2021 / 02 / 09
第159回 「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか?
証券取引委員会(SEC)が2020年8月に、上場企業に対して「人的資本の情報開示」 を義務化したことが、日本の企業人事界隈で話題になっています。 「さあ、大変だ!」「人事も意識を変えていかなければならない!」という論調が 多い印象を受けています。その流れの中で、ISO30414(内外部に対する人的資本レポートのガイドライン)を どう扱っていけばいいのか、不安に感じ始めている方も増えているようです。
2000年以降、会計の世界でも似たようなことが起きていたことを知りました。 それまで国ごとにバラバラだった会計ルールを、基準を作って統一し、 国を超えて比較可能なものにしよう、という動きです。2001年に国際会計 審議会が設立され、2003年には国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)の第一号が発行されます。
2005年にはEUが、アジアでも2011年から2013年に適用が進むなか、日本では 2015年になるまでその適用について明確な態度を決めていなかったそうです。 2014年時点で、日本国内では、「IFRSになったら経営は大混乱」という 批判的な意見が少なくなかったといいます。
それに対して、公認会計士でコンサルタントでもある金子智明氏は、その著書 『ケースで学ぶ 管理会計』のなかで、多くの人が"前提"を誤っていると 指摘していました。
「IFRSは従来の日本規準とは考え方からして相当異なる部分があるのは事実です。 ・・・(誤っている)その前提はIFRSを経営管理に使うことです。・・・ (しかし)・・・IFRSの目的は、ボーダレス化した資本市場にける財務指標の比較 可能性の向上であり、そこで想定されている財務指標利用者は投資家だけです。
・・・企業内部の経営管理者にとっての有用な情報提供など、最初から考えて いないのです。IFRSに向かって、『経営が大混乱』というのは言いがかりで、 不満を向ける矛先が違います」
あくまで、新しい会計基準の目的は、比較可能性のための標準化(制度会計) であって、各個社の経営に踏み込むものではない。運用上(作業上)の混乱は あるかもしれないが、経営上の混乱などあるはずがない、というわけです。
会計的には、財務(制度)会計と管理会計の仕組みを別に構築すればよいだけ のこと、と看破します。("財管一致"についてのポイントも書かれていますが、 ここでは割愛)
これを読んで、SECが義務化した「人的資本の情報開示」や話題の「ISO30414」 にも、同じような混乱が起きる可能性があるのではないかと危機感を覚えました。
実際に、「国際標準のHRマネジメントへの大転換が起こる」といった言葉を 目にすることもあります。
もちろん、「カネ」と「ヒト」で本質的な違いもありますし、「ISO30414」は 「外部」に投資家だけではなく、採用候補者やコミュニティも含めています。 また、内部のステークホルダーへのレポーティングにもしっかりと言及しています。 ただ、言葉やイメージにとらわれてしまうと、結局、実効性のある活動につなが らない、というリスクが潜んでいることは変わらないように思います。
そこで、人材データ活用に関する、様々な言葉や流れを、今、構造的に理解する 必要性が高いと思い、セミナーを開催することにしました。
私たちも新たに取り組み始めたところです。今回提示する「試案」をたたき台に、 皆さまとブラッシュアップしていく第一歩にしていければと考えています。
【セミナー】
「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか? 真に「経営に資する人事」になるための試案・2021
セミナー詳細はこちらから
金子智明氏の『ケースで学ぶ 管理会計』、データを経営やビジネスに活用して いく考え方として、とても勉強になりますし、本質を突いたするどい突っ込みが 刺激的な一冊でもあります。「実効性のあるデータ活用をについて考えている」 「管理会計からデータ活用のヒントを得たい」という方、是非手に取ってみて ください。
『ケースで学ぶ 管理会計』 金子智明 同文館出版
(2021年2月9日)