HR Professionals:人事担当者インタビュー

第23回 社員の能力・実力と年齢は無関係。65歳定年は今の時代とマッチしている

第23回 社員の能力・実力と年齢は無関係。65歳定年は今の時代とマッチしている

タワーレコード株式会社
総務人事本部 本部長 菅 直己氏

創業当時から65歳定年を続けているという、タワーレコード。その経緯とビジネスとの関係、それを支える人事制度などについて、総務人事本部 本部長の菅氏にお話を伺いました。


菅 直己氏  プロフィール

1982年慶応義塾大学経済学部卒業。(株)西武百貨店(現(株)そごう西武)に入社。数年間の売場勤務の後、労働組合専従役員並びに人事部にて16年間人事労政業務に従事。その後、(株)スクウェア・エニックスの人事部長を経て、2007年より現職。在籍した各社にて労務行政の整備とともに人事制度改革を実現した。現在は、タワーレコード(株)の総務人事本部長として、人事部門に加え総務部門、物流部門の責任者を担っている。


1976年の設立当初から65歳定年。今、その考え方がビジネスに活かさせている。

― タワーレコードでは、ずいぶん前から65歳定年制をとってきたと伺いました。まずは、どんな経緯で、いつ頃から65歳定年になったのか、教えていただけますか?

弊社は、1980年頃、米国タワーレコードの日本現地法人としてスタートしました。もともと米国は、「定年」という考え方がありませんので、日本の労働慣行上、定年制を作った方がいいだろうということで、便宜上、65歳定年とした、というのが経緯です。当時は20代の社員ばかりでしたから、定年と言われてもピンときていなかったんじゃないかと推測しています。2002年には米国タワーレコードとの資本関係がなくなりましたが、定年年齢には手をつけずに、今に至っています。実は、現在のビジネスの観点から見て、65歳定年はとてもうまく機能しています。

ご存知の通り、弊社は店舗でのCD販売を主な事業としています。弊社が日本に上陸した当時、その頃にポピュラーミュージックを聞いていた中心層は10代20代でしたが、今その層が、50代60代になってきているわけです。

例えば、2016年11月にボブディランの36枚組CDが発売されました。この購買層は、基本的に40代以上、60代のお客様も多くいらっしゃいます。そうした層の中には、店舗でスタッフから話を聞いたり、実際に手に取って確かめてからCDを買いたいと考える人たちが多くいらっしゃいます。そうした方々が、店舗で、どういう人に話を聞いたり、相談したりしたいかといえば、同時代に生でそうした音楽を聞いてきた同年代の店員から情報をもらって、購入したいと希望されることも多いと思います。

小売業には、サティスファクションミラーという言葉があります。顧客の満足と従業員の満足が、鏡に映るように同じであることが良い、という考え方です。その実現のためには、様々な年代の従業員がいて、お客様それぞれのニーズに応えられるという状況が望ましい。現在のタワーレコードは、幅広い年齢層の社員を擁していますので、サティスファクションミラーを実現しやすくなっているのです。

2年ほど前、あるお店で、ジャズに大変詳しい60代の社員を、ジャズ売場の即戦力として入社してもらいました。ジャズのことなら昔のことから本当によく知っていますから、お客様の心を掴んで、大いに活躍してくれています。つまり、顧客層の幅が広がれば、各世代が活躍する場がある。結果的に、65歳定年が時代にマッチしてきたということです。

能力・実力があれば、60歳を超えても一線で活躍できる人事制度

― ただ、定年年齢が高くなると、人件費の問題は避けて通れないのではないでしょうか?

そうですね。実は、2008年に人事制度を大きく変えています。それまでは、年功賃要素の強い定期昇給を行っていましたが、それを全廃しました。その代わりに、ミッショングレード制、範囲職務給制度を導入しました。例えば、「店長」という職務の基本給に10万円程度の幅を持たせます。その幅の中で、能力査定と目標管理評価の結果を受けて、次年度の基本給を決定するという仕組みです。

つまり、高いパフォーマンスを上げた店長が、店長職務の給与範囲の中で翌年に一気に10万円にアップすることもあります。逆に、成果を出すことができなかった人が、10万円下がることもあります。賃金はすべて役職・職務と、毎年の査定と目標管理評価によってのみ、決まるのです。活躍している店長でも、それ以上の給与を望むとしたら、その上のスーパーバイザーになるしかありません。

このように、年功賃的な要素はすべて排していますから、年齢の高い社員がいることで人件費が膨れ上がったりすることはありません。年齢と役職を紐づけてもいませんから、「上が詰まる」ということも起きません。逆に、能力・実力があれば、60歳を超えても、第一線で活躍することもできる、ということです。

個人的には、実力主義の人事制度や賃金体系を取り入れているにも関わらず、役職定年という考え方が存在することには反対です。相反する思想2つが共存することになるからです。実力主義を謳っているのに一定の年齢がきたら一律役職を外すということは、矛盾以外の何ものでもありません。55歳になったとしても、40歳よりも実力があって実績を残せるのならば、そのまま役職をまっとうしてもらえばいい。弊社ではそうした実力主義を取っているということです。

― ただ、「実力を測る」というのは、思っている以上に難しいように思います。

ですから、評価制度には力を入れています。現在、2つの観点で、年3回の評価を行っています。一つは、目標管理制度に基づく業績評価。店舗を始めとして、皆が数値目標を持っていて、上期と下期の2回、評価を行っています。もうひとつは、スキル評価。年に一回、期末に行っています。これらを総合して査定をし、賃金を決めていきます。

上の役割になればなるほど、業績のウエイトが高くなっていきますので、実績を上げられない人が、上に上がることは実質不可能な仕組みになっています。当然、どんどん昇格する人もいれば、スーパーバイザーから店長に降格になったり、店長から副店長になったりする人が出てきます。こうしたことは、決して珍しいことではありません。

昇格・降格を日常化すると同時に、社員の努力や能力、専門性をリスペクトすること

― 降格や賃金が「下がる」ということに抵抗を感じる人も少なくないのではないでしょうか?
モチベーションが下がるということはないのですか?

それは、正直難しい問題ですね。確かに、賃金が下がったり降格になったりしても、何も感じないという人の方が少ないでしょう。そこで大事なのは、納得感だと考えています。昇格にしても、降格にしても、「そうなったのは納得できるよね」と、自分自身も含めて、皆が思えるような評価になっているか、ということです。逆に、55歳のAさんは40歳のBさんよりも、実績も能力も上なのに、年齢ということだけで仕事を外されたとしたら、制度で決まっているとわれても、本当の納得感は低いはずです。「実力を発揮して成果を出せば、チャンスがあるんだ」という前向きな共通認識を醸成することが肝要でしょう。

それに加えて、昇格・降格が、評価・査定に合わせて、常に起こっているという状況にする、日常化させるということも大事ですね。降格も当たり前のこと、いつでも誰にでも起きることで、復活も普通にありえるという認識が浸透すれば、降格によるショックは和らぎます。

また、我々は音楽という趣味嗜好性の強いものを扱っていますから、単に一つのマネジメントライン以外に、「●●の分野(例えばジャズの分野)については、誰にも負けない」という知識をベースに活躍できる場所があります。こうした状況をうまく活用して、一つのラインでストレートに上下させるだけでなく、その道の専門家としてステップアップするルートも作っています。

そして、このように制度をしっかりと構築して運用することはもちろんなのですが、やはり、マネジメント層が、社員の努力や能力、エキスパティーズをレスペクトする、それに基づいて配置や処遇を個別に配慮する。そういった気持ちと実践を忘れてないということも、大変重要な要素だと考えています。

― 明確に数値目標があるということが、納得感の一つの要素になっていると思いますが、スタッフ職についてはどのような評価を?

アクションプログラムを明確にして、それをどれくらいの質で実行できたかを評価するということで問題ないと考えています。ポイントは、そのアクションをどれくらい具体的な内容にしていけるか、でしょう。ただし、数字にまったく関係ない社員はいないとも思っています。人事の分野でも、労働分配率を始めとした様々な指標があります。そうしたものをなるべく具体的にKPI化していく、ということも大事でしょう。

―そうした制度があれば、社員の年齢は関係ない。逆に、世代の幅があることを強みにすることができるということですね。

私は、「年齢」という切り口だけで判断していては駄目な時代になっていると考えています。これからは、年齢は多様性のひとつである、くらいに捉えた方がいいのではないでしょうか。確かに、例えば、65歳は年金受給開始というのは事実ですから、社会通念的には一線を退く人というイメージがあっても仕方ない部分はあるでしょう。しかし、年齢だけで、その人が働けるのかどうかを判断するのは違うと思います。

今、まわりにいる60代の方々を見ても、本当に「若い」人が多いですよ。実力も能力も気力もある。そうした人たちを、一律に年齢というキャップをはめてしまうことは、本当にもったいない。40代でも、若さが感じられなくて、仕事を前に進められない人もいますよね。あるのはあくまで個人差です。そうした状況に対応していくためにも、年功と実力主義という二つの思想を無理やり同居させるのではなく、納得感のいく制度、それを支える各社員をリスペクトする風土が重要になると思います。

―本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2017年1月)


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