経営者に聞く

第5回 「意図ロジック」「アイディアキラーの撲滅」「適材適所」が、人材や組織のマネジメントの鍵

第5回 「意図ロジック」「アイディアキラーの撲滅」「適材適所」が、人材や組織のマネジメントの鍵

株式会社バーガーキング・ジャパン 代表取締役
 村尾泰幸氏

今回は、日本マクドナルドで31年間ハンバーガービジネスに関わった後、バーガーキング・ジャパンの社長になられた村尾氏に、日本マクドナルドに入社した経緯からそこでのエピソード、そして経営者からみた「求める人物像」などを伺いました。


村尾泰幸氏  プロフィール


1958年    大阪府生まれ。
1981年3月 奈良大学文学部卒。
1981年4月 日本マクドナルド株式会社に入社。
2006年9月 執行役員に就任。
2010年3月 取締役上席執行役員・直営本部長に就任。直営店舗における売上・利益・QSC に関わる管理、
                直営本部内での人事戦略の立案並びに組織管理をはじめ、全社横断的な戦略立案・実行、
                特に財務・店舗出退店・フランチャイズ展開などに参画。
2012年3月 日本マクドナルド株式会社を退職。
2012年7月 シダックス株式会社取締役に就任。創業 20 年の節目となるビジネスの転換期における
                長期戦略の構築と具体的戦術の展開を手掛ける。
2012年10月 シダックス・コミュニティー株式会社代表取締役常務に就任。
2013年9月  シダックス・コミュニティー株式会社を退職。
2014年2月1日 株式会社バーガーキング・ジャパン代表取締役社長に就任。


授業料を稼ぐために、空き時間に始めた2時間のアルバイトがすべてのスタート

― 村尾社長は、日本マクドナルドからシダックスを経て、2014年にバーガーキング・ジャパンの社長に就任されました。日本マクドナルドには、新卒で入社されて、31年間ビジネスに関わってこられたと伺っています。まずは、どうして日本マクドナルドで働くことになったのか、その経緯を教えていただけますか?

高校生の時、卒業したら大学に進学するかどうか、迷っていた時期があります。家が裕福ではなかったので、母にこれ以上苦労をかけるのは申し訳ないと思ったからです。しかし、スポーツばかりしていた世間知らずの高校生が社会に出て何ができるのか、という不安がありました。そこで結局、大学進学を決心しました。そのためには、入学金と授業料が必要です。でも、母親に「学費を出してほしい」とは言えず、逆に「俺は大学に行く。でも、一切金銭的な面倒はみなくていいから」と宣言しました。そこで、学費を貯めるために、日雇いバイトを始めました。

私は大阪出身ですが、当時の大阪は地下鉄の工事が盛んで、日雇いの肉体労働の仕事はいくらでもありましたし、当時のお金で日給8000円という高額な賃金がもらえました。そうした仕事でコツコツと入学金を貯め、無事、大学に入学。しかし今度は、授業料を稼がなければなりません。工事の仕事は夜間に行われることが多いですから、昼間はどうしても寝てしまいます。履修期間が終わって、実際の授業が始まってみると、「このまま続けるのは難しいかもしれない」と思うようになりました。そこで、細切れの時間で働けるところはないかと探して見つけたのが、マクドナルドのアルバイトです。マクドナルドなら、夜の店舗の片付けで2時間から働くことができたのです。金額は日雇いバイトと比較したら遥かに少ないものでしたが、細切れの時間をお金に変えることができるのはありがたい話でした。これが、マクドナルドとの出会いです。

― マクドナルドでは、大学卒業まで働かれたのですか?ずっと短時間のアルバイトを?

最初は夜の片付けの2時間ということで働き始めたのですが、そんな短時間で単純に思える仕事でも、実に丁寧に教えてくれることに驚きました。その当時から教育システムがしっかりと確立していて、チェックリストに従っていくと、ちゃんと仕事ができるようになっていました。途中、自分がどこまでできていて、どこまでできていないかも、はっきりとわかる。それが面白いなと思うようになって、営業時間内に片付けの準備をする仕事も引き受けるようになりました。そうなると、実際に店舗で接客をしているアルバイトの人たちと接するようになります。彼らの話を聞いていると、接客の仕事も面白そうだなと。そんなふうに、マクドナルドでの仕事の幅を拡げていきました。

卒業の頃には、アルバイトのトップに。迷った末に、日本マクドナルドに入社

― 昼間は学校で、授業が終わったらマクドナルドでバイトとなると、日雇いの仕事が入れにくくなりませんでしたか?

そうですね。そこで、交通量調査のアルバイトをするようになりました。当時は高度成長期だったこともあって、そうした仕事が結構あったのです。日雇いほどではないものの、日給5000円くらいはもらえました。最終的には交通量調査とマクドナルドのアルバイトで、授業料を払うようになっていきました。卒業する頃には、アルバイトの中でトップになっていて、時給も上がり、店も任されるようになっていました。

― そのままマクドナルドに入社を?

大学では地理学を専攻していましたので、そこで学んだことを活かす仕事に就くつもりでした。実際、航空測量の会社から内定をいただいていました。ただマクドナルドで人と関わる仕事がとても面白く感じていて、自分はずっと測量をしていくという道でいいのか、迷いが出てきてしまったのです。航空測量は、突き詰めれば風景と数字と分析。人との関わりはあまり期待できません。そんな話を当時の店長にしたところ、「じゃあ、うちの会社を受けてみたらどうか」という話になりました。最終面接の担当が当時の営業本部長だったのですが、「君はアルバイトのトップをやっているから、すんなり入社できると思っているのか」と、かなり厳しいことを言われました。これまでの経験に甘えた部分が見え隠れしたからだと思いますが、それでも、内定をもらうことができました。その時点で、「マクドナルドでやっていこう」と決心しました。

― マクドナルドに入ってからは、どんなお仕事を?

まずは店舗勤務です。店舗での仕事は、人を採用して、教育して、集客をして、接客をして、の繰り返しです。そこで一連の経験を積んで、次は店長。その後、スーパーバイザーとして8店舗ほどの取りまとめを任され、その後大阪のトレーニング室を担当しました。その後、統括スーパーアドバイザーとして、京都・滋賀の70を超える店舗をマネジメントしました。約4年ほど担当した後、「Made for you」という、新しいオペレーションを全店舗に展開するというプロジェクトが立ち上がります。これまでのやり方を大きく変えることになりますので、意識変革が必要となります。そこで、西日本全域に新しいオペレーションをインストールする責任者に抜擢されました。

― 西日本というとどの範囲になるのですか?

滋賀・京都以西、沖縄まで、すべてが対応範囲でした。「Made for you」の基本的なインストールマニュアルはあったのですが、実際に進めるにあたって必要だと思うことを独自に追加していったところ、チェックリストは1000項目を超えるほどになりました。そのリストを使って、徹底的にオペレーションのレベルを向上させていったのです。この仕事を通じて、レベルの高い店舗を作っていくことの醍醐味を味わいました。そのプロジェクトが成功したとき、当時の営業部長から、次にどんな仕事がしたいのか、と聞かれました。それまで直営店にしか関わっていませんでしたので、「フランチャイズに関わりたい!」と言って、フランチャイズ店のマネジメントに携わることになりました。

「儲けることだけを考えましょう」 フランチャイズ店舗の質を上げる仕事の醍醐味を味わう

― 直営店とフランチャイズの大きな違いは、どういうところにあるのですか?

フランチャイズのオーナーは、個人事業主。売上を上げて、利益が欲しいわけです。そのため、短絡的な結論に飛びついてしまう人も出てきます。私が初めてフランチャイズの店舗に行ったときは衝撃的でした。当時、ハンバーガーは作ってから10分しか置いておけないというルールがあって10分経過したものは廃棄するのが鉄則。しかし、その店舗では、午前中に作ったアイテムが、昼過ぎまで普通に置いてあるではありませんか。そこで私は、10分以上経過しているアイテムを、20個も30個も、一気に捨ててしまいました。1個の原価は決して安くないですから、当然、オーナーさんは怒りますよね。それでも、そんなことを続けていたら、お客様は離れていきます。その点をわかっていただかなくてはなりません。そこで、「これは理解して頂くための投資です。儲けるために必要な投資だから、捨てたのです。これからは、どうやって儲けていくのかだけ、考えましょう」と、粘り強く説明をしました。本来、フランチャイズオーナーをコンサルティングする時には、財務の話、P/Lとかバランスシートの話をしなくてはいけないのですが、それよりまず大事なことは、あるべきオペレーションをきっちりとできるようになることだと考えたからです。ですから、まずは売り上げを上げることを考えましょう、と。そのために必要なオペレーションを徹底していきましょう、というアプローチを取りました。「Made for you」のシステムもしっかりインストールして、店舗のレベルを上げていきました。ある店舗は、月400万円の売り上げを、700万円まで伸ばしたりしました。そうなると、オーナーさんは喜びます。そして更に私の提案を聞いてくれるようになる。1年間でしたが、興味深い経験をすることができました。その後、経営企画室に異動して、経営全体に関わる仕事に就きました。

 

「どんなバスからどんなバスに乗り換えるのか」 596店舗の店長ひとりひとりに自分の言葉で伝える

 

― 原田前社長が社長に就任したときには、どちらに?

営業部長でした。最初は中央地区を見ていましたが、その後、関西地区全域、北海道、北陸、長野、静岡で、569店舗を管轄しました。当時原田さんは、皆が変わらなければいけない、というメッセージを盛んに出していました。よく言われていたのは、「今までのバスを降りて、新しいバスに乗り換えるんだ」と。ただ、この話は、一般の社員が聞いてもバスの意味がわからないんじゃないかと感じていました。そこで、店長一人ひとりが自分のこととして理解できるように、より具体的に話をかみ砕いて伝えるようにしました。

つまり、こういうことです。「藤田田(日本マクドナルド初代社長)のバスは、行く先を社長自ら耕して、舗装もしてくれて、走り易い道を作ってくれた。だから、バスの中で寝ていたりしても、頭をぶつけたり、外に放り出されたりする心配はなかった。しかし、今度のバスは窓もない。ましてや、あらかじめ道が用意されているわけでもない。荒れた道が待っているかもしれない。ぼんやりしていたら、窪地にはまったバスから放り出されるかもしれない。だから、いつも意識をしっかり持って、シートベルトを締めたり、つり革に掴まっている必要がある。そんなバスに乗り換えるんだ。」これを、569人の店長一人ひとりに、大体ひとりに2時間くらいかけて自ら説明していきました。とても時間のかかる仕事でしたが、いくつかの意味で大変よかったと感じました。
ひとつは、同じように話をしているのに、店長によって理解度に大きな差があることがわかります。この活動を通じて、一人一人のレベルを知ることができました。もうひとつは、私にずっとついて回っていた直属の部下は、何回も何回も同じ話を聞くことになります。7回8回と聞いていると、だんだん自分でも話せるようになるんですね。彼ら自身もトップのメッセージを伝えることができる人になっていきました。そして、もちろん、店長が、トップが変わったことで自分たちは何を考えなくてはいけないのか、どうすべきなのかを、自分の事として考えられるようになりました。

その後、地区本部長になり、取締役になり、最後は全直営2500店舗を統括するようになりました。

3つのキーワード 。「意図ロジック」「アイディアキラーの撲滅」「適材適所」

― そうして、シダックスを経て、バーガーキングの社長になられたわけですね。本当の「現場」から、ひとつひとつ階段を上って経営者になられた村尾さんからご覧になって、組織として成功していくために、求められる人材像とはどういうものですか?

常に意識している3つの言葉があります。「意図ロジック」「アイディアキラーの撲滅」「適材適所」です。
まずは「意図ロジック」から説明しましょう。多くの企業は、トップに社長がいて、部長がいて、係長がいて、平社員がいるという縦組織ができています。その縦組織に従って、情報が上から下に流れていく際に、単に上の人から言われたことをそのまま下に伝えることを言います。部長が、「社長が●●●といっているからやってくれ」と言って、部下が「どうしてですか?」と質問しても、「とにかく社長がそう言っているんだから」と、言われている内容ではなく、「言っている人」を前面に出して情報を伝えているということです。つまり、間に入っている管理職が単なるメッセンジャーになっている、という状況。そうであれば、社長が直接伝えればいいことです。間に人が入る意味がありません。私はこれを「人ロジック」と呼んでいます。

それに対して「意図ロジック」とは、上から流れてきた情報の意図を自分なりに100%理解して、自分の言葉にして伝えていく、ということです。上司が部下に情報を伝えるときには、上司の名前や役職は出てこない。「私は戦略を●●●と理解している。だから○○○に取り組むのだ」といった風に、具体的に、自分の言葉で、相手が理解して行動レベルに落せるように伝えていくことです。そこまで意図を理解していれば、部下にどんな質問をされても困ることはないでしょう。このことができない人材は、マネジメントの立場になるべきではありません。「人ロジック」でしか考えられない人は、上位職には必要ないのです。

次に「アイディアキラー撲滅」。「できない」「無理だ」とか、「前例がない」という言葉を一切使わないようにする、ということです。考え抜いて、トライしてみれば、「無理だ」という結論になることもあるでしょう。しかし、何か変化を起こそうとしたり、新しい試みに取り組もうという際に、最初から、「無理」とか「前例がない」といった考え方だと良い結果が出来るわけはないのです。チャレンジをして、失敗したのであれば仕方ありません。二度と同じ失敗をしないためにはどうしたらいいのか、失敗から学べばよいのです。

「CAN DO」「WANT DO」「MUST DO」の円の重なりが「適材適所」

最後に「適材適所」です。例えば弁護士資格を持っている人が弁護士に、とか、簿記1級を持っている人を経理に、といったように、仕事と人を公的資格に基づいてつなげられれば良いですが、会社の中の仕事はそう単純にはいきません。例えば、アシスタントマネジャーに適した人材はどんな人なのか。では、そこで合っていると判断された人が一生アシスタントマネジャーかというと、そんなことはない。成長したら店長にもなるし、スーパーバイザーにもなります。私は、それぞれの人材がどういった場所で活躍できるのかを考えるときに、3つの円を使っています。ひとつ目が、「CAN DO 自分能力(できる事)」、二つ目が「WANT DO 自分のやる気(やりたい事)」、三つ目が、「MUST DO 会社戦略(やって欲しい事)」です。この3つの円が重なった部分が、その人材としての総合力であり、会社で能力を発揮できる「適所」だと考えています。

図1.jpg たとえば新入社員。多分、「WANT DO」はとても大きい。でも、「CAN DO」は少ないし、「MUST DO」はよく理解できていない。だから、重なりは偏って小さくなります。それが、彼のその時点の総合力であり、それに見合う仕事が適所ということです。もっと上の仕事をしたいと思ったら、「CAN DO」できることを増やし、「MUST DO」会社の戦略をもっと深く理解すればいいわけです。そうすると重なる面積が拡がって、総合力も「適所」も変わってきます。このことを理解して、それぞれの円を拡げていく努力を続ければ、アシスタントが店長になるし、店長がスーパーバイザーになる。この考え方は、本人にとっては自己評価と行動の基準になるし、上司にとっては部下の評価とマネジメントのツールとなります。

ただ、「MUST DO」については、注意が必要です。私が一店長だった頃、当時の社長の藤田田が、「会社はこうするんだ」「売り上げはこうだ」と言っていても、結局は自分の店のことだけを考えていたと思います。そういう意味では、当時の私が理解していた「MUST DO」は、会社戦略レベルではなく、店舗戦略レベルだったのです。店舗としての結果だけを出していても、最終的に会社が成長しなければ意味がありません。「MUST DO」の主体は、あくまで「会社」で考えること。しかし、多くの人の発想の元が、自分の店や自分の所属する組織に留まっているのではないでしょうか。それを「会社」に変えていく必要があります。時々、「私はこんなに頑張っているのに、どうして部長になれないんですか?どうしたらなれますか?」と聞いてくる人がいますが、そういう時は、「本当に会社戦略を理解している?」と聞き返しますね。大抵の人が、理解できていません。

私はこの話を20年以上していて、実際のマネジメントに使っています。これらの円の重なりがなくなった時は、会社から必要とされなくなる時です。逆に、究極はすべての円が重なって、どんどん大きくなっていくということです。そうなれば、おのずとポジションは上がっていくし、会社も成長していくことになります。

プロパー社員が確実に上に上がっていけるような人材マネジメントを

― バーガーキング・ジャパンでも、3つの円の重なりが多い人を育てていく、ということですね。

もちろんです。ただ、私自身も経験を積み重ねて徐々に円を大きくし、重なりの面積を拡げていきましたから、一朝一夕に育つものでもないと感じています。一番早いのは、外部からそうした素地がある人を採ってきてしまうことですが、そうするとプロパー社員のモチベーションにはよい影響を与えません。残念ながら、これまでの社長は、私も含めて皆外部から来ています。プロパー社員からすると、「また外部からトップがきた。我々には上に上がっていく道はないのか」と見えてしまっているかもしれません。それでは会社全体の士気が下がってしまいます。私はハンバーガービジネスに30年以上関わってきましたから、いろいろな場面で直接アドバイスできます。しかし、それを続けていたら、現場のマネジャーたちは育ちません。いかに自分たちで気づいて、そこから学び、成長していけるか。そうした関わり方をするように気をつけています。昔はすごく短気でしたが、今は随分我慢強くなりました(笑)。今は時間をかけてしっかりと人材を育てていきたいと考えています。

― 最後に、バーガーキング・ジャパンの今後の日本での展開についてお聞かせください。

現在、日本で10年目、100店舗になりました。40年以上日本で展開してきて、2900店舗を超える日本マクドナルドとは異なるステージにいます。ただ、我々には直火網焼きという、味にこだわった強みがあります。これをどうやって日本人にわかってもらうかが一つの鍵でしょう。実は日本人の唾液は、欧米人と比較して少ないんです。ですから、バンズは、しっとりふっくらの方が美味しく感じます。Think global, Act local。直火焼きを始めとするグローバル全体として強み・インフラを最大限に活かしながら、バンズに象徴されるようなローカルへの対応を、バランスよく展開していきたいと考えています。

― 本日はどうもありがとうございました。



取材・文 大島由起子(当研究室管理人)/取材協力:楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

(2016年8月)

破壊と創造の人事

無料メール講座

イベント・セミナー一覧一覧

気になるセミナー・イベント、研究室管理者が主催するセミナー・イベントを紹介します。

スペシャル企画一覧一覧

特別インタビュー、特別取材などを紹介します。

ご意見・お問い合わせ

Rosic
人材データの「一元化」「可視化」
「活用」を実現する
Rosic人材マネジメントシリーズ