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「職務経歴書もミッションステートもない? 進化した組織のあり方を考える」

『ティール組織』フレデリック・ラルー・著・英治出版  2500円

- 評者

大島由起子 インフォテクノスコンサルティング株式会社
Rosic人材・組織ソリューション開発室/
人材・組織システム研究室 管理者

概要

人材育成や組織改革のコンサルタントとして10年以上の経験を積んできた著者は、組織ピラミッドのトップを務めることがそれほど充実したものではないことに気がついてしまったことから、現代の組織のあり方が限界に近づいてきているのではないか、という強烈な問題意識を持つようになります。そして、現在人材育成や組織改革のために取り入れられている様々な処方箋は、実は、改善をしているどころか、状況を悪化させている可能性が高い、という衝撃的な事実につきあたります。

そこで、著者はまず、進化論と発達心理学の観点から、これまで人類が生み出してきた組織形態の進化を整理していきます。
組織は、「神秘的」>「衝動型」>「順応型」>「達成型」>「多元型」と進化を遂げ、現在、「進化(ティール)型」の組織が、生まれ始めているというのが、著者の考察です。

進化型組織は、生命体としての組織と言い換えることもできる性質を持ち、業態や規模に関わらず世界に散見されるといいます。そうした組織を調査していくうちに、それぞれの具体的な運営方法にはバリエーションが見られながらも、共通項として現れてきたのが、「自主経営」「全体性」「存在目的」でした。

本書は、調査した様々な組織の具体的な事例を紐解きながら、コアとなる3要素の本質について説明をしていきます。その上で、実際に進化型組織を創造するために何が必要なのか、どうしていけばいいのかを丁寧にまとめていきます。

ただし、著者は、本書を、厳格なリストを示して、その実施を勧めるような教則本となるように目指したのではないと言います。そうしたマニュアル(絶対的なお手本や指示)に沿っていくようなアプローチ自体が、「進化型」のあり方と相容れないからでしょう。実際に、パイオニア的な進化型組織の事例を読んでいくと、皆一様に同じかたちで運営されているわけではないことがわかります。本書に提示される概念と事例を、個人として、組織として受け止めて、それぞれの内側から、自らの新たな存在の仕方、運営の仕方を生み出すことが読者に求められていると言えるでしょう。

目次

第一部 歴史と変化
  第1章 変化するパラダイム -過去と現在の組織モデルー
  第2章 発達段階について
  第3章 進化型(ティール)

第二部 進化型組織の構造、慣行、文化
  第1章 三つの突破口と比喩
  第2章 自主経営/組織構造
  第3章 自主経営/プロセス
 第4章 全体性を取り戻すための努力/一般的な慣行
 第5章 全体性を取り戻すための努力/人事プロセス
 第6章 存在目的に耳を傾ける
 第7章 共通の文化特性

第三部 進化型組織を創造する
 第1章 必要条件
 第2章 進化型組織を立ち上げる
 第3章 組織を変革する
 第4章 成果
 第5章 進化型組織と進化型社会

お勧めのポイント

550ページを超える本書を読みながら、正直なところ、進化型組織に移行できる企業はごくごく少ないだろう、と思い続けました。著者自身、組織のトップが心から本気にならなければ、組織全体を進化型にすることはできないと言っています。そして、進化型組織になるということは、トップやリーダーの役割を果たしていた人たちが、それまで持っていた「指示系統」「権威」という武器を全面的に手放すということであり、心理的に受け入れがたい決断を迫るものでもあります。だから、ますますハードルは高まります。実際に、CEOが変わった途端に、あっと言う前に従来型組織に戻った例も、生々しく紹介されています。

ただ、同時に、これまで空気のように感じてきたこと、当然のように行動してきたことが、意外に当たり前ではなく、進化型組織の土台となっている考え方の可能性の大きさを感じながら読み進めてもいました。

実際に、進化型組織のトップランナーと言えるであろう、ドイツで医療看護サービスを提供している「ビュートゾルフ」は、設立当時10名だった組織を、7年間で7000名の組織に成長させていきました。売り上げや経費の計画を持たず、組織全体に対する人事機能なども持たないなか、健全な財務体制を維持していると言います。そんなことを可能にしている考え方やマインドセットには、傾聴すべきヒントが詰まっていないわけはありません。

例えば、

「進化型組織では、意思決定の基準が外的なものから内的なものへと移行する」

「収益性や成長、市場シェアよりも、存在目的こそが組織の意思決定を導く」

「意思決定の基本はコンセンサスではない。全員が心から賛成する完璧な解決策など存在しないから」

「重要なことは、全員を平等にすることではない。従業員全員がそれぞれを自分の領域で最も力強く、最も健康になることを見つめることだ。」

「自由(自主経営)は責任を伴う。様々な問題や辛い決断、難しい判断を経営陣に丸投げし、面倒なことを管理職に頼むことはできない」

「私たちが職場に信頼を求めるのであれば、自分をもっとさらけださなければならない。一緒にボーリングに行けば楽しい息抜きになるかもしれないが、それはあくまで表面的な関係を維持するだけだ。
 ・・・物語を語ることだ。自分の物語を話すことは、人とまとめる力がある」

「職務記述書に記載できない価値を失わないために、職務記述書を作成しない」

「成功は幸福と同じで、追い求められて得られるものではなく、結果として生じるものである」

「ミッションステートを書かないことで、目的は進化する。進化し続ける」

少し、精神世界的なニュアンスを感じるところもあり、受け入れることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。しかし、著者自身が説明するように、進化型組織を、「人と組織のエネルギーを健全に生み出し、エネルギーの無駄遣いをなくし、そのエネルギーを賢く消費するための、現在考えられるあり方・考え方」として捉えると、その合理性が立ち上がってくるように思います。

最後に、日本で進化型組織の考え方を拡げようと活動されている方の解説があります。そこでも指摘されていますが、私も、日本的と言われる組織文化には、進化型組織の土壌となる要素が潜んでいるような印象を持ちました。

実際に、以前記事で知った、カワムラモータースというHONDA車の販売代理店の組織のあり方は、おどろくほど、本書に提示された「進化型」組織に類似しています。そして、業績と社員の満足度を高いレベルで達成しているのです。
記事:店長を廃止して全員が主役になった自動車ディーラー

今の組織に閉塞感を感じている方には、一度こうした考え方に自分がどう反応するか、試してみる価値のある一冊だと思います。

(2018年3月1日)

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