管理者からの提言

第1回 〜人材データの活用が企業の成長の成否の鍵を握る〜 旧来型人事データ管理からの脱却の必要性

第1回 〜人材データの活用が企業の成長の成否の鍵を握る〜 旧来型人事データ管理からの脱却の必要性

 大島由起子

インフォテクノスコンサルティング株式会社
Rosic人材・組織ソリューション開発室 室長/セールス・マーケティング事業本部 本部長


どうして現行のシステムを入れ替えるのか?

ここ3年で弊社の人材マネジメントシステムを導入いただいたお客様について整理してみると、その8割以上が、それまでの人事・給与システムの入替 か、現行の人事・給与システムには手をつけず、人材・組織マネジメントに活用するためのシステムを追加で導入するというものでした。また、人事部ではな く、事業本部が自分たちのマネジメントのためにシステムを構築するというケースも増えています。

これは何を意味するのか。ひとつ明らかに言えることは、それまでの人事・給与システムが、それぞれのお客様が持っていた課題に応えられていなかっ た、ということです。どうしてそうした状況になってしまったのか。どうしたらそうした状況に陥らない、もしくは抜け出せるのか。そして、抜け出す先に目指 すべきものは?今回はそうしたことについて考えてみたいと思います。

人事を巡る環境と役割の変化にシステムがついていっていない

まず、1970年代から1980年代までの日本企業について整理してみます。大卒男性ホワイトカラーについては終身雇用(労働市場全体が「終身雇 用」であったわけではありませんが)。人事制度は職能資格制度が取り入れられ、新卒中心の採用が行われていた、というのが一般的な姿ではないでしょうか。 そこでの人事部の役割の中心は、「法律・ルールの順守」「問題を発生させない」「発生した問題の火消し」といったものでした。そうした人事部にフィットし た人事情報管理システムの特徴は以下のようなものとなりました。

ユーザー: 人事担当者
扱う情報: 労務・給与・勤怠関連
目的: 業務の効率化・コスト削減

1990年代に入ると、バブル経済の崩壊があり、人事部を巡る環境が劇的に変化します。成果主義が導入され、リストラや早期退職が実施されました。 制度には選抜人事的な発想が取り入れられ、中途採用も一般的に行われるようになりました。そして、2000年以降、非正規雇用、雇用延長、多様性、グロー バル化といった波が待ったなしで押し寄せてきていいます。まとめると・・・

【人事を巡る環境の変化】
〜1980年代   終身雇用・職能資格制度・新卒中心採用
1990年代〜    成果主義・リストラ(早期退職)・中途採用・選抜人事
2000年代〜    雇用延長・非正規雇用・多様性・グローバル化

こうした変化に対して、人事部に期待される役割も自ずと変化してきています。それは、「全社戦略に関わる経営のビジネスパートナー」であり、「現場 のマネジメント支援者」であり、「人材開発・組織開発のエキスパート」ということになるでしょう。このような役割を担う人事部の武器となるシステムに求め られる性質も、当然変化して然るべきです。

【人事情報システムに求められる性質(キーワード)】
■  均一的/一般ルール/静的/マス対応
         ↓
■  違い/独自性/変化(動的)/個別/現場/未来

そして、具体的に必要とされているシステムとしては、以下のようなものになるはずです。

ユーザー: 経営層・現場マネジャー・人事戦略担当・人事担当
扱う情報: 人材・組織マネジメントに必要なデータ
目的: 業務(人材マネジメント)の品質向上

最初に上げたものとまったく違っているのがわかります。もはや、人事部が粛々と利用してきた旧来型の「人事・給与システム」の守備範囲を超えている のです。冒頭に上げた弊社が経験した数字は、こうした変化に気がつき、行動に移している人事部や人材マネジメントに関わる人たちが確実に増えてきているこ との表れでしょう。

システムベンダーの問題とユーザーの問題

システムのご相談を受けるとき、大抵の場合「今のシステムが使えていない」「自分たちの求めているものに応えてくれていない」という話になるのです が、ここには2つの問題が潜んでいると思っています。ひとつは、システムベンダー側の問題。もうひとつはユーザー側の問題です。

ベンダー側の問題としては、「『人材データ管理』は人事部専有の仕事」という発想から抜け切れてない、「戦略」の本質を理解してそれに対応できる形 のシステムがまだまだ少ない、ということだと思っています。どれくらいのシステムが「人材データ管理でメリットを受けるべき人たちは誰か」「『管理』では なく、『活用』となったときに求められる機能やサポートとは」などについて真剣に考え、そのうえで実効性のある形にできているかと考えると、業界として心 もとない面があることは否めません。

ユーザー側の問題は、自社にとって現在そして未来に何が必要なのか、そのために行う投資の効果は何なのか、誰がメリットを受けるべきなのか、といっ た点を明確にし、決裁権者も含めたステイクホルダー内できちっと共有できていないケースが見受けられるということです。こうしたことは、各社の戦略に関わ る部分ですから、他社の事例を参考にすることはできても、そのまま真似ることはできません。人事部の役割の変化やシステムに求められるもの変化に気がつい ていたとしても、この部分をしっかりと固めておかないと、期待に沿ったシステム選択・構築は難しいでしょう。

こうしたことをよく理解していただくことが、旧来型の人事情報管理から脱却して、新たな人事の役割を遂行するのに役立つ心強いツールを手にするために重要になると思います。

今後、人材データの活用が企業の成長の成否の鍵を握る

アメリカの企業では、高度なデータ収集技術と分析技術を駆使して、人材から最大の価値を引き出そうとする動きが出ていると言われています。

例えば、「多くの企業は、トップの成績で一流大学を卒業した人材を採用したがる。しかし、グーグルとAT&Tは、イニシアティブを取る能力があると 証明されている人材の方が、仕事で高い成果を上げる可能性が高いことを定量分析で明らかにした」(ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー 2010年 12月号「『人事分析学』がもたらす競争優位」)といった具合です。

以下も、アメリカで実際に起こっていることです。

「もはや人事部は、社員の人事データを部内だけにとどめておくことはできない。組織が成功するために、これらのデータを利用する必要があるからだ。 ジェットブルー、ベスト・バイ、リミティッド・ブランズは、従業員満足度調査と企業業績に密接な統計的関連があることを発見した。− 通常、この関連は事 業所や支店、店舗レベルで見られる。この深い関連を知ったベスト・バイは、年に一度行っていた従業員の意欲に関する調査を、四半期に一度行うことにし た。」(同誌)

貴社の従業員満足度調査はどのように使われているでしょうか?活用できるような形でデータベース化できているでしょうか?他のデータをクロス分析して課題を抽出できるようになっているでしょうか?

「分析の理論は、実践に移さなければ意味がない。それには定量分析の専門家だけでなく、心理統計学や人材管理システムとそのプロセス、さらに雇用法 の専門家が必要になる。・・・グーグル、P&G、インテルなどは、人事慣行についてより深い洞察を得るために、人事分析に関するグループを確立し ている。」(同誌)

分析担当者として、博士レベルの分析の専門家を雇う企業も少なくないといいます。アメリカで起きていることがすべて正しいかどうかは議論のあるとこ ろですが、少なくとも、グローバルの世界の競争相手となる企業が、「人材」がビジネスに与えるインパクトを痛感し、ここまで踏み込んでいるということを認 識する必要があるでしょう。

日本でも、以下のように考え、実際にその実現にむけてシステム構築をしている企業があります。

「仮説検証や試行錯誤を、思考を止めないスピードで自在にサポートしてくれる仕組みを構築する。」
「事業部のマネジメントを強化するには、全社人事が持っている静的な情報だけでは不十分。生々しい現場の情報とスピード感に応えられる仕組みが必要。」
「事業部が自律的に人材・組織マネジメントに取り組むためのインフラを提供する。」
「要員シミュレーション・人件費シミュレーションを、形式的にではなく、柔軟に行ってベストな解を見つけていく。」
「人材・組織に関連するデータを紐づけて、『成功の再現性』を高めていく。」

求める結果を明確にしていけば、システムの選択(ベンダーの問題)・構築(ユーザーの問題)もぶれにくいものになりますし、人事部が価値を生み出す 組織としての役割を果たしていくことができます。これを機会に、貴社の既存の人事情報システムについて、人材データの活用について、考えてみていただけれ ばと思います。 

(2012年3月)

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