HR Professionals:人事担当者インタビュー
第6回 ダイバーシティは「経営戦略」の一つという認識を
茅原英徳室長/岡野康子課長/菅野正一課長代理 ■■株式会社NTTデータ 人事部 ダイバーシティ推進室
今回は、社員向け企業内託児所(通称「エッグガーデン」)を運営するなど、女性活躍のための施策を実行し、今年の「ダイバーシティ経営企業100選」にも選出されたNTTデータの人事部ダイバーシティ推進室にお話を伺いました。
■■株式会社NTTデータ 人事部 ダイバーシティ推進室 プロフィール
2008年4月に設立。女性活躍推進を中心に、働き方の変革を実現すべく様々な施策を計画・実行している。2011年には社員向け企業内託児所「エッグガーデン」を開設。女性社員の職場復帰支援にも本格的に取り組んでいる。現在メンバーは7名(内1名兼務)。
制度が足りないのではなく、制度を活用しても女性が活躍し続ける環境を作ることが課題
― ダイバーシティ推進室ができたのはいつのことですか?
2008年の4月です。丸5年経ったところです。
― ダイバーシティ推進室のカバー範囲はどうなっていますか?
現在は「女性活躍推進」がメインの1つになっています。ただし、それはあくまで端緒であって、将来的には外国人などを含めた「多様な人財の活用」へ向けて取り組んでいくことになります。
― 現在、女性社員比率というのはどのくらいですか?
社員全体でみると16%程度です。
― やはり男性社員比率が高いのですね。
確かにこの数字だけをみるとそう感じられるでしょうが、もともとNTTのデータ通信部門が独立した弊社は、圧倒的に男性が多かったのです。独立から25年経って16%まで増えてきたというのが、中にいるものの感覚ではあります。とくにここ10年くらいの伸び率が高く、20代だけを見ると女性社員比率は30%を超えています。
― 現在、「女性活躍」という観点での課題はどんなことがありますか?
制度そのものについては、NTT時代から充実していて、制度が不十分ということはないと思っています。ただ、それらをうまく活用して女性が上位職に就いているかといえば、まだまだだというのが現状で、この状況を打破していく必要があります。
― 管理職のうち女性管理職の比率はどれくらいですか?
残念ながら4%程度です。ですから、女性にとってロールモデルが圧倒的に少ないのです。また、現在の男性管理職には、女性を活用した成功体験がまだまだ少ないということもあります。ダイバーシティ推進室が出来てから、全社セミナーの開催、ホームページの開設、メールマガジンを発行したりすることで情報発信を続けていますので、女性活躍推進に対する理解は進んできているとは思うのですが、まだ「現業部門での女性の活用は手探り」といった状態ではないかと思います。
― 具体的にはどのような施策を行っていらっしゃるのでしょうか?
今取り組んでいるのは女性自身の意識改革です。2011年にダイバーシティに関する全社員を対象とした意識調査や女性社員約350名へのヒアリング調査を実施しました。その結果、「10年後も今の働き方が続けられるか」との回答に男女で2倍の差が生じました。また、「管理職になりたいか」の質問に対して若手女性社員の4割が「なりたくない」と回答しました。これではどんなに制度が充実していても、周りがある程度のお膳立てをしたとしても、管理職は増えていきません。
全女性社員の意識を一気に底上げしようとすると時間がかかりますから、まず、管理職および管理職一歩手前の女性社員(約250名)にターゲットを絞っています。定期的にセミナーを開催して、社外で活躍する方々の講演やリーダーシップを学ぶ機会などを提供しています。加えて、日頃会う機会の少ない女性社員が一堂に会しますから、ディスカッションなど相互交流の機会も設けて、「自分の会社にもこんな風に活躍している女性がいるのだ」ということを肌で感じてもらえるように工夫しています。
こうした活動は2年くらいを一区切りとして、まずはコアになる女性社員の意識を盛り上げていこうと計画しています。
また、必ずしも「活躍=上位職に就くこと」ではありません。その前段で、全員にプロフェッショナルを目指すというキャリアパスを提案しています。企業に所属する以上は企業の価値創出に貢献するのが絶対条件です。社員一人ひとりがその認識に立った上で、自分のキャリアを考え、働き続けることができる仕組み作りを考えています。
ダイバーシティは「経営戦略」の一つ
― 男性社員や管理職の意識改革はいかがでしょうか?
ダイバー推進室設立当初から、ワークショップ形式で「変革」について考える研修を行い、2年前からは、新任の部長・課長研修に、「働き方変革編」という一日の研修を組み込んでいます。ここで強調しているのは、女性活躍を含めたダイバーシティの実現は、グローバル化を進めるうえで重要な要素である、ということです。その実現のためには、必然的に男性も含めた会社全体の働き方を変えていかなくてはならない、つまり他人事ではなく、自分たち自身の問題なのだと認識してもらうようにしています。
具体的には、短時間勤務のメンバーがいる場合のプロジェクト内のリソース配分をどうしたらいいのかなど、現場で実際に起こりうるケーススタディを通じて考えてもらう機会を提供しています。また、短時間勤務というと女性の働き方とのイメージを持たれてしまいがちですが、今後は介護のために短時間勤務が必要となる社員や残業できない社員が増えていくことが予想されます。これは誰に対しても起こりうるものですから、そうした話も絡めていくようにしています。
― 「ダイバーシティ」をいかに、会社全体の課題であり、自分自身の問題でもあるのだと認識してもらうことは非常に重要ですね。
「ダイバーシティ」は、企業が持続的に成長していくために必要な経営戦略と捉えています。2011年から、こうしたメッセージを前面に出すようにしています。
― 実際の手ごたえはいかがですか?
「時間制約のある社員を活用する」、「働き方を変革する」ことに対しては、まだまだ「総論賛成、各論反対」の状況を抜け出せていないと思います。研修を受けた社員のほとんどが、「わかりました」「わかっています」といいます。では、職場に戻ってから、女性メンバーを活用して新しいチャレンジをしてみるかというと、なかなか第一歩を踏み出せていないようです。働き方の変革についても同様です。
ただ、それを男性管理職の意識の問題で、「古い考えから抜け出せないのが悪い」と片付けてしまったら、「女性活躍」は先に進めないだろうとも感じています。
この問題意識が、先ほどの「女性の意識改革」につながるのです。実は、女性の意識改革のための施策を行うと言ったとき、女性陣からかなりの反発が起こりました。
― 女性からの反発ですか?
はい、そうです。「今さら何ですか?」と。「そうした事は今までも何度も行ってきたのではないか」「それでも会社はあまり変わっていないじゃないか」と。また同じことを繰り返すだけではないか、ということですね。
ただ、実際に意識調査の結果からもわかるように、女性社員に課題があるのも事実です。若手の4割が管理職になりたくないと言っている状況から、男性管理職が、「女性の意識は低いのではないか?だから重要な仕事をまかせるのが不安」と躊躇してしまうのにも一理あります。一方、「管理職になってもいい、どちらともいえない(なりたくないことはない)」と言っている6割の女性社員たちが「自分が管理職になるイメージが出来ない」ことからガラスの天井にぶつかってしまうのは非常に残念なことで、避けなければなりません。このギャップを埋めていくのが我々の課題だと思います。
ですから、女性社員には、我々は今回「本気で推進する」ことを伝え、皆で一緒に前進したいと全社をあげて伝えているところです。
男性陣への啓蒙も重要ですが、女性陣は受身ではなく、積極的に「こういう仕事をやってみたい」「こういう仕事ができるからアサインしてほしい」ということを上司に伝えていくことも同時に重要だ、ということを改めて認識してもらう必要があります。
― それで、今一度、女性の意識改革ということだったのですね。
女性にはできるだけ早く復職してほしい そのため何ができるのか
― では、ここから社員向け企業内託児所「エッグガーデン」について伺いたいと思います。開設はいつですか?
2011年12月です。現在(2013年5月)、0歳児が3名、1歳児が2名、2歳以上の児童が1名となっています。
― そもそも、エッグガーデンを作ろうとした経緯は?
2008年以前に、当社が創立20年を迎えるにあたって、「20周年事業提案」として社員からいろいろなアイディアを募りました。その中に、企業内託児所設立という提案がありました。それがスタートです。つまり、ボトムアップだったということですね。当時、海外駐在経験のある幹部が、女性活躍のための支援が必要だという問題意識を持っていたことも追い風となって、会社として本格的に取り組むことになりました。
― そこから実際の開設まで数年間ありますね。超えるべきハードルは多かったのでしょうか?
まず、NTTデータにとって本当に必要なのか否か、議論に時間を要しました。
また、ロケーションを決めるのに時間がかかりました。どこに作ったとしても、勤務場所と住んでいる場所によって、使える人と実質使えない人が出てきてしまいますから。最終的には、豊洲の本社ビル勤務の女性が多いこと、当時の豊洲地区での待機児童の状況等から、豊洲に決定しました。
次の問題は、本社が自社ビルではなく、テナントビルだということです。企業内託児所には様々な規定があります。自社ビルであればそれに沿って手を加えるということが容易かもしれませんが、テナントビルですとなかなかそういうわけにはいきません。様々な条件をクリアできる場所を探すのに、思った以上に時間がかかりました。そんなとき、たまたま本社ビルの2階に入っていた企業が撤退することになり、そこを借りることができました。これは大変ラッキーでした。
― 実際に託児所が出来て、2年ですが、どんな手ごたえを感じていらっしゃいますか?
託児所を開設する前は、「地元で保育園がみつからなかったから、育児休職の延長をしたい」という社員が多いという問題に直面していました。今は利用者から「確実に入れる企業内託児所があったので、復職しやすかった」という声をもらっています。最近では、育児休職のあと、短時間勤務を取得せずにフルタイム復帰する社員も出てきました。自分のキャリアを意識した社員にとって望ましい選択肢が増えたことは成果のひとつだと思います。
当然のことですが、いろいろな面で地元の認可保育園に預ける方が便利だと考える方が多いです。認可保育園では、申込時点で認可外保育施設に預けていることが証明できると、入所の優先度が上がるという仕組みになっています。エッグガーデンは認可外保育施設に当たりますから、入所の優先順位を上げるためのポイントが加算されます。つまり、どんな時期にお子さんが生まれても、まずはエッグガーデンに預けられる。時期がきたら地元の認可保育園に入ることができる、という流れができるのです。実際に2013年4月には、それまで預かっていた7名の児童のうち、6名が地元の保育園に移りました。
会社としては、女性が活躍し続けるためにも、早くに復職して、早くにフルタイムで働いてほしいと思っています。制度上は3年間の育児休職が認められていますが、やはり丸々3年のブランクの影響は少なくありません。そのために、仮に1年なら1年で復職するための現実的な計画が立てられるような支援をしていきたいと考えています。企業内託児所は、その一つとして機能し始めていると思います。
― エッグガーデンは男性社員のお子さんの利用も可能なのですか?
はい、もちろんです。奥様が他社の方でも利用できます。弊社の男性社員が朝一番8時に預けにきて、18時に他社で働く奥様が迎えにくるといったパターンが多いようですね。
― 開設から1年と少し経ちましたが、その間に改善されたことなどありますか?
エッグガーデンから地元の保育園へ、という流れがひとつの利用方法だということが見えてきましたし、できるだけ早くに復職して、早くにフルタイムで働いてしてほしいという思いがありますので、運用面で二つの変更を行っています。
ひとつは、定員の配分の変化です。当初は、0歳、1歳、2歳と均等に定員を設けていたのですが、現在は0歳1歳の定員を多く設定しています。また、2013年の3月から延長保育を開始しました。特に豊洲以外の拠点で働いている場合、フルタイムで働いていると、どうしても18時のお迎えに間に合わないケースは出てきてしまいます。そのときに対応できるような体制を組みました。
― エッグガーデンについて、今後の課題はどんなことになるでしょうか?
まずは、もっとその存在とメリットを知ってもらって、利用者を増やしていくことですね。まだまだ、定員に達するような数はお預かりしていませんから。
一度利用した方からは、クレーム的なことは一切なく、「本当によかった、ありがとうございます」という感謝の声をいただいています。そうした方が出産を控えた社員に勧めてくれるという流れはできつつあるように思います。しかし、まだまだ「あるのは知っているけれど、詳しくは知らない」という社員も少なくありません。育児休職者セミナーや出産予定社員に積極的に紹介するなど、社内広報に力を入れているところです。
それから、住まいが豊洲から離れている社員でも利用できるような仕組みも考えています。一時保育を行うなど、利用拡大策も実施しています。中には、地元の保育園に入園できないときはエッグガーデンに預けるために豊洲周辺への引っ越しを検討しているという話も聞くようになりました。
― 現在は、NTTデータの社員が対象ということですが、グループ会社への展開も視野に入っていますか?
確かにニーズはあります。しかし利用スキームなどを慎重に考える必要があると思っています。一方で、採算を取っていくためには、一定数以上のお子さんを預かり続けることができる仕組みも考える必要があります。このあたりは、これからの課題です。
― 最後に、ダイバーシティ推進全体の話に戻って、これからの抱負を教えてください。
少しずつ変化が起きているという手ごたえは感じていますが、具体的な数値で示せる成果が出てくるまではあと、2〜3年はかかるだろうと思います。お陰様で今年、経済産業省主催「ダイバーシティ経営企業100選」を受賞できました。これは励みになりました。
我々がここで踏んばれるか否かが、少子高齢化、グローバル化が急速に進む中で企業が生き残れるかどうかの、ひとつの鍵を握っていると考えています。女性の課題だけに留まるのではなく、これから避けて通れない、介護の問題や外国人の活用も含めて、生産性の高い働き方を模索し、「働き方変革」とともに実現していきたいと思います。経営からも大きな期待を受けていますので、気を引き締めて取り組んできたいと思っています。