ているのですか?

指示を待ったり、正式な会議だけに頼るのではなく、できる限り直接対話をするようにしています。また、社長を取り巻くステークホルダーからも情報を得るように努めています。外資系の場合には、日本法人の社長にも上司がいて、その上にも上司がいるという構造になっています。そうしたレベルの人たちに直接アクセスする機会は多くはないですが、彼らがどんなことを言っているのか、何を考えているのかを理解することも重要です。会社全体がどちらの方向を向いていて、勝つためにどんな戦略を取ろうとしているのかといった高い視点からの理解がなければ、本当の意味でクライアントである社長を支援することはできません。

同時に、実際にビジネスの最前線に立っている事業部や他部門のリーダーからの、生々しい現場の情報も重要です。現場で何かが起こってから対処する、というスタンスでは後手に回ってしまいます。ですから、関連するリーダーたちと定期的にキャッチアップする機会を持って、状況把握や解決策の提供を先んじてできるよう務めています。

― かなり能動的に動かれているのですね。そうした時間を捻出するのは簡単なことではないように思いますが。

仕組みとして落とし込んでしまえば、それほど大変なことではありません。相手によって、二週間に一回とか月に一回など、特別なことがあろうがなかろうが、あらかじめカレンダーに予定を入れてしまうのです。それを継続していくと、わざわざ構えて情報を取りにいくというよりは、お互いの情報を常にシェアしているという状態になります。そうなってくれば、抱えている課題も常に把握している状態になりますし、将来どちらの方向に向かおうとしているかも理解できます。ですから、突然起きたことの対応に追われる「火消し」的な仕事が減っていって、将来に向けて改善の機会を探したり、戦略的な発想で行動ができるようになっていきます。

HRがオーナーシップを持っているのは「組織」「人材」「会社のカルチャー」    ここでどれだけ貢献できるか

― 具体的には、HRPBとしてどんな形でビジネスへの貢献をしているのでしょうか?

私は、HRがオーナーシップを持っているのは、「組織」「人材」「会社のカルチャー」だと捉えています。この3つのエリアで改善の機会やチャレンジがないか、HRとして見極め、取り組んでいくことで、HRがビジネスに貢献していくことになります。

例えば「組織」。今の組織のあり方はこのままで良いのか、良くない部分があるとしたら、何をどう変えていくべきなのかを常に考えていく。「人材」であれば、まずは採用から育成、リテンションまでを見て、改善機会がどこかにないか常に考える。同時に、会社がゴールを達成するために必要な人材が揃っているのか、いないとしたらどのように採用・育成していくのかを考え、行動に移していく。「カルチャー」については、会社が求めている行動様式に適った行動を皆が出来ているのか、どこかにギャップがないか、ギャップがあるとしたらどうやって皆の行動を変えていくのかを考え、施策を取っていく。これが、HRができるビジネス貢献でしょう。

例えば、「組織」を例にとってみましょう。2016年の4月から5月にかけて、コーチでもグローバルレベルで組織改革を行いました。改革の骨子のひとつは、マネジメントのレイヤーが多かった組織のあり方をシンプルにして、上から下へのコミュニケーションのスピードを速めるということでした。レイヤーを減らすということは、一人のマネジャーが見る部下の数が増えるということです。業務の効率化や人件費の見直しにも繋がりました。また、グローバルでビジネスを展開しているコーチとしては、世界で統一したブランドイメージを構築・維持・発展させていく必要があります。それを下支えするのは、国を超えて連携した組織の存在です。そうした組織づくりも、HRの大事な仕事となります。

― 「人材」「組織」「カルチャー」にコミットして変革を進めるためには、ビジネスリーダーに影響力を持つ必要があると思います。そのあたりはどうされているのでしょうか?

まず、コモンゴール、会社全体なら社長、部門レベルなら部門長と、それぞれのレベルで目指すべきゴールは何なのかを共有することが、何よりの大前提だと思っています。例えば、ある部門長が、「ゴール達成のため、こういうことをしたい」と言ったとします。部門長とHRBPとの間でゴールを共有し、かつ信頼関係が築かれていれば、HR分野のビジネスパートナーとして、会社全体のゴールとの整合性はどうかとか、人材・組織の面からみると妥当なのかといったことについて、率直に話をしていくことができます。

例えば、社長は私の上司でもあり、そこには上下関係があるわけですが、自分の中で「これは違うのではないか」と思うことがあれば、はっきりと提言するようにしています。もちろん、ナイスにですが(笑)。それが許される大前提は、社長からゴールをきちっと共有している人物だと認識され、信頼されているということでしょう。

そして、「組織」「人材」「カルチャー」は、HRだけで変革したり、よい状態を維持できるものではありません。社長や部門長など、リーダーのリードも不可欠です。しかし、必ずしも彼らが、そのためのベストな知識やツールをもっているとは限りません。そのサポートをしていくのも、HRBPの役割だと思います。リーダーたちが、「こういうことを実現したいんだけれど」と言ったとき、「それをやりたいなら、こういうやり方がありますよ、こういったツールがありますよ」と、彼らの望みを可能にすることができること。Whatだけではなく、Howの提示もできること、リーダーが考えているHowがベストな選択であるか否かをジャッジできることも、HRBPに求められていると思います。

「日本にリソースが潤沢にくる時代ではない」 グローバル視点でビジネスを捉えられるか

― グローバル企業でHRBPのリーダーを務めている山下さんの後継者を選抜するとしたら、どのような要素を求められますか?

繰り返しになりますが、やはり何よりも「ビジネスを理解する力」です。そして、こういう時代ですから、「グローバルな環境でやっていく力」も必須です。

― 「グローバルな環境でやっていく力」とは、具体的にはどういうことでしょうか?

グローバルな環境できっちりとコミュニケーションが取れることはもちろんですが、変化に対する機敏な対応力や、多様性に対するフレキシビリティや寛容度が必要です。また、「日本では・・・」というローカルの立場から発想するだけでなく、グローバルという視点でビジネスを捉えることができる能力も求められます。

― グローバルな視点でビジネスと捉えるとは?

日本資本ではない企業の場合、日本へのフォーカスはどんどん減る傾向にあります。もし、自分がグローバル展開している企業のトップだとしたら、成長率の低い日本への投資は減らして、ニューマーケットに積極的に投資するでしょう。そういう感性を持っておく必要がある、ということです。そう考えることができれば、「何故ヘッド・クオーターは日本にリソースを回してくれないのか」という「受身」の発想にはならないでしょう。逆に、どのように日本の存在感をアピールしていけばいいのか、という「攻め」の発想になるはずです。日本が投資に値する魅力あるマーケットだ、というストーリーを語ることができなければ、他の国やリージョンにリソースを持っていかれてしまうからです。

グローバルな視点を持って、将来的に日本やリージョンを超えてグローバルHRで活躍したいと考えているとしたら、是非若いうちに海外勤務を経験してください。必ず広い視野や物事を複眼的に捉える力、多様性がもたらす可能性や機会を実現化できる力が身につきます。現地に住んで働くのと、出張で海外にいくのでは、どんなに数多く出張で出向いたとしても、大きな差があります。もしそういうチャンスが巡ってきたら、是非そのチャンスをつかみ取ってください。

女性活躍の問題は終わりのないチャレンジ HRとしてどれだけ多くの選択肢を準備できるか

― 女性の活躍という点についてお伺いします。現在の状況について、どのようにお考えですか?

この話は、正直、ネバーエンディング、終わりのないチャレンジだと思っています。気を緩めずに話題にし続けることでやっと現状維持ができるという状況でしょう。少し進展したからといって、話すことを辞めてしまったら、それは後退の始まりです。女性の社会進出の先進国である北欧の国の人たちと話をしても、そういう認識を持っています。チャレンジとして始まったことは、どこまでいってもその本質がチャレンジであることは変わらない、永遠の課題として捉えることが重要だといいます。

― 具体的には、どのように取り組んでいけばいいと思われますか?

私は、3つ、必ず取り組まなければならない分野があると考えています。一つは、女性である「私たち自身」でです。私たち自身が、自らのキャリアに対して意識を持ち、成功していくためのスキルや知識を身につけ、自己実現をしていくために行動をしていくことができるか。これは、誰かに代わってもらえるものではありません。私たち女性一人一人が取り組むべき分野です。二つ目が、「職場環境」です。日本にある多くの企業では、マネジャー層のほとんどは未だ男性です。その人たちの意識やスキルセットをどう変えていくのか。そして三つ目が、広い意味での「環境」です。働き方が代表的なものです。女性の社会進出がなかなか進まない状況の大きなネックの一つは、長時間労働だと言われていますよね。こうした慣習をどう変えていくか。また、キャリアが分断されないように、ライフステージ毎にフレキシブルに働けるような仕組み作りといったことも入ってくるでしょう。

HRという話に戻れば、この3つの分野に対して何ができるのか、ということになりますね。昨今は、男性も働き方に対する意識は多様化する傾向にありますから、取り組む価値の高いチャレンジだと思います。

― その中でも、山下さんが特に取り組む必要を感じていることはありますか?

今一番大きいチャレンジは、実は、女性自身の問題だと感じています。ここ15年ほどで、女性の活躍に対しての社会や企業の意識は変化してきて、昔に比べれば「男性側の理解が浅い」とか「環境が悪い」といった声が上げやすくなってきました。少しずつですが、変化も実感できるようになってきました。では、この同じ期間に、私たち女性自身がどれくらい変わってきたのかというと、必ずしも大きく前進していないのではないかと思うのです。もちろん、こうした変化を捉えて役員レベルにまで到達した方々も少なくありません。しかし、全体としてどうかというと、必ずしも大きく前進しているようには見えません。

現在の課題は、30代から40代前半の層です。結婚して、子供ができて産休を取って復帰した。でもなかなか思うようにいかない。そうしたステージにいる人たちが、会社の上司を含めた周りのサポートを得ながら現状を乗り切れているかというと、残念ながら断念してしまっているケースが少なくないように思います。この層が薄くなってしまうので、結果的に上に上がっていく女性の数が増えていきません。社会や会社が、環境を与えてくれないという逆風は確かにまだまだあります。しかし、それを嘆いていても、残念ながらすぐには変わりません。そんななかでも、上司や周囲のサポートを自ら取りつけて環境を整えていく、または与えられた環境でどれだけブラッシュアップできるか挑戦してみる、という意識も大事なのではないかと感じています。

そうした自助努力に対して、HRとしてできることは、単に生活のために働くというだけではなく、一人ひとりが人生を充実させるためのキャリアを積んでいくために、できるだけ多くの選択肢がある環境を作っていくことだと考えています。HRとして女性活躍の活動に関わって一番学んだことは、「最終的にはすべては自分の選択だ」ということです。周りの人がその人の人生を決めることはできません。多くの選択肢がある中で、家庭に入ることを決める方もいるでしょう。ただ、働いてキャリアを積み上げていくことで人生を豊かにすることができる、という選択肢を知らないで、仕事を諦めることがないような状況にしていきたいと考えています。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2016年10月)


バックナンバー

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ