経営者に聞く

第4回 企業理念を浸透させ、価値観を共有することで強い組織を作っていく

第4回 企業理念を浸透させ、価値観を共有することで強い組織を作っていく

株式会社バンク・オブ・イノベーション
 樋口智裕氏 / 小梨明人氏

スマートフォン向けにネイティブのソーシャルゲームアプリを提供している、バンク・オブ・イノベーション。企業規模が急速に拡大していくなか、企業理念などを「BOIZM」と称し、その浸透に本気で取り組んでいます。そのために、出版できるようなクオリティのカルチャーブックまで制作したといいます。今回は、代表取締役の樋口氏と専務取締役の小梨氏に、BOZIM浸透にどのように取り組んだのかについてお話を伺いました。

株式会社バンク・オブ・イノベーション


樋口智裕氏 / 小梨明人氏  プロフィール

樋口智裕氏(写真左)
 株式会社バンク・オブ・イノベーション 代表取締役社長CEO
1983年生まれ、青山学院大学卒。学生起業を経て、2006年にバンク・オブ・イノベーションを創業。
2007年に独力で動画検索エンジン「Fooooo」を開発。市場の注目を集める。
その後、ネイティブアプリにシフトし、複数タイトルをリリース。本格ファンタジーRPG「幻獣契約クリプトラクト」は、Google Play今週のおすすめゲームに選出され、リリース後1ヶ月で100万DLを突破。
クオリティに妥協しないことを信条に、Facebook、Google規模のプロダクト創出を目指す。共感する起業家は本田宗一郎。

小梨明人氏(写真右)
 株式会社バンク・オブ・イノベーション 専務取締役COO
1982年生まれ、横浜国立大学を経て、ベンチャー系の人材コンサルティング会社に新卒入社。
経営コンサルティング、ファイナンス、経営層の人材紹介等を担当。その後、スパイシーソフト株式会社にてHR管掌執行役員を務め、2013年1月よりバンク・オブ・イノベーションに参画。
取締役に就任し、COOと人事責任者を兼任。企業理念の浸透を大切にした経営を行なっている。
「経験」より「意志」やBOIZMを「共感」できることを重視した採用を進めており、2013〜2014年の1年間で約150名の採用に至っている。2014年に、直近3年間で481%の収益(売上高)成長を記録。


革新的で感情を揺さぶる、世界最高のモノづくりをするために必要なこと

― まず、「BOIZM」について教えてください。

【樋口氏】
うちの会社で社名を略称でBOIと表記しています。その企業理念が「BOIZM(ボイズム)」です。「BOIZM」とは、企業理念としての「PHILOSOPHY」「VISION」、行動指針としての「BOING5」、これらを掛け合わせた総称になります。

うちはモノづくりの会社です。モノづくりは、革新的でなければユーザーに伝わりませんし、特にゲームに関しては驚きや喜びといった、感情を揺さぶるようなものをご提供しなければ振り向いていただけません。また、世界最高峰を目指し続けなければ、より多くのユーザーに支持されないでしょう。そうした思いなども「BOIZM」に積め込みました。

― 御社では、そのBOIZMの浸透に大変力を入れていると伺いました。そのために、本格的なカルチャーブックまで制作したとか。

【樋口氏】
「BOIZM」を、社員はもちろん、BOIに関わる多くの方に知ってもらいたいという目的で作ったのが、『BOIZM』という絵本調のカルチャーブックになります。 実際にAmazonでも販売しています。お取引先の方や一般の方が、時々購入してくださっているようです。

(画像クリックでAmazon詳細ページへ↓)
BOIZM.jpg

― なぜ、そのようなカルチャーブックを作ろうと考えたのでしょうか?

【小梨氏】
私は2013年に参画し、すぐに社員全員と面談をしました。すると「自身、どうしてここで仕事をしているのか」ということを理解してない社員が何割かいたのです。つまり、企業理念やカルチャー、仕事をする上の価値観が会社と一致しきれていないと気づきました。「いいものを作っていきたい」という思いで仕事をしないといけないはずが、ベクトルの方向と熱量が少し異なっているという感じでした。ちょうど会社に勢いがついて、業績がグンと伸び始めた時期だったのですが、皆が向いている方向がひとつにまとまりきれていなかった。

当時、社員はまだ35人程度で、樋口の中に想いはあるものの、具体的な企業理念というものが存在していませんでした。そこで、樋口ともう一人の役員と私の3人で、これからのBOIをどうしていきたいのか、合宿をして徹底的に話し合いました。その中で、企業理念、行動指針を「BOIZM」として明確に打ち出し、明文化し、徹底的に浸透させていくことを決めたのです。

会社の話がだらだらと長い文章で書いてあっても、誰も読みたくない

― 企業理念を説明するために、何故「本(絵本調)」というメディアを選んだのでしょうか?

【樋口氏】
単に、会社の話がだらだらと長い文章で書いてあったら、きっと誰も読まないと思ったからです。私自身、読まないですし(笑)。まず、開いてみたいと思えて、開いたら直感的に何かを感じることができることが大事だと思いました。また、絵本の文章は簡潔ですから、読む人それぞれが、自分の経験などをベースにして行間にあることを感じ取り、思考を広げていくことができる。これも絵本の良いところですね。

【小梨氏】
私は前職で、同じような取り組みをしたことがあって、こうした手法は効果的だと考えていました。ですから、「カルチャーブックでいこう」ということは、すんなりと決まりました。

― カルチャーブックの制作は、どのように進められたのですか?

【小梨氏】
我々が気に入っている本を製作・出版している絵本作家の方に直接、制作をお願いしました。まず、樋口と私が合計で5時間を超えるインタビューを受けて、それを文章に起こしてもらいました。その文章全体をチェックするだけでなく、使われている言葉を一つ一つ吟味して、「その単語は漢字・平仮名・カタカナのどれで表現するのが適切か」というレベルまで考え抜きました。例えば「本物」はあえて「ホンモノ」とカタカナにしたりとか。

写真にも徹底的にこだわりました。基本的にすべて子供の写真を使っています。子供は先入観なく変化を楽しんでチャレンジできる存在だからです。また、我々自身がまだまだ子供で、これから成長していく存在であるという意味も込められています。そして、単に格好いい写真ということではなく、選び抜いた言葉を表現できるものはどんな写真なのか、写真が文章と一体化することにもこだわりました。

そんな風に、樋口と私で2カ月ほどかけて徹底的にチェックをしていきました。結局10回くらいやり直しをしましたね。最初のプロトタイプはほとんど原形をとどめていません。

― 35人の会社にしては、大きな投資だったのではないですか?

【樋口氏】
実際に絵本制作に入ったときには、50人くらいにはなっていたと思いますが、確かに大きな投資でした。現在、Amazonで1000円(税別)で販売していますが、それはそのまま制作原価ですし、儲け目的ではありません。「BOIZM」を浸透させるための手段には投資を惜しみませんでした。ぴかぴかの内容が伴わない看板より、企業理念浸透の方がはるかに大事だったということです。

BOIZMを語ることができないなら、リーダーの資格はない

― そこまで力を入れている「BOIZM」ですが、具体的にはどのように社内に定着させていったのですか?

【樋口氏】
日々社員に伝える他に、四半期毎に一度、全社員が集まる「納会」という場で「BOIZM」に対する私の思いを直接伝えています。その際にはこの本を活用することが多いですね。

【小梨氏】
リーダーへの浸透に力を入れています。リーダーの条件として、言葉の意味が理解できて、それを実務に落とし込めて、メンバーに伝えることができること、と厳しく言っています。それができないなら、リーダーから外すと。リーダーが「BOIZM」の本質を伝えることができれば、彼らがインフルエンサーとなって、現場への浸透が進みますから。

また、行動指針である「BOING5」は、体現した社員を社内投票を元に表彰するということをしています。

― 社内投票、ですか?

【小梨氏】
そうです。「BOING5」は、具体的には、1.こだわりの追求、2.時代の二歩先、3.勝利への情熱、4.チャレンジ精神、5.チームワークなのですが、これらを一番体現できた社員は誰なのか、全社員が相互に投票を行うのです。これを四半期毎に行い、どんな声があったかということも本人に伝えています。

― どうあっても自分の行動を意識するようになりますね。その他に、「BOIZM」を浸透させるために行っていることはありますか?

【樋口氏】
「BOIZM」が印刷されたカードも配っています。社内にもポスターも貼ってありますし、一般的なことは普通に行っています。

【小梨氏】
現在、オフィスの移転を計画していますが、新しい場所に移ったら、執務室に入るためのカードに「BOIZM」の言葉を入れようかと考えています。どんな人でも、出社すれば一日2回、必ず手にしますからね(笑)。

ゲームに興味があるよりも、価値観を共有できるかが重要

― それは、いいアイディアですね。ところで、『BOIZM』(カルチャーブック)は、採用時にも使われているのですか?

【小梨氏】
大いに活用しています。まず、説明会に参加してくれた応募者全員に、「会社案内」として配布しています。

― 反応はいかがですか?

【小梨氏】
大きく二つに分かれますね。ひとつは、「思いに共感した」「感動した」「心に刺さった」と言うグループ。もうひとつは、「ところで、何の事業をやっているのですか?」と混乱してしまうグループ。我々は、前者のグループから採用したいと考えています。

― 事業に興味がなくてもよいということですか?

【小梨氏】
我々のPhilosophyは、「革新的なプロダクトでイノベーションを起こし続ける」ですから、それを軸に挑戦を続ける仲間を求めています。極論、その価値観さえブレずに共有できていれば、事業は何をしてもいいというくらいに考えています。時代はどんどん変化していますから、事業領域が変わったり、まったく新しい事業に乗り出すことも十分ありえるでしょう。そんなとき、ブレーキにならず、一緒に舵を切っていけるか、を重視しています。

― そういうBOIからのメッセージは届いてると感じますか?

【樋口氏】
BOIZMを全面に出してから、入社してくる方のタイプが変わったと感じています。現在弊社に入社してくる人たちは、業界で選んでない人が8割を超えているのではないでしょうか。中途採用でも、ゲーム業界出身者は1割程度です。

【小梨氏】
BOIZMができる前は、「ゲームが大好きだから」がメインの入社動機の人たちが結構いましたが、今は、価値観に共有できるから、ということで入社してくる人が増えています。この世界は技術の変化も激しいですし、スピード感を持って変化していかなければならないので、かえって業界に対する先入観が強くない人の方がいい、という側面もありますね。

― スーパーエンジニアとかスーパープログラマーが応募してきて、どうしても価値観が合わないといったケースはどうするのですか?

【小梨氏】
正直、そういう人たちが応募してくることはほとんどないので、具体的な事例はないのですが、悩むところでしょうね。でも、やはり価値観が共有できなかったら、お断りすることになるでしょう。実際そういった場面になったら、悶々と悩んで、断った瞬間はとても悲しいと感じると思いますけれど(笑)。どちらかというと、社内に迎えるのではなく、仕事をお願いするという関係になっていくと思います。

伝わることの濃度を薄めないために、直接のコミュニケーションが重要になっている

― 現在社員が160名を超えてきて、コミュニケーションのスピードが遅くなったなど、これまでにはなかった課題が出てきたりしていますか?

【小梨氏】
スピードというよりは、伝わることの濃度が薄くなっているという危機感はありますね。

【樋口氏】
『BOIZM』というカルチャーブックができて、企業理念や行動指針が伝わり易くなってはいますが、大事なのは泥臭いコミュニケーションを地道に続けることだと思っています。フェイス トゥー フェイスでしか伝わらないことが、確実にあります。ですから、社員がより大きな規模になっても、社員全員が集まってコミュニケーションを取る納会を続け、そこで私が直接「BOIZM」の話をし続けているのです。

【小梨氏】
直接話すこと、同じ時間と場所を共有することは本当に重要です。今、新しいオフィスへの移転を計画していますが、弊社では、在宅勤務とかサテライトオフィスは基本的にNGと考えています。今は特にできるだけ社員が直接コミュケーションできる環境づくりを考えています。

【樋口氏】
今、人事の機能が非常に重要になってきています。ビジネスを推進していくにあたって、「組織力」が鍵を握るからです。どんなに優秀な人でも、どこかで失敗をするもの。ですから、個人の力ばかりに頼っていてはパフォーマンスが安定しません。やはり、組織として取り組むことで、安定するし飛躍もできる。BOING5のひとつに、「チームワーク」が入っているものも、そうした理由からです。ただ、組織力を上げていくことは、決して簡単なことはありませんし、時間もかかります。人事の存在価値はまさにそこにあると考えています。

組織力を上げていくために、人事は様々な取り組みをしていく必要がある

― 人事では、具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃるのですか?

【小梨氏】
皆が参加できるようなイベントを増やしています。例えば、今年からBOIZ部というものを立ち上げました。

― BOIZMではなく、BOIZ部、ですか?

【小梨氏】
はい。言葉を掛けています。簡単にいうと部活動の推奨ですね。社員同士がコミュニケーションを深めていくことを支援しているサークル、部活動のようなもので、BOIZ部は社内活性化のために有志で社内イベントなどを企画運用しています。

それから「イノたま制度」。「イノベーションのたまご」を略して、「イノたま」。新事業提案からオフィスのちょっとした改善まで、新しい価値を生み出すアイディアを募集し、採用されたものを表彰し、実行する制度です。

以前は、事業計画の募集だったのですが、それだけだとハードルが高く、応募数が伸び悩みました。そこで、もっと気軽なものでもいいから、何かを良くするために変えていけること、始められること、を集めることにしました。

― 例えばどんなものが上がってきていますか。

【小梨氏】
嬉しかったのは、「社内で採用チームを作ろう」というものです。もちろん人事に採用担当はいますが、現場も、採用を自分事として捉えて、積極的に協力していこうという提案です。実際に、現場のメンバーが、採用したい人に直接業務内容を説明したり、説得したりしてくれています。

他には、過去のゲーム機とか、ヒットしたゲームタイトルに直接触れることができる「ゲーム部屋」を作ろうといったものもありました。

【樋口氏】
大分数は増えてきていますが、もっともっと数を出してきてほしいですね。一人10個くらいは出してきてほしい。私の中には100個くらいありますから。

【小梨氏】
樋口さんも出してください(笑)。この他にも、若手でも本人の意思やポテンシャルをみて、現状のポテンシャルを超えた役職を任命していく「抜擢人事」や、社員と役員がリラックスしてお酒を飲みながら、たわいもない話から経営に対する意見まで、垣根なく交換することができる「BOI当事者会」など、様々な施策を行っています。

― 最後に、人事に携わる人たちに経営者として期待することを教えてください。

【樋口氏】
私は、何十年も続いていく会社を作っていきたいと思っています。そのためには、組織力の強化が非常に重要になります。それを担えるのはまさに人事です。経営層としっかりコミュニケーションを取って、組織の力を上げていくことができれば、ビジネスに大きく貢献することになるでしょう。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2015年4月)

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